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8.『クリプトクロム奇譚』part 1.

「ミドヴェルト殿、お久しぶりですな!」


「あ……どうもすみません、巻き込んでしまったようで……本当に」


「なになに! 空の上へのお誘いとは、このセドレツ・アッシャー=グネルクル・ド・ライセルベリーハイネ、光栄の至りでございますよ!」



 あの後、サリー船長からお誘いをいただいて、魔国を中心とした地上の国の代表団を宇宙船にご招待して世界会議を開催することになってしまった。外交のトップが来るから、各国ともかなり気合が入っている。


 セドレツ大臣も、なんだかいつもより上等な服を着て、他国の代表さん達に元気いっぱい絡んでいた。



「ミドヴェルトさん、お元気そうね」


「あ、ビスタベラ様、ご無沙汰しております」


「まあ他人行儀なこと、あなたには是非ビスタベラとだけお呼びいただきたいわ」


「それではお言葉に甘えまして、()()()()()



 妖精王様の婚約者としか聞いてなかったけど、ビスタベラさんは外交専門の人だったのね……


 アイテールちゃんの継母になる予定の妖精さんで、人間と大差ない大きさだから外交に向いてるのかもしれないとは思うけど、妖艶な雰囲気が凄すぎて話しかけられると緊張する。ナチュラルにSって感じ。



「王女様はお元気かしら?」


「ええ、精霊女王様に師事されて、お強くなられましたよ」


「まあ、それは良かったですわ。たとえ短い人生でも、充実させたほうがいいに決まっていますもの」



 ビスタベラさんは、細かいことは気にしない系のオープンな人だと思う。ちょいちょい言葉がキツいけど、無駄な嫌味は言わないし、少なくとも私は虐められてない。ただ、真実を言葉にするから、たまにグサっと刺さることがあったりするだけなのだ。


 王城の中庭に集まった私たちは、天使のお迎えを待つ。この異世界を防御するシールドを解除する件はまだ保留で、このような行き来があるときだけ隙間を開ける感じになってるっぽい。案内役としてバルテルミさんがやってきて、私たちはひとりずつ光のチューブに入っていく。



「腕は胸の前で組んで、高所が苦手な方は目を閉じてください。向こうに着けば案内のものがいますから」


「そう、こんな感じです。光から体が出ないようにご注意くださいねー!」



 威勢が良かったセドレツ大臣は、ちょっと不安そうに自分を抱きしめながら挙動不審になっていた。



「大丈夫ですか? セドレツ大臣」


「だだ大丈夫ですぞ〜! もも問題などございませんですからな! ははは……」



 こりゃ問題あるな……


 私はバルテルミさんに頼んで、セドレツ大臣に付き添ってもらうことにした。宇宙でパニック起こして真空に放り出されたら、蘇生薬が役に立つかどうか怪しいものだ。こんなところで犠牲者が出たら、まとまる話もまとまらなくなってしまう。


 ほかの賓客を全員送り出して、最後に光の中に飛び込むと、逆スカイダイビングみたいな映像が目の前を流れていく。


 そういえば、フワフワ語はスマホを通しても理解不能だった。


 メッセージならわかるかなと思って、フワフワちゃんが私の部屋に遊びに来たときに、妖精王女のアイテールちゃんと一緒にメッセージを送り合ってみたのだが駄目だった。フワフワちゃんの手元を見てると「ムー」しか打ってなくて、何回説明してもうまくいかなかったのだ。


 それを見ていたアイテールちゃんは、私たちの駄目っぷりをしばらく眺めた結果、ひとつの結論に達した。



「おたがいに、あいてを()()()()におもえるのなら、まあそれでよかろう」



 妖精王女様の、名言のような匙投げ宣言を思い出していると、あっという間に宇宙船にたどり着いた。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「良かった……来てくれないのかと思いましたよ」


「お久しぶりです、サリー船長。ご招待いただいたからには、来ないわけにはまいりません」



 深酒やらかしの件については是非触れないでほしい……必死に社交辞令をこなして、私は自然な受け答えを意識した。


 サリー船長はいい人っぽいけど、見た目のイメージとは裏腹に何もかも顔と行動に出るというか、地上のお歴々には何かがあったとバレちゃってる気がする。見た目が冷静そうな天使だから、隣りであわあわされると目立ってしょうがない。


 あ……ビスタベラさんが完全に理解したみたいな笑顔を向けてくる。何を理解したんでしょうか? 絶対に誤解ですよ。



「それはそうと……会議の場を提供してくださりありがとうございます。地上では、なかなかまとまった意見が引き出せなくて」


「第三者視点で考えることができれば、ある程度の妥協点は見つかるでしょう。地上の皆さんのお役に立てれば光栄です」



 だんだん仕事モードになったサリー船長が、事務的な受け答えをするようになってきて、みんなが席に着いたところで会議の開催宣言がされた。議題は、天使の受け入れについて。


 はっきり言って中世文化が宇宙時代に強気発言できるわけないじゃん……と思っていたのだけど、そこは魔法世界の強みということなのか、割と対等にやり取りしている。



「我々は、戦争を未然に防ぐために話し合いに応じることにしたわけであります。まずは双方の意志確認をいたしまして、平和裡に決定を下すことができるよう努力するものであります」


「私は議長を務めさせていただきます、魔国の外交専任官セドレツ・アッシャー=グネルクル・ド・ライセルベリーハイネにございます。皆様お見知り置きを」



 次々と段取りに沿って会議が進んでいき、小さい話から大きな揉め事まで、お互いの意見を戦わせていく。


 休憩時間になって席を外すと、サリー船長が話しかけてきた。



「ミドヴェルト……さん、ちょっといいかな?」


「ミドヴェルトだけでいいですよ、何のご用でしょうか?」


「すまないね、実は……もし可能なら次は我々が地上に行きたいと思っているのだが、あなたから議題にあげてもらえないだろうか?」


「え、私が……ですか?」


「やはり、いけないだろうか?」



 まあ確かに、天使さんたちが自分から行きたいって言い出したら、ちょっとアレだけど。お誘いって形になれば、話はスムーズかもしれない。この会議で地上の皆さんがいい感じに受け入れムードになれば、お返しに友好交流がはじまる予感……?



「わかりました。ちょっと提案してみますね。ただし、午後の会議もいい雰囲気で乗り切ることが条件です。譲れるところは譲って、どんどんポイント稼いでおいてくださいよ!」


「わかった、感謝するよ」



 会議の後半は、割とどうでも……じゃなくて、各国が命運をかけたギリギリの削り合いが続いた。いつも意見が通らない小国が、何とか天使さん達の後ろ盾を得ようとグイグイにロビー活動を展開したりして、天使の文官さん達にかなり負荷がかかっているようだった。


 それでもサリー船長は私の条件をかなり飲んでくれて、地上に戦争が起こらない程度に小国の味方をしたり、中立を保ったりしてくれたようだった。


 さあ、これだけ天使さんが頑張ってくれたのだから、お返しに領地にお呼びしたいと考える王侯貴族は多いでしょう。だけど、抜け駆けだと思われるといろいろ面倒だから、誰も肝心なことには触れることができないっぽい。私の役目は、地上の皆さんが言いたくても言えないことを代弁するだけの簡単なお仕事だ。



「私からもひとつよろしいでしょうか?」


「はい、ミドヴェルト殿、ご発言を」


「今回このような場を設けてくださったソードフィル・フォース・ガーディアンズ所属の探索部隊の皆様、またウツロブネU2-6203の船長サリフェンリーザ様に改めてお礼申し上げます。ありがとうございます」



 私が軽く礼をすると共に、周囲からパチパチとまばらな拍手が聞こえてくる。



「このご尽力に代わるお返しができるかわかりませんが、次回は是非、船長以下探索部隊の代表団を地上にお招きすべきであると提案いたします!」



 最後のほうは、みんなが発言し出したり拍手したりして、私は大声を張り上げる羽目になった。


 みんなスタンディングオベーション状態になって、議長も「静粛に! 静粛に!」と形だけの注意をしながら頭の上で拍手をしている。


 立ち上がったサリー船長は、私が教えた通り胸に手を当てて軽く会釈をし、全方位に挨拶を終えると神妙な顔で答えた。



「友好のために謹んでお受けいたしたい、ありがとう」



 私の提案は、満場一致で可決されたのだった。







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