7.『教育係は伊達じゃない』part 7.
「また勝手なことをしてくれたと聞いたぞ?」
みんなで無事魔国に戻ると、私はさっそく王様に呼び出され、今は王城の謁見の間にひとりぼっち状態でお説教タイムだ。
正直、凱旋パレードものの働きをしたようなつもりでいたんだけど、やはり根回しなしでは迷惑がられてしまうのか。
「勝手と言いますか……巻き込まれ被害を受けたと言いますか……」
ちょっと私ばっかり責められるの何で? そっちだって手のひらクルックルだったくせにさぁ! といったような気持ちが過りつつ、私は不機嫌丸出しでブツブツと言い訳めいた言葉を呟く。
すると王様は、珍しく苦虫を噛み潰したような顔をして本音をぶっちゃけはじめた。あれれ、いつもはすべてが他人事みたいに飄々としてるのに。もうやだパパったら。嘘です調子こきました本当に申し訳ございませんでした。
「確かに、余も無力だったと認めよう……しかし精霊女王が相手ではさすがに無理というものだ」
「そう……かもしれませんね」
「それで? マーヤークに聞いたが、また新しい魔法を覚えたのか?」
「はぁ……さすがお耳が早いですね」
「何なのだ、そのスマ……フォとやらは」
王様、図らずも正しい発音に近づくミスを犯す。仕方がないのでスマホ魔法を発動し、王様にもスマホを1個献上した。
いろいろ弄ってみた結果、魔力を持ったものが握るだけで、自然に充電されて使えるようになるっぽい。
あと、私が認可して渡したスマホはその人のものになり、自然に連絡先もリンクされる。さすが便利。
「どうでしょう、一番下の一番左を指でトンってしてみてください。で……電話したい人の名前をトンって……そうです、あ、繋がりました。もしもしぃ? あはは、そうですこれが電話って言うんですよー。……こんな感じです。切りますね」
「何と、これは便利な魔道具だな」
「ほかには……文字を送ることもできるんですけど……まあこれはおいおいですね」
「おいおいとは何だ、今説明してみよ」
えぇ? そんな一気に新しいこと覚えらんないでしょ、どうせ……とはいえ王命とあらば従いますけど……軽くメッセージの送り方を説明してみたけど、おじさんズは理解できないようだった。わかんないくせに話だけは聞きたがるんだよね……プライドが許さないとかなの??
とりま電話さえ使えりゃええやろって感じに丸め込んで、念のためカメラの使い方だけ教えておいた。
SNSは……この世界じゃいらんだろ。私が渡す分しかないから母数も少なすぎるし……
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「えー? いーなー! 俺もほしーっ!!」
「言うと思ったからお渡ししますよ。この機種、使い方わかります?」
「あー……OK、これなら大丈夫っス!」
ライオン公爵様は、話を聞きつけてすぐ私の部屋に凸って来た。
人の部屋のソファに当たり前のように寝転んでいるが、ちゃんと姫に断って来たんだろうな?
転生時期がだいぶ前なんだけど、公爵様はスマホ世代みたいで、渡したものを当たり前のように使いだした。
くっ……私より使いこなしてそう……
転生前は長いこと入院していたという公爵様だけど、ベッドでゲームとかしてたのかな?
画面に集中して無言になっている姿を見ると、やっぱ子供だなと思ってしまう。
「ねーミドヴェルトさん、これほかに誰が持ってるんスか?」
「えーっと……王様とベアトゥス様と、メガラニカ王と……」
「えぇっ?! あいつも?!」
「あとはロンゲラップさんですね」
まあ、ロンゲラップさんの場合、連絡目的というよりは分解目的なように思えてならなかったが……
それにメガラニカ王は、さりげなくピッチ世代だったみたいで、スマホの使い方を教えるのに結構苦労したのだ。
あの人「IT」ってスキル持ってるから、こういうの慣れてるかと思ってたのに「なにこれぇ……! わ、わぁ……マジでこんな……わぁ……!」と、何やら小さくて可愛いもののような声をあげていた。
そんでもって、話をしているうちに「えー! じゃあピッチ世代ってやつですねぇ」とうっかり私が口走ったら、そっから急に口聞いてくれなくなったんだった。めんどくせぇお年頃だぜ……
だけど人間の皆さんをまとめるためにも、メガラニカ王の確認を取る必要が出たときにも、連絡手段があったほうがいいから渡すほかない。公爵様にも、領地に残った人間の皆さんたちのことを話し合うためにスマホが必要なはずだ。……と思う。このゲーマー君が私からの通知を無視しなければの話だけどね……
「これから女子会に行って女性陣にもお渡しする予定ですので、ちゃんと姫様と連絡先交換しといてくださいね?」
「モチっスよ! 行ってら〜!」
「……まったくもう、部屋から出て行くときは、ちゃんと鍵かけてくださいね!」
「大丈夫、大丈夫! 任しといてくださいよ〜!」
ほんとに大丈夫か? ……夫婦関係に支障をきたさない程度にして欲しいものだ。
ゲームに夢中で、私の部屋に居残るつもり満々のライオン公爵様を見ながら、何だかホムンクルス姫に申し訳ないことをしてしまったような気がした。だが、もう遅いので気に病んでも無駄である。忘れよう……公爵様だって大人なんだから、ピンチは自分で切り抜けてほしい。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「これがスマホですのね……?」
「彼が持ってたの、ちょっと見せてもらったけど、結構小さいのね」
裏庭のガゼボにいつものメンバーが集まる。ホムンクルス姫とヒュパティアさんは、はじめて見るスマホに興味津々だ。
ベリル様は、あれからちょっと私に疑惑の目を向けてくるようになって、青髪悪魔大先生のアトリエに篭っている。たぶんスマホの中身を検分しようと思ってるんじゃないかな。私が天使と変に繋がってるんじゃないかと疑ってるから。マルパッセさんは戦々恐々だろうけど、頑張ってほしい。
執事さんは、これまでと変わらぬご愛顧を頂いてはいるものの、スマホは要らないとのことだった。まあ、直通ペンダントがあるし、そこまで不便を感じてはいない。
「ムー! ムー!」
「あ、本当だ、フワフワちゃんの肉球にもちゃんと反応してる!」
「では王子殿下も一緒に使えますのね!」
「ムー!」
「あら、ウフフ、嬉しそうね」
フワフワちゃんは、肉体言語派だしスマホなんか興味ないかと思ってたけど、みんなが持ってるのを見たら欲しくなっちゃったようだ。ムームー言ってるだけの通話聞かされてもなぁ……と思ったけど、私から連絡取りたいときはいいかもしれない。それに、フワフワちゃんがどんな写真撮るのかとかも知りたいし、考えてみたら文字化されたメッセージなら意思疎通ができるかも。
どうして今まで筆談すらしてこなかったんだろう?
ふと、アイテールちゃんを見ると、少し暗くなっている。
「どうしました? 王女様」
「われは……あまりおもいものをもってとぶことができぬゆえ……」
「あぁ……そうですよね。でもお部屋に置いておいて、たまに使うのなら可能なんじゃないでしょうか?」
「われのぶんも……あるのか?」
「もちろんですよ! こちらです!」
私は見せるだけのつもりで、アイテールちゃんにあらかじめ魔法で出しておいたスマホを差し出した。
すると引っ張られるような感覚があって、ジニーエフェクトみたいな感じでサイズがどんどん縮んでいく。
あっという間に14cm×6cmくらいのスマホが4cm×2cmぐらいになって、妖精王女ちゃんの手のひらに収まった。
「わわっ、うそぉ?!」
私の変な声で、姫とヒュパティアさんとフワフワちゃんが一斉に振り向いた。
「ムームー!」
「大丈夫ですか?」
「あ、ご、ごめんなさい……何でも……っていうか駄目なことじゃなくて」
「われも……つかえるようじゃな!」
「あら、フフ……よかったですね!」
「これでたくさんお話しできますわ!」
裏庭のお茶会は、賑やかなスマホ教室のようになった。
夜になると、さっそく女子達からカラフルなメッセージが送られてきた。夕食終わりでやっとスマホ弄りができる時間になったらしい。アイテールちゃんは妖精の絵文字がお気に入りのようだ。ホムンクルス姫はリボン連打しすぎ。公爵様からゲームに誘われたらしい……共犯にしちゃえば喧嘩にならないってか。ヒュパティアさんは、なんかすごくキチンとしてた。
後は、なぜかドヤったメッセージがメガラニカ王から送られてきて、使えるアピールしたいのかなぁ? と数分悩んだ。
公爵様からは、姫をゲームに誘った報告。ゲームに夢中になって彼女に捨てられそうになったテニス選手の話を、脚色たっぷりに返信しておいた。
ベッドに寝転びながらスマホを弄っていると、まるで現実世界にいるみたいな感じ。
あっちにいた頃は、どこか遠くの見知らぬ世界に行ってみたいと思ってたけど、何だか今は現実世界も良いとこいっぱいあったような気がする。
……みんな元気かな……?
じんわり視界がぼやけてきたとき、また新しいメッセージが来て、確認するとベアトゥス様からだった。
『月が 出ている 空 見上げたし』
なんか電報みたいなカタコトで可笑しい。
言われるままに窓から月を見上げると、まんまるでいつもより光り輝いていた。
衝効果ってやつかな……? 光源から十字に伸びる光が尋常じゃなく長い。
「ほんとだ、きれいですね……っと。送信」
今、一緒に月を見てたりするのかな?
スマホデートも悪くないね。




