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7.『教育係は伊達じゃない』part 6.

「もし良かったら、食事でもしませんか?」


「え? 食事……ですか?」



 人体実験じゃなかった良かったああぁぁあぁ!!


 食事ぐらいなら別にいいかなー? サリー船長もいい人っぽいし、宇宙メニューにもちょっと興味ある。



「食事だけでしたら、喜んでお受けいたします」



 人体実験は拒否しますけどね!!


 しかし、天使さんたちはみんなメカだと思ってたのに、ご飯ってあるんだ……と疑問に思っていたら、船長を含めた上層部の数人は「強化人間」という種族らしい。元は人間だったので、ご飯も普通に食べるのだとか。


 私の記憶にある強化人間ていうと……犯罪者が実験的に改造されて、なんか持て余した力を発散できずに反乱を起こして大変なことになってるイメージだったけど……こっちの強化人間さんはセレブが整形の先に進んだみたいな感じで、みんなノーブルな雰囲気だった。


 何を強化したのかはあんまり聞けなかったけど、内側から光る陶器のようなお肌と、真っ白な天使の羽は強化の賜物か。あとみんなプラチナブロンドの髪を長く伸ばしてて、大精霊様みたいな雰囲気がある。その強化人間の姿を模して作られたのが実働部隊の天使さん達ということらしかった。てっきり全員AIかと思っていたけど、人間も居たとは驚きだ。


 そんなわけで船内も結構普通に空気があるんだけど、わざわざ与圧だなんだとアナウンスしてくれたのは、私がビビって乗船をやめないようにするためだったみたい。知らないところでいろいろ気を使われていた。



「こちらにどうぞ」



 食事会みたいに上層部の皆さんと顔合わせするのかと思っていたら、テーブルセットはまさかの2人分だけだった。


 宇宙が大きな窓いっぱいに見えていて、反対側の壁には丸を三つ重ねた前衛的な絵とオイルタイマーみたいなインテリアが飾ってある。


 すげー80年代感で刺さるんですけど……



「アルコールは飲めますか?」


「あ、はい、一応は」



 サリー船長はめちゃ紳士的で、椅子まで引いてくださった。恐るべし……


 さすがに鈍感な私でも、あれ? これヤベえなって思いはじめてるんだけど、だからといって下心あるんですかとも聞けない。それにせっかくの友好ムードが台無しになったら、戦争の引き金になるかもしんないし、ご好意として粛々と受け止めるしかないのだった。


 てっきり3Dプリンタで出したみたいな固形食が出されるのかと思ったら、運ばれてきたのは由緒正しい系の洋食で、ミックスグリルとコンポタとサラダみたいな絶対美味しいやつばかり。ど、どういうこと??


 懐かしすぎるメニューに夢中になっていると、サリー船長は満足そうに笑って言う。



「やはりあなたは人間のようだ。まさに人間的な反応だ」


「あ、すみません。昔好きだったメニューだったもので、つい……」


「どれです? よければお土産に包ませますよ」


「ええ? いいんですかぁ?!」



 お聞きいただけただろうか?


 このように言葉の端々に「私が無事に地上に帰る前提」のようなフレーズが差し挟まれていては、もう完全に地上に帰れるものだと信じ込んでもおかしくないだろう。


 会話を重ねれば、何だかんだいって相手の人となりは見えてくるものである。


 それまではそう思っていた。


 しかしその後、調子に乗って宇宙船で熟成したお酒の試飲をはじめ、すっかり酔っ払ってしまった2人は朝まで飲み明かしたのだった……





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「おえ……すいません……」


「大丈夫ですか? 水はここに置いておきます。申し訳ない、久しぶりに楽しい酒だったもので、つい……」



 いやホント。酒の失敗はこわいものです。トイレに篭っても、もう胃液しか吐けないんだがどうしたもんか。頭が痛すぎてすぐ地上に帰ることもできない。宇宙酒、マジやべえ……なんかちょっとアルコール度数強めに感じるかもって思ったのは2杯目までで、3杯目からは気分がフワフワしてアルコールの苦みを感じなくなり、普通の甘い飲み物って感じでスルスル飲んでしまった。


 背中をさすってくれるサリー船長も具合が悪そうな顔してる。もしかして私待ち? 今すぐ出そうなわけじゃないから、トイレを独り占めしてはいかんだろう。


 

「ちょっと……顔洗ってきます」


「わかりますか? 出てすぐ左……そうタオルもありますから」



 冷たい水でバシャバシャと頭を冷やしリフレッシュすると、具合の悪さもちょっとだけマシになった。


 長椅子に斜めに座ってなんとか体裁を整えてみるけど、二日酔いのダメ人間感を取り繕うのは難しい。


 せっかくいい感じだったのに、なんという失態……中途半端に飲めるから駄目なんだよね。もっとザルの酒豪なら良かったのに。もしくはまったく飲めなければ。



「うあぁ……」


「そんなに苦しいならチョコレートを持って来させましょうか?」

 

「え、チョコって二日酔いに効くんです?」


「糖分が低血糖にいいとされているからね」


「じゃあ、大丈夫です……」


「うわわ、これは魔法か?」



 私がいつもやっているように花びらチョコをひと山テーブルに出すと、あふれたチョコが床に転がって、船長が慌てて拾い集めた。



「よろしければ、おひとつどーぞ」


「それではお言葉に甘えよう」



 時間はまだ早朝ぐらいな感じ。船長は元気そうだから朝から普通に働けそうだ。


 私はできれば午前中に地上に帰還したいけど、具合が悪い状態でみんなの前に行ったら何となくマズい気がする。



「船長、何で止めてくれなかったんですかぁ?」



 すっかり酔っ払って醜態を晒してしまったし、今さらなので長椅子に寝転んだまま目の前の強化天使に軽く八つ当たりをしてみる。お酒を飲んだのは私なので、完全に自己責任なのだけど、これも話題提供のひとつだ。



「本当にすまない……酔ったあなたの本音を聞きたいと思っていたのだが、こんなことになるとは」


「本音ねぇ……どんな話ですか?」


「いや、その、今は少し間が悪い」


「はぁ……何かあったらお渡ししたスマホでご連絡ください。とりあえずこっちは私の番号にしときますから」


「あなた個人に繋がるものか?」


「そうですね。この距離で繋がるのかっていう実験もしないといけないので、地上に戻ったらご連絡差し上げます」


「この程度の距離ならば大丈夫だろう……だが、そうだな。連絡を待っているよ」



 その日、復活した私が再び地上に戻ったのは、夕方近くのことだった。


 天使さんは意外といい人ってことがわかって、戦争は避けられた。こんな感じの結果だけど、受け入れられるだろうか?


 早速スマホで地上からサリー船長に連絡をすると、いい感じに繋がったのでひと安心。だけどちょっと話が弾んだため、ベアトゥス様とベリル様から天使に洗脳されているという疑いをかけられてしまった。この辺りが外交の難しいところかもしれない。セドレツ大臣ならもっと上手く立ち回れたんだろうか? 


 教育係としてはこれが精一杯だ。とりあえず、誰か褒めてくれてもいいんじゃないかな……


 そんなことを思っていたら、魔女アンナさんがフワフワちゃんとアイテールちゃんを連れて来てくれた。二日酔いにチョコが効いたという話をすると、アンナさんはものすごく食いついてきた。


 やはり、私が宇宙船に一泊してしまったことで皆様にご心配をおかけしたらしく、勇者様を(なだ)めるのが大変だったらしい。後でアンナさんに埋め合わせをしなければ。西の森ホテルのスイーツ食べ放題とかで許してもらえるだろうか。






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