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7.『教育係は伊達じゃない』part 4.

 現実世界の戦争でもそうだったと思う。


 実際に戦ってる敵同士でも、別の場所ではオフレコで仲良く食事会なんてことは普通だ。むしろそれができなきゃ、政治家なんか辞めちまえってなもんだ。


 それに今は、まだ戦争前……だと思う。ちょっと小競り合いはしちゃったかも知んないけど、いや、ダンジュー共和国は草原になっちゃったけど。それでもこの異世界にとっては、まだ戦前だと言える。


 これまでのあれやこれやを理由にして、みんなで立ち向かおうぜってなことになるんなら、そっから戦争なんじゃないかな?


 いや、すでに上空に張ってある結界を破ろうとして、天使がスパイを送り込んでいる時点で戦争なんですよ! って意見もあるかもしんない。


 でも私はまだ()()()()()()()()と思って頑張りたい。


 知らんぷりしてあがきたい。



「あの天使さん、この後、素直に帰ってくれると思います?」


「どうだろうな。全権大使ってわけでもなさそうだし、これ以上もてなす意味は感じないが」



 謎肉シチューの片付けを手伝いながら、さりげなくご意見を聞いてみると、ベアトゥス様はなんとなく平和交渉に期待ゼロって感じだった。ベリル様はハナっから戦闘推奨派なので「油断してる今なら有利だぞ」とか言ってる。執事さんは「ミドヴェルト様のお考えに従います」とか言って丸投げしてくるし、騎士のモルドーレさんは「天使討伐隊としては警戒を続けるしかありませんな」とのことだった。


 私だって王様とか大臣に許可もらえてるわけじゃないし、何ならベリル様に従うしかない立場なんだが。


 でも今はすごい()()()()だと思うのよ。


 このセッションは無駄にしちゃいけないって感じる。



「バルテルミさん、謎肉シチューを()()食べたいと思いますか?」


「思う」


「それなら、私たちは友好な関係を結ぶことができると思いますか?」


「それは上が決めることだ」


「今あなたが所属する組織で一番上の人と連絡を取れますか?」


「可能だ」



 何だろう、スムーズ過ぎる。


 これはわざとかな?


 今までのスパイ天使はただの(おとり)で、このバルテルミさんが本命なんじゃ?


 そんで、この異世界が試験者である天使に対して、どんな反応をするかテストしてる可能性が高い。


 果たして上の人は話を聞いてくれるのか?



「繋がった、コードネーム:ミドヴェルト」



 万能天使のバルテルミさんが連絡を繋いでくれて、目の前にホログラムの画面があらわれる。


 ゲームの中みたいで何となくシュールだ。



『君のコンタクトに感謝する。コードネーム:ミドヴェルト』


「あっ、はじめまして! 私はこの使節の主席まとめ係をさせていただいております、ミド……」


『自己紹介は不要。君の情報は今こちらの手元にある』


「え、そうなんですか?!」



 うわぁ……個人情報筒抜け系だった!


 でもそうだよな……厨房の料理画像とかをリアルタイムで母船にお届けできるぐらいなんだから、私のことなんでも報告されてる可能性を考えるべきだった。まあいっか。別に知られて困るような……あ、()()()()は秘密にしたかったけど……さっきのバルテルミさんの無反応は、すでにバレてたからかも知れない。終わった。



『こちらの要求は、この世界への接触許可だ。この防御シールドを解除して欲しい』


「防御シールドを解除して、あなたがたに侵攻される可能性がないと言いきれますか? 私たちはそこまでお人好しではありません」


『ではどうしたら信用されるのか。条件を提出して欲しい』



 条件を飲む気があるってこと?! 何でそんなにこの世界に接触したいんだろう? 天使が一応メカなら、この世界の人たちが食糧にされるってことはなさそうだよね……土か水か空気がほしいとか……? そういえば水素を欲しがる宇宙人の話見たことあるような……?


 いや待て、ブラック企業状態の環境に慣れきっている天使達が優しいわけないだろう。なんか絶対に落とし穴があるとしか思えない。



「まずはこの世界に接触して何をする予定か、紙媒体またはそれに準じる物質でご提出いただきたいです」


『了解した。コードネーム:バルテルミにデータ送信完了』


「母船より受信したデータをプリント……こちらが工程表だ」


「あ、ありがとうございます……」



 プリンタ機能あんのかよこの天使!! バルテルミさんが懐から出した紙の束を受け取ってペラペラとめくると、ご丁寧に表紙までついていて完璧だ。本当だったら全部デジタルでやり取りしかったんだろうけど……何だか会社に戻ったみたいで笑いそうになる。駄目だ、神妙な顔をキープせねば!


 渡された工程表には、何やら平和的な文字列が並んでいた。不思議なことに日本語ベースなので普通に読める。この異世界に合わせてくれたのか?


 とりあえず歩み寄る気持ちはあるっぽい。メカだけど。ちょっとみんなと相談する時間をもらって、私は天使からの提出物を見せながらほかの人の意見を集める。今回に限っては私に任せてもらえないかな……?


 ベリル様は「絶対結界は解除しない!」とのことだった。これは私も同意見だ。少なくとも今は防御シールドを解除なんてすべきではない。だけど、バルテルミさんをお空に帰すには、やっぱり多少の譲歩が必要だと思うのです。ひと通り意見を集めてから、私は自分の考えを口に出してみる。



「あのですね……私、ウツロブネに行ってみようかなと思うんですよ……」


「は?! 何言ってんだよお前、無理すんなって言ったじゃねえか?!」


「もちろん、私が受け入れられない可能性はありますけど、もし危なくなったら帰還魔法がありますし……行くなら私かなって」


「そんなら俺も行くよ。転移魔法が使えるからいいだろ? ん?」


「いや、すでに天使さんと戦っちゃってるベリル様は、向こうも警戒するでしょうし……」



 何とか平和裡にバルテルミさんに帰っていただくための方法だと伝えると、ベリル様とベアトゥス様以外は納得してくれた。


 まあ、このお二人は勝率が高いと見積もってるから強気よね。


 でももう本船と連絡とっちゃってるし、バルテルミさんが消息を絶ったら、ヤバい方向に話が進みそうな気がする。


 

「必ず戻ってきますから、私にお任せください!」



 半ば無理やり話をまとめ、私はバルテルミさんに通信を頼む。



『コードネーム:ミドヴェルト、条件は決まったか?』


「えーとですね、これまでに侵入した天使さんは帰還してほしいんですけど、特例についてご相談してよろしいでしょうか?」



 母船の天使さんは結構話せる雰囲気だったので、私がバルテルミさんに同行するという形で話をする。厨房のおばちゃんが出会っちゃった天使さんは、何とかそのまま駐在っぽい立場にしてもらえそうだった。本人が帰りたいと言ったら、また後で相談することになる。バルテルミさんも母船への帰還を承諾してくれて、私の乗船も快諾してくれた。


 

『君を我々の船に招待できて光栄だ、コードネーム:ミドヴェルト。船内は君に合わせて与圧しておくから心配しないでほしい』


「ありがとうございます、それでは準備ができましたらお知らせください」



 実をいうと、ものすごくワクワクしていた。


 勝手に話をまとめちゃったけど、急に整備中のファビエル級とベルキエル級の天使が消えたら、マルパッセさんびっくりするかな?


 フワフワちゃんとアイテールちゃんは不安そうにしてたけど、とりあえず魔女アンナさんと執事さんに一旦お任せして、念のためみんなに物理&魔法防御結界を3回ほど重ねがけしておいた。


 ベアトゥス様とベリル様にはくれぐれも早まった行動をしないように言い含め、モルドーレさんにこっそりバニラエッセンスの瓶を渡しておいた。



「準備ができたようだ」



バルテルミさんの合図でアブダクションが開始され、私は天使さん達の宇宙船に転送されることになったのだった。





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