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7.『教育係は伊達じゃない』part 3.

 この異世界のはるか上空に停泊しているというウツロブネU2-6203は、たくさんの天使さんたちが()()()()で働かされているという噂の、ブラック企業みたいな母船だという。


 天使さんたちはみんなメカであって、いわゆる有機生物ではないので、休憩もあまり必要ではないらしい。機械化された工場みたいなもので、一旦稼働させたら24時間365日動かし続けたほうがいいんだって。そういえば、昔のPCは寿命伸ばすためにちゃんと電源落としてコンセント抜けとか言われたけど、今ってむしろスリープ推奨っぽいこと聞いたっけ。


 マルパッセさんといい、この目の前にいるバルテルミさんといい、無機質なメカである天使さんがなぜ人間っぽい雰囲気を持っているのか不思議だ。


 でも精霊女王様とか悪魔執事さんなんて、有機物でも無機物でもないのに謎に生き生きしてるし、これがアリならあっちも自動的にアリなのかなと納得してしまう自分がいる。



「……つまり、謎肉シチューの映像が流れてきたから、実地調査に来たということでしょうか……?」


「そういうことになる」



 ドンクファンネル級天使のバルテルミさんは、装備を変えればどんな場面でも活躍できるという、マルチロール・プレイヤーらしい。基本的には護衛に回ることが多いけど、単体で行動することもあるっぽい。主役にも脇役にもなれるって、羨ましいです。


 今は、シトロエン公国に入る前の街道沿いで焚き火にあたりながら、インタヴュー・ウィズ・エンジェルな感じでちょこんとおとなしくご飯待ちしている。


 あんまり機密を探ろうとして天使さんに攻撃だと認識されたら困るので、できるだけ世間話っぽい感じで話してみるけど、それもわざとらしくて怪しいかなと思ってたまに直球の質問をしてみたりする。


 そういえば、AIなら勝手に情報収集して成長するんだっけ?


 魔国グルメ情報をもっと送りつけたら、満足して帰ってくれたりしないかな?



「謎肉シチューのほかに、気になる食べ物はありましたか?」


「……森のプリンシリーズだ……」



 グフッ……


 こんなお堅い雰囲気の天使さんから「森のプリンシリーズ」なんて言葉が聞けるとは……勇者様グッジョブ!


 森のプリンシリーズは、パティシエ方面に大幅シフトしたベアトゥス様が、西の森ホテルの新作スイーツとして開発してくださったメニューだ。


 怪鳥の卵をたっぷり使ったちょっと硬めのレトロプリンに、森のハーブや木の実をこれでもかとトッピングしたアラモード的な「プレーン」と、プリン部分にチョコを混ぜて黒と紫っぽいトッピングでまとめた「ダーク」とかベリー系の「ブラッド」ほか全5種類のシリーズとなっている。


 さすがにこのキャンプ地であんな繊細なスイーツは作れないだろうけど、もし天使と和平合意とかができたら、是非プリンを食べに来てほしい。


 ……なんて。めちゃくちゃ(なご)んでますけど、今だって危険と隣り合わせの状態に変わりはないのだが。


 本当はもっと聞きたいことはあるんだけど……ダンジュー共和国を草原に変えたこととか、ベリル様が穴だらけになってたこととか。でも私が過剰に意識し過ぎてるせいか、なかなかそこにはたどり着けそうもない。


 その話題を出すこと自体、タブーなんじゃないかと勘繰ってしまう。


 もしかしたら全然気兼ねなく答えてくれるかもしれないけど、わからないうちは迂闊なことが言えないのだった。



「新しいメニューもご存知とは驚きです。ずいぶん優秀なリサーチシステムをお持ちなんですね」


「ああ……彼らは優秀だ」


「それでは、お帰りの際には、皆さんにお土産をお持ちになったらいいかもしれませんね!」


「お土産……そうだな持ち帰りたい」



 ……この誘導は正しい未来に繋がってるんだろうか?


 この異世界には美味しいものがたくさんあるってことを知ってもらったら、果たしてどうなるのか?


 大事に保存して様子を見ようとなるか? すべて蹂躙して自分のものにしようとするのか?


 ぶっちゃけ、今お土産を渡すことは不可能ではない。転移魔法が使えるベリル様にお使いを頼めば丸く収まるだろう。


 いっそのこと、異世界ツアーとか組んで、天使御一行様に思う存分楽しんでもらったらどうか?


 ステルス性高い天使さんに失踪されても困るので、ハトバスみたいな竜車とかに詰め込んで……なんて。


 無理か。


 私の妄想がおかしな方向に進み出しかけた頃、やっと謎肉シチューが完成した。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「うわ、久しぶりに食べた! 謎肉シチュー!」


「ムームー! ムームー!」


「どうだ、うまいか?」



 バルテルミさんのために作った謎肉シチューだけど、今日の夕飯っていうことで、みんなに振る舞われた。個人的な好みを言えば、ぐるぐる巻きになってるあのパンが欲しいところだけど、あれは厨房のおばちゃん特製のパンだからここには無い。ベアトゥス様に聞いたところによると、おばちゃんはどうしてもぐるぐるパンのレシピだけは教えてくれないのだそうだ。作ってるところを見て覚えようとしても、いつの間にかできていて、ぐるぐるパンの途中経過は誰も見たことがないらしい。



「もーむちゃくちゃおいっしーですぅ!! ありがとうございますベアトゥス様!」


「そうか、お代わりあるからいっぱい食えよ」


「ムー!」



 フワフワちゃんは、元気いっぱいで一番にお代わりをしていた。アイテールちゃんはスープだけ味見して肉はパス。ベリル様は後方で腕組みしている。騎士さん達はバラけて、さりげなく私たちを囲んだ配置に着きながら食べていて、なぜかその中に魔女アンナさんも混じっている。何故……


 チラ見したバルテルミさんの様子は……まあまあご機嫌?


 本来ご飯を必要としない天使だから、もしかして執事悪魔のように謎の成分吸いつくし系のキモい食べ方をするのかと思いきや、フツーにスプーンを使ってお上品に食べていた。


 なんなら少し目を閉じて、じっくり味わっているように見えたりもする。



「……お味はいかがですか? バルテルミさん」



 味覚とか好みが地上の感覚と全然違ってたらどうしようと思ったけど、謎肉シチューを堪能した天使さんは、空になったお皿を見つめて呟いた。



「これはうまいものだな」



 よっしゃ!


 とりあえず今すぐ戦闘なんてことにはならなそうで、ひと安心。


 問題はどうやって穏便にお引き取りいただくかってことなんだけど……



「気に入ったんならもっと食え、まだまだあるからな!」



 シェフを務める筋肉勇者が、でっかい鍋を片手で持って、みんなにお代わりを配って回る。お残しは許さない系の圧が凄い。天使さんの空になったお皿にも新しい謎肉シチューがなみなみと注がれて、止まっていたスプーンを持つ手が再び動き出す。


 勇者様さすがだね! の意味を込めて視線を送ると、ニカッと笑って返された。


 天使さんは、なんと5杯もお代わりをして、とうとう謎肉シチュー鍋は空になったのだった。






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