7.『教育係は伊達じゃない』part 2.
「ミドちゃん!! そいつ駄目!!」
ズムウォルト級……じゃなくって何だっけ? ドンクファンネル級? の天使らしき白い人は、大層美しく光り輝いていた。
内側からの輝きって、これか……みたいな。
お肌も陶器のようで、全女子の憧れかもしれない。
そんなしょーもないことを考えていたせいで、ベリル様から発せられた声の意味があまり理解できなかった。
どっちみち、こんな近距離ではできることなどないし、もう脳が諦めているんじゃないかな? 自分ではっきり認識できる表層意識は「私の結界……ザル?!」ってことと「みんなごめん」っていうことだ。あとはなんかぼんやりとして、内側から発光してる綺麗な天使を眺めていたい欲に負けていた。
でもさでもさ、この天使、さっき私に話しかけたよね?
……もしかすると、話せばわかるタイプかもしれないよ?
これじゃお花畑脳と言われてしまうかもしれないけど、人間である以上、言葉は大切にしていたい。
私はテレバシーも使えないし、猫みたいに目や耳や尻尾で何かを伝えることもできない。……まあ半目とかはちょっとできるけど。とにかく、言葉が通じるなら何らかの活路が見出せるはずだ。
この天使は私をどう捉えて言葉を発したのだろう?
ちょっとした好奇心だった。
こんなにいろいろ考えてるけど、脳内のことだからまだたいして時間は経っていない。
ベリル様の足が、まだ一歩目しか動いてないのがその証拠だ。
ベアトゥス様なんて、まだ振り返りきってすらいないもんね。
この異世界に来るとき、何だかすべてがスローモーションだったことを思い出した。
やっぱりもうダメってことなのかなぁ……?
ここでみんなやられちゃう?
そう思うと逆に落ち着いてきた。
せっかくだから、思いつく限りあがこう。ダメ元でやれそうなことって何かあるかな? 私は戦えないから、弱いから何もできない? そんなことはないはずだ。ほんの小さなことでもいい、せいぜい役に立ってやろうじゃないの。
「はじめまして。私はこの使節団の主席まとめ役を仰せつかっている、ミドヴェルトという名前の人間です。御用向きは何でしょうか?」
ヘイSiri、私の名前を登録して。なんちゃって。ほんの少しだけでも、この天使をAIと見込んで負荷をかけるとしたら、ちゃんと機械として向き合ってみるのが良いんじゃないかと思った。あとは異世界だから関係ないと思うけど、ロボット三原則にすがって人間アピールしたら何か影響ないかなと期待してみる。
賭けだったけど、目の前の天使は、私を見つめて何か処理作業中みたいな挙動を見せる。
こ……これはいい兆候なんだろうか?
私はベリル様とベアトゥス様に手で合図を送り、その場から動かないようにしてもらった。
敵を見かけたらすぐ瞬殺じゃないってことは、攻撃されたら戦闘モードになるのかもしれない。
もし、私がいた現実世界にもこの天使たちが来てたんだとしたら、それってすごくヒントなんじゃないかな。
だって現実世界が人類全滅とかしてないなら……この異世界も助かるかもしれない。
私はここの住人じゃないけど、この異世界が滅ぶのは嫌だ。
友達もいるし……魔国のお店で何軒か仲良しになった店主さんとかも、みんな気の良い人達だ。
話をまとめられるものなら、是非まとめたい。
緊張して天使の答えを待つ。
もしも御用向きが「この世界の殲滅」とかだったら終わりなわけだが……
何やら計算が終わったらしく、天使の口がほんの少し動いた。
「謎肉のシチューが食べられる場所を知らないか……?」
……え?
思わず私がみんなのほうに視線を向けると、みんな天使さんのほうを見て固まってしまっていた。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「謎肉のシチューって……王城の食堂のメニューじゃないですか?」
「ぬ、やはりそうでしたか! 何やら聞き覚えのある単語だと思っておりましたぞ!」
「いくら友好的な態度だとしても、さすがに魔国の王城に入れるわけにはまいりません」
「だいたいアイツ、なんでここに来れたわけ? 比較的軽いファビエル級ならまだしもさぁ……」
とりあえずおとなしい天使さんを焚き火の前に座らせ、フワフワちゃんとアイテールちゃんのカワイイ担当ツートップで平和アピールをしてもらいながら、私たちは額を突き合わせてわちゃわちゃと答えのない会議をする。マーヤークさんは王城の警備も任されてるらしく、危険物の持ち込みには断固反対の立場を崩さない。モルドーレさんはもう少し役に立つこと言ってくれ! そんでもってベリル様はといえば、ドンクファンネル級天使の質量について、なんか専門的で難しい愚痴をひたすら垂れ流していた。まとまらない空気に絶望感すら漂う。
そのときだった。
「俺がここで作ってもいいが?」
ベアトゥス様のまさかの提案に、みんな目からウロコで筋肉勇者を見つめる。すごいよ、あんた勇者だよ!
「え、可能なんですか?!」
「それでは部下に材料を集めさせましょう!」
「えぇ? 何であんなヤツの希望を叶えなきゃいけないワケェ? 俺が戦えば……」
「ベリル様、戦闘行為は最終手段です。勝手なことしたらバニラですからね!」
「何だよぉ……ミドちゃん怖いなぁ」
私の名前が「ミドちゃん」のうちは怒ってないから大丈夫だろう。私は何となく精霊女王様を雑に扱うコツを覚えたような気がする。
サクッと自分の使命を口走りながら最速で会議から離脱したモコモコ騎士のモルドーレさんは、さすが有能な隊長さんという感じだ。私は天使さんからもう少し情報が引き出せないかと、ちびっこ隊のほうに向かう。……つもりで歩き出すと、勇者様に手をつかまれてしまった。
「おい、無茶はするなよ?」
「わかってます。ベアトゥス様は、美味しい謎肉シチューを作ってくださいね」
「……おう、まかせろ」
まるでさっきキャンプ地を決めてから、何事もなく今に続いているような、おかしな雰囲気だ。
だって、ドンクファンネル級の天使さんは、わざわざ魔国のグルメを食べに来たっていうんだもの。
みんなの緊張が一気に解けてしまったのも無理はない。いや、ある意味緊張状態は続いてるんだけど、非常警戒体制ではない。
私も何となく、もう危機は去ったような気分になっていた。
「あの、ちょっといいでしょうか?」
「ああ、君か。コードネーム:ミドヴェルト」
「謎肉のシチューは現在作成中ですので、もう少々お待ちください。ところで、謎肉シチューの情報は、どちらで入手されたのでしょうか?」
聞きながら、私は青髪悪魔ロンゲラップさんのアトリエで、マルパッセさん達が話していたことを思い出した。
厨房のおばちゃんとこで働くことになった天使さんの視覚情報を、母船に送って飯テロを仕掛けるとか何とか……ああ、自己解決いたしました。
「君は何か知っているのか?」
「え?」
「呼吸……心拍数……体温上昇……」
「あえ?! えっと、これはその! あ、そう! あなたの名前を聞かせてください! 私の情報を開示するには、あなたの名前が必要です」
「私の名前は……コードネーム:バルテルミ……」
おぅ……虐殺系天使……とりあえずバルテルミさんには、謎肉シチューだけで満足していただきたいものだ。
というか天使は◯ップルウォッチかなんかなのか? 何で心拍数まで測れる……「音」か? あ。
「……?!」
あの能力を思わず発動しそうになって、バルテルミさんの様子をちらりと窺うも、無反応。でも執事さんが反応してたので、私がやらかしてしまったのは確実らしかった。
天使は、これを攻撃ととらえない……?
もしや時間差で襲ってきたりして。
私は、ゆっくり呼吸をして平常心を保ちながら、冷や汗をかきつつ無意味に笑顔を作っていた。




