6.『やっぱり冒険が好き』part 4.
「いたぞ! そっちだ!」
「第4、第5! 裏へ回れ! 第8! 援護!」
「はっ!」
凄いなーこの子……
シブースト王国に潜んでいたファビエル級の天使は、お城の外壁に近いところで物乞いのフリをしていたらしい。
その情報が入ってからシブーストの警ら隊と一緒に天使を捕まえにいくと、警ら隊の隊長さんはテキパキと指示を出していい方向に追い込んでくれる。何でも、まさかのシブースト王子なんだとか。王子様は王様と違ってすごく真面目で、いろんな職業体験を積極的にこなしてて、たまたま今は警ら隊を率いてるらしかった。
そんなわけで、追い込んだスパイ天使はベリル様の一撃でショートさせられ、精霊女王様の転移魔法で魔国王城のアトリエに送られる。何という簡単なお仕事。これでやっと27体目か……
「お疲れ様です、ベリル様!」
「うーん、やっぱりお迎えがあるのっていいよねぇ。どう? 俺の活躍ちゃんと見てくれた? ん?」
「も、もちろんです! さすがですね! もう、信じられないくらいすごかったですよ!」
ぶっちゃけ王子様の手際の良さばっかり見ちゃって、あんまベリル様のこと見てなかったんだけど、教育係としての経験が役立ったのかうまい具合に褒めることができた。
シブースト王国には、これでもう用事がなくなっちゃったが、あの王子様がいるならまあ……何とかなるだろ。
おじさん王ちゃまが、さっさと引退すれば丸く収まるはずだ。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「本当にいいんですか? 魔国に送ってもらわなくて」
「ええ、私も少し旅がしたいと思っていたから」
魔女アンナさんは、勇者ベアトゥス様に首ったけで、何というか本当のことが言いづらい。
西の森ホテルに落ち着いてもらうまでは逃したくないので、ベアトゥス様にもできるだけ優しく接してもらうようにお願いしている。
それに、女性らしいアンナさんの勇者様への接し方を見てると参考にもなるしね。
へー、そんなことされたいんだー、へー!
なんて思ったりもしながら、ちょっと傷ついたりもするけど、まあとにかく勉強になる。
「なんぎなたびになりそうじゃな」
「ムー! ムー!」
私はまとめ役なんだし、和をもって尊しとなす!!
「あっれー? アイツ、キミのことほったらかしてんじゃん! かわいそー!」
「ベリル様? 私、打ち上げで使えなかったバニラエッセンスを持て余しているんですけど、今使ってもよろしいでしょうか?」
「な、何だよ、冗談、冗談だってば! 落ち着いてよ、ね?」
精霊女王様には最後の天使を見つけるまでキッチリ働いてもらわないといけないわけだが、だからと言って、こっちだってやられっぱなしじゃいられない。
とりあえず対抗手段も手に入れたし、日常的な問題は回避できそうだ。
そりゃまあ、力の差があり過ぎるから、本気で戦うことはできないけど。でも私、ハムちゃん飼ってたときは必死でご機嫌取りとかしてたし、たった数百グラムの存在に精神持ってかれたりしてたから……なんというか世の中、力だけがすべてじゃないんじゃないかなって気はしてる。
お城の広間にみんな集まったところで王子様に別れを告げ、私たちは次の町へと、精霊女王様の転移魔法で移動した。……はずだったんだけど……
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「あっれー? おっかしーなぁ……」
周囲の景色が変わったと思ったら、城の前どころか人の家すらもない、某名作劇場の一面ずっと緑の丘みたいなところに来てしまった。さすがファンタジー。
「魔法失敗ですか?」
「違うってば! 俺は確かにここに城があると……!」
「城の痕跡ならば、ここにあるようだが」
「確かに、これは妙ですな」
ベアトゥス様とモルドーレさんが、地面に頭を出している城壁みたいなものを見つけて、一応ベリル様の魔法が失敗じゃないことは証明された。
「ベリル様、ムシャクシャしたからって城ごと町を吹き飛ばしたんじゃ……」
「さすがにそんなことしないよ! 俺のことなんだと思ってんのさ!」
私が薄目で精霊女王様を見ると、それに気づいたフワフワちゃんが真似をして目を細める。猫的には親愛の情を示す表情だけど、何を思ってそうしているのか。そこに悪ノリしたアイテールちゃんも混ざって、3人揃って薄目になったのだった。妖精王女のアイテールちゃんは、ベリル様との稽古を続けているせいで、気持ち的にちょっと馴染んできたらしい。人見知りじゃなくなったのはいいことだ。
「あーもー! わかったよ、とにかく町を見つければいいんだろ? まったくもう!」
ベリル様は空高く舞い上がって、しばらくあちこちを眺めていたが、スーッと無言で降りてくると首を傾げた。
「町……無いかも……」
「え? どういうことですか?」
「うーん……天使のせいかな?」
「え、だって、ファビエル級の天使はスパイ任務が主なんですよね? こんな、一国を滅ぼすようなことできるんですか?!」
「ちょっとちょっとぉ! そんな怒んないでよぉ! 俺だって何が起こってるのかわかんないんだからさぁ」
「ベリル様にもわからないことってあったんですか?」
「あのね、俺だって天使のことなんでも知ってるわけじゃないんだよ!」
私とベリル様が揉めているように見えたのか、同行者の魔女アンナさんが止めに入ってくれた。
「あの、とりあえずもう午後で夕暮れも近いですし、行く当てがないならここで野宿の準備しませんか?」
ベリル様は、呆気に取られてアンナさんと私を見比べる。あ、これ気付いてないやつだ……
打ち上げのとき、確かに二人で喋ってた気がするんだけどなぁ……
「ああっと、こちらは魔女のエンヘドゥアンナさんです。私と似てますが他人の空似です。んで、こちらはベリル様です」
「よろしくお願いします。アンナとお呼びくださいね」
アンナさんに微笑みかけられて、ベリル様は心なしか顎を引いて警戒する。魔法に詳しい者同士、なんかピリつくものがあるのかもしれない。どっちも何歳かわからないけど、見た目的にはアンナさんのほうが大人っぽく感じた。
「魔女殿のいう通りですな、暗くなる前に用意しませんと」
モルドーレさんの言葉が合図になって、みんなが野宿の準備をはじめた。まさかこうなるとは思ってなかったので、私は何にも持ってきてない。あ……いや、宿に着いたらみんなで食べようと思って、シブーストの町でクッキー買ってあったっけ。あとは……チョコとオレンジジュースでも出すか……
「ミドヴェルト様、焚き火の準備ができました」
「え? あ、すみませんお手伝いもしないで……」
「いえいえ、亀島での一夜が思い出されますねぇ」
なんだか執事さんが上機嫌で謎だったんだけど、亀島と言われて思い出した。焼きマシュマロ食べたいんだね。寝床の準備は騎士さん達がしてくれるみたいなので、私はフワフワちゃんとアイテールちゃんと執事さんに、枝に刺したマシュマロを渡す。ついでに魔女アンナさんと勇者ベアトゥス様にもマシュマロ串を渡して、軽く焼き方を教えた。
騎士さん達には戻ってきたらでいっか。
コップないな……
とか思ってキョロキョロしてると、執事さんが手のひらからコップを人数分出してくれる。それを見た魔女アンナさんが、遠くに転がっていた丸太を焚き火の周囲に並べて、なんとなくキャンプファイヤーみたいな雰囲気ができあがった。物をどうにかする魔法、いいなー。羨ましい。
「なんですか、これ……甘くて美味しいわ」
「焼きマシュマロです、良かったらチョコソースかけます?」
「あらまあ、素敵ね、ウフフ」
あれから私のチョコラインナップは増え、わざわざミルクで溶かなくてもチョコソース出せるようになったんだよね!
今日はもうチョコパしちゃうか?
騎士団の皆さんが何やら獲物を持って戻ってくると、みんなで焚き火を囲んで話が盛り上がってしまった。
特に騎士の皆さんは勇者ベアトゥス様に興味津々で、魔国内でもそこそこ強い部類に入ってる暗黒騎士のダロスさんを一撃で倒した噂が本当かどうか確かめたいみたいだった。
まだ明るいしご飯もできてないってことで、暇な騎士さんと筋肉勇者様が軽く手合わせをはじめ、私たちは自然と焼きマシュマロを食べながら見物する形になる。
フワフワちゃんがやる気になっていたので、執事さんも参加するのかと思ったら、相変わらず焼きマシュマロに変な態勢でチューチュー吸い付いていて微妙な気持ちになってしまった。うーん……マーヤークさんは比較的イケメンなほうだと思うんだけど……この顔ばっかりはマジでアレだな。見せられないよ!
勇者様はモルドーレさんといい感じで組み合っていたみたいだけど、乱入したフワフワちゃんに二人まとめてぶん投げられていた。恐るべし、魔国の王子殿下……
ベリル様も混ざるかと思ったけど、そういやさっきから姿が見えない。
なんか調べてるのかな? この国はダンジュー共和国のはずだったけど……多少でも事情がわかると助かる。
それともひとりで魔国に転移して、フカフカのベットに寝てんじゃないでしょうね?
ありうる……
私が勝手に妄想して勝手に怒っていると、ベリル様が急に現れた。
「みんな! 今すぐここを離れるぞ!」
その姿は、見たことがないほど穴だらけだった。




