6.『やっぱり冒険が好き』part 1.
「おはようございます。えー、この度は天使討伐隊にご参加いただきありがとうございます。本日はお日柄も良く……」
「俺、ベリル。よろしくぅ! んーで、こっちはこの俺が直々に選んであげたぁ、討伐隊主席まとめ役のミドヴェルトちゃんね!」
「よ、よろひくお願いふぃまふ……」
謁見の間では正装で女王然としていたベリル様だったけど、今はすっかり冒険者気分で私の肩に腕を回し、気安くほっぺを摘んでいらっしゃる。
なんで最弱の私が討伐隊の主席まとめ役なんてものになってしまったかというと、精霊女王のベリル様がムシャクシャしたからだ。
非常に理不尽だ。
しかし、現実世界で社会人経験のある私は、どんな理不尽にも慣れているから大丈夫。
そんなことより問題は、ほっぺをぷにぷにされている私に送られてくる不穏な眼差しなのである。
私の婚約者となったベアトゥス様は、とってもとってもとーってもやきもち焼きなのだ。
私としては、婚約したし、ちゃんと魔法の書類も書いたから安定した関係だよね。と思ってるんだけど、筋肉を持て余してる勇者様は、そういった考えの持ち主ではないらしい。もし我々がバンドを組んでいたら、音楽性の違いってやつで解散しているところである。
……などと冗談を言ったら、意外と真面目な勇者様に本気で別れたいと勘違いされて大変なことになるので、今は精霊女王の被害者ムーブで乗り切るしかない。
私の前に並んでいるのは、天使討伐隊という名の生贄になった皆さんである。
今は私の横にいるベリル様が、勇者ベアトゥス様の反応を楽しみながら私に嫌がらせをしている最中だ。
これってアレだよね。
パワハラってヤツかなって……思うんだ。
後でバニラぶっかけ祭りを開きますから。ええ、打ち上げは無礼講です。
そんなことを考えていると、挨拶がひと通り終わった。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「さてっと……」
ベリル様が軽くジャンプしながら準備体操をしている。
王城の前に集合したときは、魔車も竜車もなかったから、フワフワちゃんと冒険してた初期の頃みたいに歩き旅なのかな? ……と思ったけど、そうじゃなかった。
精霊女王であるベリル様の転移魔法によって、我々一行は魔国からかなり遠いところにあるシブースト王国に一瞬で移動できていたのだった。ベリル様、便利すぎる……これからは心の中で『ベリえもん』と呼ぶことにしよう。
ベリえもんがシャドウボクシングみたいな動きをしながら説明してくれた内容によると、ここの王様は、天使の捜索にあんまり協力的でないらしい。
どうせ戦争準備でもしてるんじゃないかな。
国が閉鎖的になるってことは、トップが悪いこと考えてるか、国をまとめるのに不安があるかのどっちかだ。なんか秘密の新型兵器でも開発してて、外部の者に探られたくないだとか、王様の求心力が低下して外から新しい価値観を入れたくないって理由が多かったりする。
シブーストの王様はお馬鹿さんだねぇ……素直に協力してれば余計な腹を探られないで済んだのに、変な対応をしたばっかりにベリル様に目を付けられちゃって……ビビっちゃうんじゃないかな?
なんて思っていたときが私にもありました……
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
フワフワちゃんは魔国の王子殿下なので、執事さんと騎士の皆さんが全員身なりを整えると、天使討伐隊はなかなかの使節団に見えるようになった。
その勢いで王様に謁見し、天使の捜索に協力してもらおうということになったのである。
正直、外交的な根回しもしないで無理なんじゃないかと思ったんだけど、魔国の評判はこのシブースト王国にも届いてるっぽくて何だかんだ要求が通ってしまった。
反抗的な王様じゃなかったんかい……
ベリル様はなんか考えがあるらしく、別行動となった。引き留める間もなく、いろいろ探りたいことがあるとか言いながら煙の様にかき消えてしまったのだった。
ベリル様のお言い付けに背くわけにもいかず、残された私たちは、計画通りに進めるしか手がない。
でも、実際シブーストの王様に謁見してみると、何というか……
「余が王である。」
「はあ、どうも……」
え? あれ? ちょっと強気なおじさんって聞いてたんだけど……こ、これがシブースト王……なのか?
私の目の前には、ちみっとした可愛い坊やが鎮座ましましていたのだった。
か、かわいい……いやかわいい。え? いやマジで可愛いよ!!
何だこの状況……? こういうお子ちゃまがトップに据えられてるってことは、すぐ近くに摂政みたいな大人が……い、いない……だと?!
「キョロキョロするでない。天使討伐隊主席まとめ役殿、陛下の御前ですぞ」
「は、はい、大変失礼いたしました」
司会役みたいなエルフっぽい大臣さんに注意され、私は姿勢を正した。
このシブースト王国は、魔国と同じでいろんなファンタジー生物が住んでる国なんだけど、パッと見だと亜人系の国民が多いみたい。たとえば、魔国の狼男さんは動物寄りの二足歩行で立って喋るオオカミって感じだけど、このシブースト王国で狼男といったら人間に耳と尻尾がついた人って感じなのである。
シブースト王国の印象をシンプルに表現すれば、ライオン公爵様がいっぱいみたいな感じかもしれない。
魔国では、上級貴族になるほど見た目が人間ぽくなっていく。例外は超弩級の大魔獣みたいな存在で、あまりにもデカかったり強かったりすると、特別扱いされて異形のままでも崇められて尊重されるらしい。
その価値観が周辺国にも浸透しているみたいで、人間っぽい見た目の魔物は何となくプライドが高い。
でもその割に、魔物は全体的に人間を見下してる雰囲気がある。謎だ。
まあ人間は弱いからかもね。弱肉強食の世界では強さだけが判断基準だし。
そんなわけで、私はこの中で一番軽んじられる存在なのだった。
「ミドヴェルトよ、余はそち達の希望を汲むのにやぶさかではない。ただし、こちらの要求に応えてくれたら……という条件付きだが」
「その要求とはどのようなものでしょうか?」
ずいぶん弁が立つ坊やだなぁ……なんて思いながら、私はすっかり油断してたっぽい。
話が進んで別室に通されると、シブーストの王ちゃまは、トテトテと危なっかしい走り方で私の膝に乗ってきた。なぜ……
でも可愛いから、まあいっか。
ほのぼの感覚で何気なく壁のほうを見ると、筋肉勇者様の鋭い視線がこちらに向いていた。な、なんか怒ってる……こんな赤ちゃんみたいな子にも嫉妬するのか?! だって子供じゃん! 私が悪いのかな? いや悪くない!!
シブーストの大臣さん達は、私が助けを求める視線を送っても完全無視だった。
仕方なく王ちゃまを抱っこした私は、そのまま話し合いに参加する。
いいのか、この状況で……
「……で、ありますからして、この森には陛下をこの様なお姿にした魔女が潜んでいるのです。そやつを捕縛し、術を解かせることができますれば、我がシブースト王国としては最大限のご協力をいたす所存でございます」
ん?
魔法で姿を変えられたってこと?
この王ちゃまが??
……じゃあ、この子って……
中身はおじさん?!
思わず膝の上に乗ってる王ちゃまを見ると、子供っぽくない表情を浮かべながらウインクしてきやがった!
いやあああああああああぁぁあぁー!!!




