5.『パンケークス事件』part 7.
「っかしーなー、30匹は居ると思ったのにぃ!」
周辺国との連携が取れたところでは、サクッと天使が見つかって、現在26人の天使が鹵獲されているらしい。
液状化した天使のサンプルも解析が終わって、青髪天才博士が固める薬を作り出した。液体になってる天使を見かけたら、回復薬みたいに瓶を投げつけて使うといいらしい。そのまま固まっちゃうのか、天使の形に戻るのかまでは聞いていない。
なんだかすごく順調だと思いきや、ベリル様はイライラしている。
聞くところによると、ムシャクシャしたので私をトップにした天使討伐隊を作ることにしたらしい。
何を言っているのかイマイチ理解出来ない。
要するに、ヨイショ部隊? ベリル様を励ます会が欲しいってことかな?
今この部屋には、すっかり衣装を脱いで寝巻きでくつろいでいる精霊女王様と、報告係に抜擢された執事さんと、意味もわからず座らされている私の3人しかいない。
天使討伐隊のメンバーはこちらで自由に選定していいと言われた。
どうせベリル様に逆らえる人は居ない。目ぼしい人材をピックアップして、ベリル様に確認すると、最終的に世間体騎士団が出来上がった。
私とフワフワちゃん、最近ベリル様に鍛えられてぐんぐん成長中のアイテールちゃん、執事さんといつもの騎士さん達、そしてベアトゥス様だ。
最初、ベリル様がいるんならベアトゥス様は有り得ないと思って提案しなかったんだけど、精霊女王が直々に指名してきた……ぶっちゃけ嫌な予感しかしない。
「アイツ、キミの婚約者なんだろ? ん? やっぱり二人を引き離すわけにはいかないしねぇ……俺って優しいなぁ。ね、好きになった?」
「はぁ……ありがたきお心遣いに感謝イタシマスデス……」
この精霊女王め……絶対勇者様を怒らせて楽しもうとか思ってるに違いない。というか、フワフワちゃんはまだしも、危険な場所にアイテールちゃんを連れてっていいの?! まあ物理&魔法防御結界は責任持って私がかけるけど。ベリル様にダメ出しができない上、当のアイテールちゃんがやる気満々なので、なんか反対できずにそのまま受け入れてしまった。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
執事さんから天使のチューンナップが終わったという噂を聞き、私は急ぎ青髪錬金術博士のアトリエに向かっている。
ぶっちゃけあのイケメン天使の性格がわかるまでは、できるだけ厨房のおばちゃんに会わせたくないのだ。おばちゃんは弱った天使と二言三言喋ったらしいんだけど、弱ってるときって色気三割増しだもんね。あの天使、元気になったら意外に攻撃的だったり、魔国民絶許系かもしんないし。おばちゃんが何であの天使に夢中なのかもちょっとよくわかんないけど、安全確認がしたい。
いやきっとおばちゃんなら、いろいろと経験があるかも知んないけど、これまで暮らした感じでは魔国の皆さんってけっこう純情で騙されやすいイメージだから心配だ。
物理的な安全面は、堕天使マルパッセさんが整備してくれるから大丈夫と思うけど……やっぱ言葉とか気持ちの面で受ける印象ってデカいと思うし。いや杞憂ならそれでいいんだけど、どうにも気になってしまうのだ。
「こんにちはー! 天使さんいますか?!」
「はい、何でしょう?」
うぉっと……まさかの即日バイトかな?
アトリエの玄関ドアを開けた途端にイケメン天使さんに出迎えられて、私は面食らってしまった。
確かに……これは芸術的な美しさですな……
ツルツルスベスベの大理石のようなお肌に、フワフワで柔らかそうな羽。本当にメカなのか? ナノレベルで擬態化できるらしいから、液体にもなれるし布みたいな質感も再現できるんだって。最先端技術過ぎる……
この異世界は中世っぽい世界観で、伝説の錬金術師様がスチームパンクの突端を行っている。だけど天使勢は宇宙世紀なんだよね……何だこの既視感。ギークの戦いでこういうの見たことある。「中世の日」とかでみんなコスプレ楽しんでたら、宇宙オタが攻めてくるみたいな……なるほど戦争確定だわ。
まあ天使さん達にもそれなりに言い分はあるらしい。たくさんある多元宇宙のそれぞれに宇宙船を派遣して、監視業務を行ったりパトロールしてるんだとか。まあ技術的に可能ならしちゃうんだろうね。もしかして、現実世界のオーパーツとかも天使さん達の仕業だったりして。
「ところで、天使さんにお名前はあるんですか?」
「私の名前はU2-6203所属のFML-914Gです」
「あぁ……な、なるほど……」
「すまないね、彼にもコードネームがあったはずなのだが初期化してしまったのだ」
「え? あ、そうなんですか……」
マルパッセさんが申し訳なさそうに説明してくれた。そういやマルパッセさんには最初から名前があったっけ。コードネームだったのか。ってことは……うん、やっぱここはひとつ、おばちゃんに名前つけてもらうか。
性格的にも問題なさそうだったので、ちょうどお茶を運んで来てくれたメイドさんに頼んで、厨房のおばちゃんを呼んでもらうことにした。
おばちゃん待ちしながらみんなでお茶を飲んでいると、イケメン天使さんも普通に混ざってカップを口に当てている。試しにチョコを出して勧めてみると、普通に食べてくれたのでびっくりした。そんな私の様子を見たマルパッセさんが、ああそういえば、と気づいたように説明してくれた。
「彼は摂取したものを分解する能力があるのだ。単機で活動する場合、補給物資を現地調達して活動限界を引き延ばさなくちゃいけないからね」
「な、なるほど……理に適ってるんですね」
言葉も話せてご飯も食べれるんなら、おばちゃんだって料理の作り甲斐があるだろう。もしかするとこの天使さんは厨房で働けるかもしれない。
天使さんの視覚と聴覚に入った情報は、上空に待機しているウツロブネU2-6203に定期的に送信されているらしい。そこを利用してこちらで捏造した情報を送るようにプログラムが組み直されている。バックドア対策もされているとのことなので、このイケメン天使さんは完全にこっち側の味方ってことになる。メカの悲しいとこだけど、良いも悪いもリモコン次第、要は使う側の問題ってやつだ。人型だから感情移入しちゃうけど、メカだし。そんなもんかなぁ……
でもそうなると、おばちゃんはフィギュア萌えみたいなことになる??
まさかのディープな世界に、一足飛びでダイブしてしまうのか。ま、まあ本人さえ良ければそれでいいじゃない。現実世界のニュースでは木と結婚した人もいたし。自由って素晴らしいんじゃないのかな。
しばらくするとドアの向こうで人の気配がして、メイドさんに押されながら厨房のおばちゃんが入ってきた。
照れて襟元を気にしてるおばちゃんは、完全に乙女モードだ。目を開けて動いている天使さんをチラ見しながら、私に目を合わせてくる。
「あっ……あの人が元気になったって聞いてさ! あたしは後でもいいんじゃないかって思ったんだけど、この子がどうしてもっていうからさ……」
「ええ、どうしてもお呼びしたかったんですよ。おばちゃんに名前を付けて欲しくって」
「えっ? あたしがかい? そんな……この人、記憶喪失なの?」
「ま、まあ……そんな感じです……」
最後ちょっと目を逸らしちゃったけど、私はできるだけ天使がメカだということは伏せたかったので、みんなに口止めをお願いしておいた。だって、やっぱりなんとなくおばちゃんの気持ちを尊重したいというか……言えない。
おばちゃんは何とも哀れに感じたのか、悩みに悩んだ末、「シモントン」という名前を天使さんに与えた。おばちゃんのミドルネームらしい。イケメン天使のシモントンさんは、スッと立ち上がっておばちゃんに向き直る。
「私の名前はシモントン……認証しました。マスター」
「あらやだマスターなんて、アイリエンって呼んどくれよ!」
照れたおばちゃんに軽く胸を叩かれたシモントンさんは、盛大によろけながら何とか体制を立て直す。その動きがなんともメカメカしくて、見てるこっちはハラハラだ。でもこの異世界には、こんな精巧なメカは今まで存在しなかったから、少し個性的な人ぐらいの感じで受け入れられてしまう。
「認証しました。アイリエン」
シモントンさんは、律儀にメカメカしい答えを返している。おばちゃんて、アイリエン・シモントン・パンケークスって名前だったのね。
この天使さんをアトリエと厨房で取り合うことになるのかと思いきや、マスターになった厨房のおばちゃんと一緒にいたほうがいいだろうってことになり、あっさり厨房勤めが決まったのだった。
今後、シモントンさんはおばちゃん特製のいろんな魔国料理の画像や動画を母船に送りつけ、ウツロブネで休みなく働くオペレーター達に飯テロを仕掛けることになるのだった。
謎に戦闘力が高まっていく王城の厨房……
まあアトリエで働いてロンゲラップさんの最新研究データが流出したら大変だし、これで良かったのだろう。
おばちゃんはシモントンさんと一緒に働きたくて料理を教えてみたらしいんだけど、イケメン天使が頑張って作成したメニューはパンケーキ……といえば言えなくもない謎のカリカリした甘い板だった。パンケーキっていうかメロンパンの上のとこだよね、これ。
「でもさ、砂糖をたっぷり振りかければ甘くて美味しいじゃないか!」
「ありがとうございます。アイリエン」
この王城の厨房で、ミス・パンケークスの物凄いポジティヴシンキングに反論できるものは誰もいなかった。




