表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/144

5.『パンケークス事件』part 6.

 私が悪いのか?


 確かに、私って間が悪い……というか運が悪いのは認めるよ。


 あの後、崩れるように倒れ込んだロプノール君をほかの教会スタッフさんとベッドに運び、チョコのことをその人に説明して足早に外に出た。ウサ子ちゃんのことは、何だか聞きそびれてしまった。それどころじゃなかったし。



「はぁ……」



 予定がうまくこなせなかったので、外はもうすっかり日が暮れている。これは、筋肉勇者様と話をするのは明日かな? などと考えていると、真横からヌッと出てきた影に話しかけられて、ボフッと筋肉にぶつかる。



「あいつは()()ってやつなのか?」


「ヒィ?! あれ? ベアトゥス様、待っててくれたんですか?」


「何か説明を()()()()()かと思ってな」


「ぐ……」



 もしや……怒ってる? ま、まあ……婚約者だし、怒ってるよね?


 もともと誤解を解こうとは思っていたんだけど、もはやどの誤解から解いたらいいのかわからない。でもここで黙り込んだりすると、筋肉勇者の思考回路がとんでもねえ間違った答えを引き出すぞ!


 

「ゴホン、まずですね、ロプノール君は元彼じゃありません」


「そうか」


「そ、それにベリル様の件はあの御方が勝手に……」


「お前は俺が嫌いか?」


「え? いや、嫌いとは思ってませんけど!」


「けど? なんだ、俺が怖いか?」


「えぇ……? そんなに詰められると……」



 まあ確かに「心から愛してる!」とか「運命の人だ!」みたいな強い気持ちは無いかもしんない。だけど貰った指輪も大切に持ってるし、私なりにちゃんとベアトゥス様に向き合っているつもりだ。


 怖いか? そりゃ怖いよ……こんなどデカい筋肉男は……



「ベ、ベアトゥス様は私のどこが、す、好きなんですか?!」



 こうなりゃ、もう逆に質問してやろうと思い、私はずっと謎だった疑問をぶつけた。


 最初は心のコアとか取り出しちゃったせいかな……? と思って納得してたけど、もしかしてあんま関係ないんじゃないかと最近は感じはじめてる。


 ハッと我に帰ると、道で揉めるカップルに、魔国民の皆さんが生暖かい視線を向けながら通り過ぎていく。このままじゃ悪目立ちして恥ずかしいので、私はベアトゥス様の服を引っ張った。



「どこへ行く?」


「歩きながら話しましょう。道の邪魔になってます」


「……これがお前の好きなところだ」


「は?」


「俺に話しかけてくれるところだ」



 ぐふっ……


 思わず自分の浅はかさにダメージを受ける。


 神国を守る竜を倒し、嫌われ者みたいになっちゃって孤独だった筋肉勇者には、話しかける者はいなかったのか……


 でもちょっとチョロ過ぎない??


 いやまあ、つらい境遇の人ってチョロいからこそ詐欺とかに狙われやすいんだよな……私もある意味では詐欺師枠だったしな、あん時。自分が生き延びるために、わけわかんないこと言いまくってた自覚はある。


 これって、依存なのかなぁ……?



「はじめは、俺がお前を選んだのだと思っていた」


「え……?」


「だが今は、お前が俺を導いてくれたのだと思う」


「いえ、そんな……ことは……」


「俺は、思い上がっていたのだ」



 ……ど、どゆこと?? 勇者だからか? ベアトゥス様の言葉の意図が汲み取れず、うまく答えられない。


 何を言ったらいいかわからないままベアトゥス様の顔を見上げると、何となく笑顔を向けられたような気がした。


 王城までたどり着くと、急に手を引かれて門番さんの詰め所とは逆側の城壁に進む。今まで全然気づかなかったけど、木に隠れて内側から階段が伸びており、城壁の上に出られるようになってるみたい。よく気づいたなぁ、さすが勇者。


 城壁の天辺まで登りきると、王都の明かりが星空と同じくらい煌めいていた。


 ベアトゥス様は、やっと私のほうに振り返って、真面目な顔で両手を取る。



「愛してくれなくてもいい。ただ……俺の隣りに居続けると言ってくれ」



 そんな……つらそうに笑わなくたって……



「あ、愛しますよちゃんと! それに、婚約者ですから、ずっと隣に居ます」


「そうか、ありがとう」



 何だかずっと勇者様に追い詰められてるような気分でいたけど、もしかすると、私のほうが彼を追い詰めていたのかもしれない。婚約者って何する人なんだろ……? 私は、もっとベアトゥス様の心の平安をお守りせねば。


 なんてことを考えていると、目の前に勇者様の顔が近づいてくる。


 わかりました、チューですね?


 さすがにこの程度のことはわかるんだぜ。


 異世界の(ほの)かな夜景をバックに恋人らしく口付けをして、私たちは何とか仲直りできたのだった。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「統率者たるロワがお呼びです」



 久々に王様から呼び出され、私は執事さんの後について王城の廊下を歩いていた。


 昨日あんまり眠れなかったので、ほとんど頭が働いていない。



「天使の斥候は周辺各国で見つかっているようです。あの精霊女王様は()()()()()行動してくれていますね」



 何だか含みのある笑顔を悪魔から向けられて、私はその意味を考えようとした。ベリル様が優秀な働きをしているってこと? なんかこっちからお礼しないといけないのかな?


 ぐるぐると考えているうちに謁見の間に着いてしまう。やっぱ寝ないとダメだ。


 まあいっか。どうせいつものおじさんたちに、何だかんだと面倒を押し付けられる流れだろう……なんて思いながら、たるんだ気持ちで室内に入ると、着飾ったお偉方がずらりと並んでいた。え? 急に何??


 よく見ると、王様と大臣さんの近くに精霊女王のベリル様も並んでいる。というかセンター取ってる。私が知らないうちに、魔国は精霊女王のものになってしまったのか?


 いつもの黒い棒みたいな大臣さんが、粛々と儀式的な進行役を務めていた。



「聞かれよ聞かれよ! これより伝えるは、北の聖山よりも高き意志と、南の峡谷より深き思議によりて、何人(なんぴと)にも覆されることなき決定である! 精霊女王ベリル様と魔国は、ここに永遠なる盟約を結ぶことを宣言する!」



 つまり、王様が代替わりしても、精霊女王との関わりは続くってことか……何だか仰々しいけど、事情を知らない人たちはこういう公の儀式でしか物事を判断できないので仕方ない。儀式がなければ、盟約は無いも同然と思われてしまうし、しょぼい儀式だと軽んじられる。なので、たくさん人を集めて絢爛豪華な儀式をすることが、魔国民や周辺諸国を納得させるメッセージになるのだった。


 基本的に噂話がメディア的な役割をしてて、王城にも『流したい噂を広める部署』とかがあるらしい。広めたくない噂が立ったときは、それより話題性のある噂を流して話題を変えるって技術があるのだとか。


 なんか……聞き覚えある話だけど……


 命に関わる災害のときとか、株式トレンド情報みたいなジャンルでは物凄く威力を発揮しそう。


 日頃、噂なんか気にしないって人でも、やっぱり焦ったときには「どんな情報でもいいから欲しい」と思ってしまうだろう。自分のことなら冷静に対処できるって人でも、愛するものが危機に陥っていたらどんな情報にも飛びついてしまうはずだ。


 ……あ、そっか。これは精霊女王様が他国で自由に行動するための盟約ってこと?


 神秘的すぎて存在を疑われてるホリーブレ洞窟の精霊女王様は、魔国の図書館にすらあんまり資料が無かったくらいだし、小国では情報皆無かもしれない。そうなると、天使捕獲作戦でいちいち事情を説明するのが面倒になってしまう。


 だけど、魔国の名前を出せば、周辺の国は一応おとなしく従ってくれるだろう。


 一方魔国としても、理由はどうあれ精霊女王様との強い繋がりをアピールしておけば何かとお得なのだ。


 そういえばさっき、執事さんがもう何人か天使が見つかってるとか言ってた……何か情報を入手したのかな?


 そんなことを考えていると、大臣さんに名前を呼ばれた。



「は、はい!」


「ミドヴェルト殿、あなたに天使討伐隊を率いる命がくだりましたぞ。しっかりと務められるように」


「え……私が?」


「ベリル様のご指名です。この決定は何人(なんぴと)にも覆されるものではありませぬ」



 おいおいおいおい! 焦って壇上のセンターに目をやると、正装した精霊女王のベリル様がニヤニヤとこっちを見ている。うぅ……バニラもっとぶっかけてやれば良かった!! っていうか、これがバニラの意趣返しかな?


 はぁ……これって受け入れる以外ないんだよね……?



「謹んでお受けいたします……」



 なんだか無茶振り過ぎて、逆に私は平常心で手をくるくるさせながら優雅にお辞儀をすることができたのだった。

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ