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5.『パンケークス事件』part 4.

「ベリル様って何となく天秤座っぽいですよねー……えっと、いつも受け身で、他人が思う姿に自分を合わせる。本音が言えないことが多く、駆け引き上手……ですって!」


「俺は受け身じゃないと思うけどなぁ……まあ、駆け引きは好きなほうだけどね。ん? キミはどう思う?」



 何とか私の右肩から引き剥がすことに成功した精霊女王様だったが、ほかにこの異世界に入り込んだかもしれないファビエル級の天使を探すことに協力してくれるという条件と引き換えに、うまいこと言って蓋つき寝台から出ることになった。だから、確かに駆け引きは得意なのかもしれない。私に取り憑いたら、またバニラシャワーの刑に処すという約束の元、青髪錬金術博士がストックしていたホムンクルス体に入ることになったのだった。



 なぜホムンクルス体なんてものをストックしているんだ、あの悪魔……いやまあ助かったけど……



 そんなわけでついさっき、アトリエからいつもの女子会に向かう私と一緒に、精霊女王ベリル様が新たに取り憑いたホムンクルス体はウッキウキで王城の裏庭についてきた。


 事情を知ってる妖精王女のアイテールちゃんはともかく、元祖ホムンクルス姫とヒュパティアさんは、伝説級の最強存在を前にして私から見ても相当動揺している。とりあえずアイコンタクトでみんなに話を合わせてもらうことにし、何とか場の空気を和ませようと思って、私は現実世界でちょっとだけハマっていた星占いをしてみることにしたのだった。


 異世界の天体がどうなっているのかわからないけど、お茶受けの話題としては無難かなと思った。魔国の暦は現実世界と少し違うけど、ここはとりあえず月が二つあるような場所じゃない。地球っぽいどこかなのではないだろうか。少なくとも火星ではないはず。ホロスコープの座標が大幅に変わるようなこともない……と思う。


 魔国の1年は、春夏秋冬をあらわす4つの季節と、一月目(ひとつきめ)二月目(ふたつきめ)三月目(みつきめ)という3つの月を組み合わせて12カ月って感じになっている。アイテールちゃんは、秋の二月目(ふたつきめ)生まれなので、蠍座ってことにしてみた。ホムンクルス姫は、春の二月目(ふたつきめ)生まれなので牡牛座。ヒュパティアさんは夏の三月目(みつきめ)生まれなので乙女座って感じ。あってるかな? ベリル様はいつ生まれたかわからないとのことなので、私が何となくの印象で推測して、()()()()()()ということに決定してみた。



「そういえばベリル様、覚えてらっしゃいますか? ホリーブレ洞窟でご挨拶させていただいた、妖精王女のアイテール様です。ご相談してた件なんですけど……」


「んああ、アレね。それ、ここで言っていい話なの?」



 意外な気遣いを見せる精霊女王様に、その場にいた全員が少なからず驚いた。私もかなりビックリしたけど、いちばん驚愕したのはアイテールちゃんかもしれない。なんせ破天荒な精霊女王様を目の当たりにして、自分の寿命を伸ばす件についてはすっかり諦め、悟りの境地に達していたのだ。悲しみの5段階モデルでいうところの『受容』になっちゃってたようだ。



「こちらにいらっしゃるのは、皆さま王女様と親しい間柄で、何を話しても大丈夫です」


「ふ〜ん……仲良しなんだね」



 ベリル様は私たちを眺め回しながら、呟いた。



「ベリル様、私からこんなことを言うのは不敬かもしれませんが、よろしければお友達になっていただけませんか?」


「は? 友達ぃ? まあ……ほかの子とは友達でもいいけど、キミと俺はもっとこうさぁ……」


「ま、まずはお友達からはじめましょう!」



 精霊女王様に無理やりお友達宣言をして、私はアイテールちゃん用のちっちゃい椅子をテーブルに置く。念のためベリル様にもお茶を淹れ、スミレの砂糖漬けをふたつ入れた。


 いつもは無難なはずの恋バナも、ベアトゥス様関連でちょっと差し障りがあるので避け、王都で流行っている物語本の話題で盛り上がってみる。


 続いて公爵様にもらったトランプゲームに興じ、ルール説明役のホムンクルス姫がベリル様と仲良くなって、ようやく場の空気が少し緩んだのだった。



「へぇ、そんで妖精王女ちゃんは、何かやりたいことでもあんの?」


「われは……わからない。すべきことばかりで、()()()()()()()()()()()()ゆえ」



 精霊女王に尋ねられ、アイテールちゃんは咄嗟にうまい答えを見つけることができなかった。でもそれは、ホムンクルス姫にもヒュパティアさんにも刺さる答えだったようだ。みんなすべきことをしてきた人たちだったのだ。今は明るく振る舞って幸せそうにしているけれど、過去に命を失うほどの経験をしてきた。そう考えると何だか深い話題になりそうだった。



「やりたいことがわからない? 自分のことなのに? そんな奴いる? ん? 俺の周りにはやりたいことしかやらない者ばかりで困ってたくらいなのにさ」



 アイテールちゃんを守るように、クリーム色のケット・シーが足元に座った。最近のアイテールちゃんは、王子殿下よりも、このケット・シーに乗って移動する姿をよく見かける。それでも仲良し度はまだまだフワフワちゃんのほうが上だ。ちっちゃい者同盟は固い絆で結ばれている。



「あれ? ()()()は……ふーん、なるほどねぇ」



 カードを見ながらベリル様が呟いた。



「長生きしたい気持ちはわかるよ。でもさぁ、結局は強いものが生き残るんだ。わかるだろ?」


「それはそうかもしれませんが……!」



 非力な妖精王女は生き残れないと言いたいのか?! 思わず私が反論しようとすると、アイテールちゃんがスッと立ち上がって制した。



「われは()()()をもとめたい」


「「「?!」」」


「いいね! そういう話なら俺は好きだな!」



 持っていたカードをパッと斜め後ろに投げ捨てて、ベリル様は立ち上がった。



「妖精魔法の仕組みは知っているだろう? 周囲に存在する精霊から力を借りて使うんだ」


「そ、それはわれもまなんでいる……」


「だから、精霊に愛されると、同じ魔法でも威力は増大するんだ。逆にヘイトを集めると弱くなる」



 私たちが、どういう意図でベリル様がそんな当たり前の説明をしたのかわからずにいると、精霊の女王様はアイテールちゃんを人差し指で軽く撫でながら言った。



「エノコロ草は弱いけど、人気があるんだよ♡」








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