4.『ホリーブレ洞窟にて』part 14.
「ム、ムー! ム、ムー!」
「だからごめんてば……フワフワちゃんは最後の登場だから、もっと後に活躍できるから!」
「さすが、おうじでんかはよゆうがあるの」
事態が落ち着くと、フワフワちゃんが不完全燃焼で何だかご機嫌斜めになっていた。
そうね、大活躍の予定がね、うんうんわかるよー。
「ムー!」
なでなでスリスリを何度か繰り返しているうちに、フワフワした王子殿下は私の膝の上で寝てしまった。可愛い……
妖精王女のアイテールちゃんは、もうすっかり悟りの境地に入っていて、私が出した花びらチョコを元気に頬張っている。
精霊女王の破天荒ぶりを目の当たりにしたことで、寿命について相談するのはほとんど無理だと思っているらしい。でも大丈夫。私との約束がまだ生きてれば、ベリル様にはアイテールちゃんの件、もう頼んであるからね!
でも、ベリル様がどこまで真面目に話を聞いてくれるかはちょっと自信がないので、このことはまだ内緒にしておこう。
なんだかんだあり過ぎて部屋でぐったりしていると、マーヤークさんがやってきた。
「失礼いたします。ミドヴェルト様、精霊女王様がお目覚めになりましたので会議を開くそうです」
「あ、はい……」
私は、ポッケの中にあるベリル様の心のコアっぽいものを、大精霊様方に見せていいものかどうか悩んでいた。まずはベリル様に話しておいたほうがいいんじゃないかな? だって自分の心だし……知る権利はあるだろう。
勇者様は心のコアを抜き取った後、結構穏やかになったけど、精霊女王様はどうなっているのか?
気になることがいっぱいありすぎて、私は肝心なことを忘れていた。
「俺の負けだよ。ほらどうだ? 認めてやったぞ。もういいだろ?」
ホリーブレ中央部地下の殺風景な一室で、ベリル様は不機嫌に上から目線で話をしている。心のコアを抜かれてるわりに、ほとんど今までと同じような態度で、少し元気がないだけだった。なんせトゲトゲのイラクサで作られた縄でぐるぐる巻きになっている。多少は落ち込むのも当然だろう。
よくわからないけど、精霊はイラクサに弱いらしい。そういや、お伽噺で白鳥にイラクサで編んだベストを着せたら人間に戻るってやつあったな……あとは、某名探偵が太りすぎてイラクサジュース飲まされてた気がする。私のイラクサ情報はこの程度だったけど、今日新たにイラクサロープが追加された。
大精霊様方はベリル様を取り囲んで、ヒソヒソと話し合っていたけど、どうにも答えの出ない会議が続く。
私はこっそりと精霊女王のものと思われる心のコアを持って、質問に答えてくださいと祈ってみた。
すると、何やら眉を顰めた精霊女王様はこっちを見てフッと笑って首を傾げる。
やっぱ精霊女王様だけあって、筋肉勇者のようにロボ化はしないみたい。意識がある状態でやり取りできそうで、ある意味助かる。私は誰にもバレないようにポッケの中で心のコアに触れながら、話しかけてみる。
「ベリル様大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「キミのおかげでこうなってるんだけどね」
「す、すみません……でもベリル様がこの状況を望んだのでは?」
「どーして? 俺はこいつらをぶん殴って、スカッとしたらすぐ帰るつもりだったんだけど」
その話を聞いて、室内に居た大精霊様方は震え上がってしまった。カルセドニー様は一歩下がり、ペッツォ様は頭を抱えている。ジェット様とスファレ様は、武器に手を掛けながらもしもの場合に備えていた。イラクサパワーがどこまで凄いのかわからないけど、ベリル様は瞬間移動ができるから、いつ逃げられてもおかしくない。
それに、アイテールちゃん問題はこれから交渉なのだ。
あとは、あのおばあちゃんが誰なのかってことと……あ!
「そういえば、どうして勇者様はベリル様と互角に戦えたんでしょうか?」
「んー……それ、僕に聞くこと?」
あ、やば。敗者インタビューで敗因を聞くのは野暮だったか。
「あ、僕もそれ聞きたい。ベリルのこと殴りたい」
カルセドニー様が急に煽るようなことを言うので、ペッツォ様が慌てて「バカ!」と口を覆う。
一方、ベリル様は、何も気にしない様子で両手を伸ばしてあくびをしている。
あれ? イラクサは……?
「気をつけろ! ベリルが拘束を解いたぞ!」
「ん? ああ、逃げやしない。大丈夫だ」
アズラ様が焦ってみんなに指示を出すと、ベリル様は両腕を枕にベッドに寝直した。そのまま横向きに寝転がって、頬杖をつきながら自分の髪をいじりはじめる。
「でぇ? ほかに聞きたいことはある?」
「あの、妖精の母って本当は誰なんですか?」
「ああ、あのババア達はイザイザっていうんだ。この世界を作って管理しているアバターさ」
私はてっきり精霊女王様がこの世界の神様なのかと思っていたけど、どうやらそうではないらしい。あのおばあちゃん達のほうが神様的な存在? アバターってことは、外の世界に本体がいる?
イザイザ……双子……世界を作る……いやまさかね。
「ベリル……物理攻撃の必要性はどこまで高くなっているんだ?」
急に世界の秘密を聞いちゃって、なんとなくみんなが神妙になっているところで、アズラ様が口を開いた。事情を知ってそうな大精霊様のご質問に、精霊女王様も真面目な顔でお返しになる。
「まだしばらくは平気さ。ただ、準備は怠らぬようにと、イザイザからの御神託だ」
精霊はこの世界を守る者。空気のようにあらゆる場所に存在して、この世界を満たしているらしい。いわばこの世界の防犯システムで、地球を守る大気圏のように、上空で不純物を燃やし尽くしている。ここ数千年はずっと天使と戦っていて、今は少し押され気味なのだとか。イザイザ様達は、精霊女王様を鍛え上げることでシステム強化に取り組んでいるみたいだった。
でも肝心の精霊女王がぶっ壊れキャラで、単純に強化すれば自滅する可能性があるから、なんだかんだと条件をつけていたっぽい。実際、ベリル様は防犯どころかホリーブレ殲滅を夢見る乙女だった。いや、今も夢見ている。なかなかに危険な存在といえる。
しかし天使ねぇ……確かに……滅多に見ないのはまだ入りこんで来てないからか。
ん? そういやイレギュラーな存在が誰かさんのアトリエにいたなぁ……
まあ、マルパッセさんは経由が違うから仕方ないか。
「あ、でもウツロブネの記憶は持ってたなぁ……」
「君、ウツロブネのこと知ってるの?!」
ベリル様が突然ガバッと起き上がって私に詰め寄る。
「あ、はい……知り合いに天使のオジサンがいまして……」
「何それ、連れて来て! いや、俺が行く! いいよね?!」
大精霊様方は、快くベリル様を送り出すことに賛成してくれた。




