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1.『妖精王女の憂鬱』part 2.

 王都のアンティークショップで勇者様と仕事ついでにデートしてたら、冥金(タンタル)の鉱山に設置されてた怪しい箱とおんなじ箱を見つけてしまった私。


 やっぱ、買うしかないよね……でも良いのかな? 急に魔物出てきたりしない?? 蓋がぴっちり閉じてるから大丈夫か……? 似てるだけでただの箱かも知んないし……とにかく見逃して後悔するよりは、手に入れて執事さんか青髪錬金術博士に見せたほうがいい気がする。



「それが欲しいのか? 買ってやるぞ」


「いえいえ! これは自分で買いますので!」



 積極的にお財布になろうとする勇者様を振り切り、箱を持ってお会計をしようとお店の奥に行くと、店主っぽい位置にちみっと鎮座ましますのは幼女だった。



「ちょっといいかなー? お店の人呼んでもらえる?」


「ああ、それは35Gじゃ。釣り銭はないぞ」



 なんか急におじいさんの声がして、私は心底ビビる。でも、失礼かと思って必死に耐えた。陰に座ってるのか?? キョロキョロしていると、またしても同じおじいさんの声が下のほうから聞こえた。



「買うのか買わんのか? 50Gにしてやろうか?」


「おい、そりゃボッタクリ価格ってもんだろ!」



 後ろからベアトゥス様が話に割って入ってきて、その視線が完全に幼女に向けられているのを見てはじめて理解した。おじいさんの声は、目の前の幼女から出ていたのだ。



「ひぃ……!」


「任せろ、食材の値切りで慣れている」



 いや、値上げにビビったわけじゃないんですけど……思わずベアトゥス様の勇者っぽいカットインに一歩引いてしまったけど、おかげで少し冷静になれた。現実世界でも美少女キャラで活動してるおじさんいっぱい居たもんね……この程度は普通だったわ……というか、外国のキャラで赤ちゃんなのに葉巻のおじさんみたいなの居たよな。うん、普通普通。大丈夫だ、平常心カモン。



「あの、おじ……店主さん、この箱ってどこで仕入れたんですか?」


「あん? それはじゃなぁ……」



 近くの棚にあった台帳をペラペラとめくって、幼女店主は「おろろ……?」などと(つぶや)いている。これは手がかり無しか……? しばらく台帳とにらめっこしてから、幼女店主は低いおじいさんの声で決めゼリフを言う。



()()()()されたもんじゃ!」


「ま、万押しって……」


「まあ万引きよりはマシじゃろ」


「いやいや……怪しすぎますって。爆発物とかだったらどうするんですか!」



 仕方なく話せる範囲の事情を話して、危険物の可能性があるから引き取りたいと言って50G払った。勇者様は危険物と聞いて買うのに大反対し、50Gという金額にもブツブツ文句を言ってたけど、何とか穏便に店を出てくれた。



「大丈夫ですよ、蓋さえ完全に閉まっていれば」


「そういうことを言っているのではないが……はあ……まあお前の好きにしろ。ただ、こういうことは俺が一緒にいるときだけにしてくれよ……」



 なんか心配させちゃったみたいだな。でも気になることは確認しないとね。人間関係は譲り譲られだって聞くし、ベアトゥス様って意外と譲ってくれて助かる。結婚した途端豹変しないといいけど……って、マジ結婚すんのかな?


 まあ、私も多少は譲っておかないといけないか。



「わかりました、今後はできるだけベアトゥス様に同行していただきますね!」


「おう、そうしてくれ」



 思いのほか有意義なデートになって、私たちは仲良く王城に戻ったのだった。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「なるほど……これは確かに似ていますね」



 フワフワちゃんが私の部屋に遊びにきたついでに、王子殿下に付き添ってきた執事悪魔のマーヤークさんに例の箱を見せると、何やら慎重に確認されて、調査すると言ってくれた。


 まさかとは思うけど、テロの可能性もあるし、不審物はスルーしないで報告するしかない。


 でも、罠を仕掛けるならデザインとかバラバラの箱使うか……見つかりやすくなっちゃうもんなぁ……


 などと考えていると、なんか執事さんの視線を感じる。



「な……何です……?」


「いえ……()()()()調()のようですね」


「へ? あ! いやあの! べべべべつにサボったりは……!」


「ふふ……忙しいときこそ息抜きが必要ですし」


「ムー!」


「うわわ、あれ? そういえば妖精王女様は……?」



 なんかいつもと違うと思ったら、アイテールちゃんが見当たらないのだった。フワフワちゃんが私の部屋に来るときは、必ずといっていいほど妖精王女Pがセットになっているのに、一体どうしたのか?


 私の疑問に困ったような顔のマーヤークさんが事情を説明してくれた。



「それがですね……」





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「大丈夫ですか? 寝込んだって聞いてびっくりしましたよ!」



 妖精王女のアイテールちゃんが元気ないと執事さんに聞いて、私は慌ててお見舞いがてら様子を見に行くことにした。手土産はいつもの花びらチョコと、ベアトゥス様お手製の『緑いっぱい気まぐれシードケーキ』だ。


 妖精が植物に縁が深いと聞いたベアトゥス様が、ささっと渡してくれた。何という女子力の高さ。いや、パティシエ力なのか。


 西の森ホテルの特別メニューや結婚の儀でいろいろ頼んだせいか、筋肉勇者様はケーキ作りにどハマりしたらしい。それを聞いたメガラニカ王が大爆笑していたので、ヒュパティアさんに教育的指導をお願いしておいた。


 王女様の部屋に入ると、アイテールちゃんはベッドに寝てはいなかった。焦って辺りを見回すと、窓辺の(さん)に寝そべって言葉少なに外を眺めている。


 見た感じ、熱があるとか喉が痛いとかいう感じではなさそう。少しホッとして、部屋の椅子を窓に運ぶ。アイテールちゃんと一緒に外を眺めていると、妖精王女ちゃんの視線が裏庭に向いているような気がした。



「裏庭に出て気分転換しませんか?」


「きょういくがかりどのよ……われの『おし』がみつからぬのだ……」


「……え?」



 妖精王女様の脱力感が伝染してしまった私は、窓に肩を預けて空を見上げる。病気ってわけじゃないみたいだけど、ある意味ビョーキだわ……



「王女様、好きな人は急に見つかるものですよ。あまり焦らないでゆっくり探しましょう」


「しかし、われのいのちは、あとわずかなのだ……」


「え? それはどういう……」


「われは、えのころぐさからうまれたゆえ、いのちのながさもあまりない」


「そんな……」


「かちのないみゆえ、むかえがこぬのかもしれぬな……」



 うそ、え? アイテールちゃん……こんなに若いのに死んじゃうの……?


 急に深刻な状況に焦る。いやでも、私のこと教育係として信頼してくれるから、こんな相談してくれたんだよね。や、やっぱり今のうちに素敵な恋愛を体験させてあげなくちゃ……だよね!


 何をすべきか、頭の中がだんだん整理されて段取りが見えてくる。まずは、青髪悪魔のロンゲラップさんに診察してもらおう。それからアイテールちゃんがどんな相手を求めているのかヒアリングして……



「なんと! このけーきはぜっぴんじゃな!」



 後ろから聞こえてくる元気な声に振り返ってみると、テーブルに置いた差し入れの緑いっぱいケーキに、妖精王女ちゃんが夢中になっていた。


 あ、あれ……? 最期が近いってわけじゃなさそうな……空元気??


 ま、まあ……身動きできないほどの重症じゃなくてよかった……のか??





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「ふむ……とりあえず問題はないようだな」


「ほ、本当ですか?!」


「ああ、魔力の流れにも乱れはないし、崩壊の兆しはない」


「はぁ……よかった」


「だが、草が核になっている妖精なら、確かに寿命は短くなる」


「え……」


「やはり、われはもう……」



 往診してくれた錬金術博士ロンゲラップ大先生の語り口から察するに、妖精王女のアイテールちゃんがすぐに大変なことになるとは考えていないみたいだった。アイテールちゃんのエノコロ草パワーは確かに尽きつつあるっぽいんだけど、私の魔法で出した花びらチョコを食べていたことでだいぶ緩和されているらしかった。


 ロンゲラップさんがテーブルの上の緑ケーキに目を止めたので、ひと切れお勧めすると、まさかの受け入れ態勢でビックリ。ベアトゥス様のグルメな魅力にさすがの悪魔もやられたか?! ……と思って、香りの良いお茶と一緒に提供すると、黙々とケーキを細切れにして謎の器具で分析をはじめた。食わんのかい!



「なるほどな……」


「何かわかったんですか?」


「植物から生まれた妖精は、やはり植物の生命力と相性がいいようだ」


「へぇ……」


「今後は、花の蜜や種子などを多めに摂取するといいだろう」


「それは、われもすきなものだが……」



 伝説の錬金術博士様の見立てによれば、アイテールちゃんは、これまで通りの生活でまだまだ元気に暮らせるそうだ。良かった……


 でも仲の良いホムンクルス姫とヒュパティアさんが結婚し、私にも勇者様というお相手ができてしまったことで、アイテールちゃんは何となく気軽に話せる相手がいなくなってしまったように感じていたそうだ。


 妖精国からも音沙汰がなく、自分の価値について、改めて考え込んでしまったみたい。



「やはり……われはもう、だれにもひつようとされぬのじゃな……」


「そんなことありませんよ、気の持ちようですって! 知らせがないのは良い知らせって言うじゃないですか!」


「そうであろうか……?」



 魔国にだいぶ馴染んでたからすっかり忘れてたけど、妖精王女のアイテールちゃんは、自己肯定感低いキャラだった。安定してた環境が変化することで、ストレス感じて体調が崩れちゃったのかな?


 女子会自体は定期的に開催してるから、お友達との語らいは減ってないはず。急な結婚ブームに当てられたのか?


 推しが見つからないって悩んでたし、恋愛への歩み寄りが精神的負担になった??


 妖精王女様のドライな姿勢は、自分を守るための盾だったのかもしれない。誰かの恋愛を見物して楽しむだけじゃなく、自分も恋愛をしたいって思ってくれたのは、現実世界の価値観を持つ私からすると良いことだと思えた。でも王族の立場だったり、政略結婚が普通に行われてる世界では、恋愛結婚の存在なんて知らないほうが身のためだったのかも。


 可能性に気づいてしまって逆につらいって場合もあるだろうし、私も良かれと思って妖精王女ちゃんに人生の楽しみを見つけてほしいとか考えてしまったけど、もしかして残酷なことをしてしまったんだろうか……?


 こんなとき、うまいこと話をまとめてくれた理想的な友人だった頃のロプノール君はもう居ないし……いや、死んでないけど。


 確実に状況が変わっていることを、改めて思い知らされた。



「王女様、私も一緒に探しますよ!」


「な、なにをするきじゃ?!」


「まずは、どんな方が好みなのか教えてください!」



 あえてお節介キャラになってズイッと前のめりになる私に、アイテールちゃんは軽く引いていた。






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