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4.『ホリーブレ洞窟にて』part 6.

「ホリーブレ洞窟の中央部に入れてもらえたということは、我々が敵視されているわけではないのでしょうな」



 少し広めの客間に案内されて、私たちは思い思いにくつろぎはじめた。いや、最初のうちはちゃんと緊張して真面目にソファに座ってたんだけど、もうかれこれ3時間以上放置されてるんだよね。こりゃもう今日の謁見はないんじゃないかっていう空気が漂って、セドレツ大臣とマーヤークさんが何やら相談をしている脇で、私たちはふかふかのカーペットに寝そべってトランプをはじめたのだった。


 お行儀悪いけど、しょうがない。少し小さい入口以外、周りは全部洞窟の壁が剥き出しになっていて、何というかワイルドな気分になってしまうのだから許してほしい。


 ホリーブレ洞窟は結構大きなひとつのドーム型の広場みたいな感じなんだけど、そこにある居住区はすべて地下に広がっているらしかった。とにかく洞窟内の景観を壊さないための措置らしく、今はいろいろ発展して部屋とか家具とか使っちゃったりしてるけど、大昔は大聖霊も麗人も地面にそのまま寝たりしていたらしい。見た目は昔のまま保存して、一歩中に入ると最先端の室内って感じになっている。


 私たちが今いる客間も、石の階段を降りてすぐのところにある地下室だ。


 どうしても秘密基地っぽくてワクワクしてしまう。



「ムー!」


「おうじでんかよ、このかーどはまだつかうべきではなかったな」


「あ、王女様の勝ちですね」


「ム、ムー! ム、ムー!」



 時間を忘れてトランプに夢中になっていると、ドアがノックされて声がする。



「失礼いたします。大精霊アズラ様がお会いになりたいそうです」



 急に呼び出されて、私たちは取るものもとりあえず麗人みたいな兵隊さんについていくしかなかった。


 麗人って割とメジャーな存在なのかな……? さっきから軍関係の人いっぱい見かけてるけど、みんな人間みたいな大きさだ。たぶん武器が人間サイズのものが多いからだと思うけど、ポヴェーリアさんに聞いた時点では、麗人ってそこそこレアな感じかと思ってた。まあ……あの悪い人が本当のこと教えてくれるという前提条件がそもそも成り立ってない気もするけど……



「なぜ精霊王ではなく、大精霊様にお会いすることになっているのか、お聞かせ願いたいものだが」

 

「我らはお呼びせよという命を受けているだけでして、詳しい事情は存じ上げません」


「では大精霊様はどのような用件で我らをお呼びなのでしょうかな?」


「存じ上げません」



 セドレツ大臣の健闘も(むな)しく、なんでこんなことになっちゃってるのかは全然わからなかった。


 みんなが警戒する中、私は精霊王がどんなビジュアルなのか、超気になってワクワクしてしまう。麗人のアミルカレさんも明るいとこで見たらかなりのイケメンだったし、たぶん麗人のポヴェーリアさんも、中身はともかくガワは超イケメンだったと思う。そこかしこに立っている兵隊さんたちも整った顔してるし、もしかすると精霊国はイケメンパラダイスなのではないか?


 ホリーブレ洞窟に何かが起こっているのか、いつもこのくらい兵隊さんたちがいるものなのか、比較対象がないからよくわかんないけど、少なくともピリピリした雰囲気はある。


 案内の兵隊さんがドアの前に立ち止まって報告をすると、バタンと勝手に両扉が開いて「中へどうぞ」と声がした。


 セドレツ大臣に続いてフワフワちゃんやアイテールちゃんとと一緒に入っていくと、執務室みたいなところにラピスラズリみたいにキラキラした青い髪を背中まで伸ばしたイケメンが、悩ましげに左手で額を押さえながらペンを走らせている。


 人を呼んどいて仕事中って凄いな。


 と、一瞬思ったけど、もしかしたら精霊は魔物や人間のことなどなんとも思っていないのかもしれない。妖精のことはどう思っているのだろうか。アイテールちゃんのこと助けてくれないと困るんだけど……などと考えていると、お付きの麗人さんが大精霊様の耳元に何かを囁いた。



「おお、魔国の使者よ! これは失礼、少々考え事をしていたものでね」



 大精霊アズラ様は、やっと今気づいたと言わんばかりに立ち上がって椅子を勧めてくれた。そこまで尊大な感じじゃなさそうで安心。単なるおっちょこちょいさんなのだろうか? 横に立つお付きの麗人が軽くため息をついているので、わりと苦労性のようだと感じる。



「精霊女王様に御目通りをご希望とのことだったかな?」


「はい、その通りでございます」



 セドレツ大臣が質問に答えると、お付きの麗人さんが咳払いをした。するとアズラ様はちょっと考えてから「ああ!」と気付いたように両手を広げてこちらに向き直る。



「失礼、私が大精霊アズラだ。まあ適当に呼んでくれ」


「ご紹介に預かり光栄です。私は王命によりこの使節団の代表を務めます、セドレツ・アッシャー=グネルクル・ド・ライセルベリーハイネと申します。こちらが魔国の王子殿下であらせられるタウオン・イム・ジェヴォーダン様、そしてこちらが妖精国の姫君アイテール・ウル・ファンタジア様です」


「なるほど、錚々(そうそう)たるメンバーというわけだね。で、その御用向きは?」


「ことの詳細はこちらに」



 セドレツ大臣が厳重に封をされた書類を取り出すと、お付きの麗人さんがそれを受け取る。アズラ様はスルリと何でもないように封を解き、目だけでささっと内容を確認すると、そのまま机の引き出しにしまって鍵をかけた。



「ふむ……これは()()()()()()といえるかな」



 大精霊アズラ様は、少し考え込んで私たちを見る。



「精霊女王ベリル様は、いま忙しいのだ。ご自分の成長に興味をお持ちになって、修行の旅に出ておられる」


「は? 修行……ですか?」


「わかります。()()()()()()になりますよね。でも事実なのですよ」



 アズラ様の言葉に驚いて語彙力が極端に低下したセドレツ大臣に憐れみの目を向けながら、お付きの麗人さんが優しく付け足した。


 もう私は理解した。この精霊国は、かなりハチャメチャが押し寄せている。こういうときは何も考えずに、ただ現実を受け入れることが最良であり唯一の手段なのだ。


 アイテールちゃんには悪いけど、こういうどうしようもない()()()を相手にするときは、ひたすら待ちの姿勢を貫くしかない。



「実はだな……」



 眉間を右手の指で押さえながら話し出した大精霊アズラ様のお言葉によると、精霊女王は魔法においては攻守ともに右に出る者のいない強者であるが、物理攻撃になると少々不安を感じることがあったのだという。精霊女王もまた、不思議種族の例に漏れず概念的な存在なので、物理攻撃を受けてもダメージはないらしい。だけど、自分が攻撃する段になると不便を感じていたのだとか。


 精霊女王って格闘技の世界戦王者かなんかなの……?


 さすがに話が意味不明すぎるんだけど、こんな嘘つくぐらいなら初めから私たちを呼び出さないと思うし、一応は信じるしかない。



「精霊女王様って、面白い人なんですねぇ……」


「ムー!」


「われがきいたはなしとは、ずいぶんちがうようすだが……」



 なんだか緊張感が解けてしまって私たちが私語をはじめると、お付きの麗人さんがまたアズラ様に耳打ちして、「おお!」と納得した大精霊様がこちらを見ながら不敵な笑みを浮かべた。



「あー失礼、魔国の王子殿、君はかなりの強者(つわもの)と聞くが本当かね?」


「ムー!」


「なるほど自信アリか……ならば協力してほしいことがある」


「ムー?」



 その日、ホリーブレ洞窟中央部にて、大規模な格闘イベント開催の発表が行われた。

 


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