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4.『ホリーブレ洞窟にて』part 3.

『ようこそ王子殿下! そして妖精国の姫!』


 何やら私たち一行の到着が前もって知らされていたようで、次の町の入り口にはでっかい横断幕が掲げられていた。段々と砂漠地帯に近づいているとのことで、全体的にサンドベージュな色合いの建物が続く。


 ここら辺では木材が貴重らしく、ほとんどの家が砂レンガで建てられているようだ。



「うわー! 大歓迎みたいですね」


「ムー! ムー!」


「このあたりはひどく()()()()しておるな」


「大丈夫ですか? 王女様」


「ムー?」


「しんぱいむようじゃ。このていどではまだな」



 アイテールちゃんは、私たちが心配しないように強がっていたけど、植物パワーが無いところではかなりつらそうだ。できるだけ水や草木のあるオアシスに近づいてもらって、妖精王女ちゃんが潤っていられるようにしなければ。



「執事さん、この町にも何か問題があったりするんですか?」



私は、あとどのくらいこの砂漠地帯に居なければいけないのか確認しておく必要があると思い、隣りでアンニュイに窓の外を見ているマーヤークさんに話しかけた。



「さあ……どうでしょう。報告はまだ私のところまで来ておりませんので」


「そうですか……ホリーブレ洞窟までは、できるだけ早く着きたいので、よろしくお願いします」



 わかってるよね? この旅の目的はアイテールちゃんのためにあるんだからね!


 という意図を込めてマーヤークさんをジッと見てみるけど、相変わらず何を考えているのかわからない。


 仕方なく目の前のココノールさんを見ると、昨日の夜は大捕物でお忙しかったのか、(うつむ)いてうつらうつらと寝ているようだった。


 邪魔しちゃいけないな……と思って目をそらすと、悪魔執事が急に厳しい声で「おい、お前!」と言うので、超ビビって肩に座るアイテールちゃんが跳ねてしまう。



「何をサボっているのです。たるんでいますよ。ミドヴェルト様が報告をお待ちだというのに」


「えっ? 私は別に……!」


「申し訳ございませんでした。今回の宿泊予定地には、とくに解決すべき問題はございません。しかしながら、この先3つの町で懸案がございまして、こちらは証拠を押さえ次第、順次処理する予定です。ホリーブレ洞窟到着は、4日後の正午ごろとなっております」


「よろしい。ミドヴェルト様、このような状況ですので、もう少々お待ちいただけますでしょうか?」


「あ、はい……ココノールさん、あまり無理しないでくださいね……」


「ご心配ありがとうございます」



 うわー……やっぱり悪魔だわ……


 私は、ココノールさんができるだけくつろげるように、もう余計なことは言わないと心に誓う。


 あとでGABAとかマカとか入ったチョコでも差し入れとくか……出せるかな? っていうか、これもハラスメントになったりするんだろうか? 栄養摂ってもっと働けみたいに思われたら本末転倒だ。


 アイテールちゃんには早く元気になってもらいたいし、ココノールさんには無理してほしくないし、私は何もしてないしで、もう居たたまれなさ過ぎる。


 とにかく今日は、純粋に休めるみたいだし、何か私にできることを考えてみよう。忘れかけてたけど、私だってこの出張で何かを評価されてしまうのだ。王様からは、教育係から外す予定はないっぽいこと言われてるけど、頑張る姿勢を見せないとほかの大臣達に文句を言われてしまうかもしれない。


 頑張っていい仕事をするっていうのは素晴らしいことだけど、ブラックな職場環境は改善しないといけないよね。


 あとはマーヤークさんの圧迫感だな……今すぐ注意したいけど、みんなの前で恥をかかせたとか何とかで問題がこじれるとアレだから、あとで話し合ってみるしかない。悪魔に恥の概念はあるのだろうか? そういや悪魔は存在自体が概念とか言ってた気がする。概念に概念は持てるのか? 謎だ……


 そんなことを考えているうちに、私たちは砂漠の宿屋に到着した。


 魔車から降りると、何やら楽団のパレードがやってきて、紙吹雪っぽいものが盛大に撒き散らされる。わちゃわちゃと子供が花束を持ってきて、なぜか私が受け取る羽目になった。


 ひとしきり儀式が終わると、何やら大きく両手を広げたおじさんが近づいてきた。すしざんまい再びか?



「ようこそ我が町へ! お待ちしておりました!」


「ムー!」


「かんげいのぎ、かんしゃする」



 なんか偉そうな雰囲気だから領主ってやつかなと思ったけど、町長さんらしい。魔国では代官という役職にあたり、本来領主がすべき仕事を請け負う公務員みたいなものだ。王城で選抜されて、領主から要請があると送り出される。そのため、その地方生まれってわけではなく、いわゆる余所者なのだった。


 この町の町長さんは、かなりやり手で所謂()()()()系っぽい。


 灌漑(かんがい)事業とかにも積極的に取り組んでいて、町の中はどこもかしこも綺麗に保たれている。運河とか噴水とかもあって、適度に緑が配置されているのだった。外側からは想像もつかないオアシスの楽園だ。


 これならアイテールちゃんも少しは楽になるんじゃないだろうか?



「王女様、この辺は緑もいっぱいで空気がいいですね!」


「うむ、このばしょは、()()()()()がおおくあつまってきている」



 水の精ってことは……精霊だよね。私にはまったく見えないけど、これ、ホリーブレ洞窟に行っても大丈夫かな……?


 もしかすると、ドレスコードの心配とかしてる場合じゃないかもしれない。


 ご挨拶しようとする相手の姿が見えないのでは、手も足も出ないってもんですよ!



「私には水の精が見えないんですけど、どんな感じなんですか?」


「われにもみえてはいない。ただその()()()()をかんじるだけで」


「え? そ、そうなんですか? 私はてっきり……」


「きょういくがかりどのだけがみえていないわけではない。あんずるな」


「はあ……」



 有り様を感じるとは……


 何だか難しいような当たり前のような、謎かけみたいな話をされて、私は頭がこんがらがってしまった。


 ホリーブレ洞窟に行く前に、やるべきことが多すぎるんじゃない?


 深く考えないほうがいいんだろうけど、脳が勝手にいろいろ心配して妄想を膨らませてしまう。うぅ……どうすればいいのか……





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「本日のお部屋はこちらです。私はこの部屋におりますので、ご用があればお呼びください」



 昨日の違法建築物件とは違って、今日の宿屋は中堅どころでスッキリした普通の建物だった。宿の裏手に魔車を停めて、私たちはココノールさんの案内でそれぞれの部屋へと入る。と、その前に、私はマーヤークさんを呼び止めた。



「すみません執事さん、ちょっといいですか?」


「何でしょう?」


「あの、ご相談があるんですけど……」


「それでは、のちほどミドヴェルト様のお部屋にお伺いします」


「わ、わかりました」



 忙しいときに余計なこと言ったら怒られるかな? ドキドキしながら自分の部屋に入って、言うことをあれこれと脳内でまとめてみて、切り出し方を練習する。何やってんだろ、私。執事さんは長年たくさんの部下を使ってきた経験者なんだし、ぽっと出の私にうるさいことを言われたくないだろうな。だけど、時間が経ってしまうと説明が難しくなるし、今まで食べたパンの数を覚えてない系の反応をされても困ってしまう。


 まずは普通の会話からはじめて、ハラスメント駄目、絶対。の方向に話を持っていこう……


 などと考えているとドアがノックされる。



「はい、どうぞ」


「失礼いたします」



 丁寧な礼をして部屋に入ってきたマーヤークさんは、私のほうを見て何か目を泳がせていた。もしかして自分でもココノールさんに厳しくしすぎたって思ってるのかな? 私が苦言を(てい)そうとしているのに気付いた??


 さっきまで完璧にできていたはずだった話の組み立てが、一瞬でぐずぐずに崩れるのを感じる。待って、まずは普通の会話から。いや普通ってなんだ?



「ど、どうぞお座りください」


「では失礼いたします」



 私の部屋には、ベッドと椅子とテーブルがひとつずつあった。マーヤークさんに椅子を勧めて、私はウロウロと部屋を歩き回る。どう話を切り出そうか迷っていると、執事さんが口を開いた。



「……勇者殿とうまく行っていないのですか?」


「へ?」


「おや、違いましたか? 伝言魔法でも使いたいのかと思っていたのですが」



 そういえば……出かける前にベアトゥス様と公爵領に出かけて、蛇男君たちのお手伝いをして、なし崩し的にここまで来ちゃった。ホリーブレ洞窟行きは勇者様に伝えてあったはずだけど、妖精国に行くだけでなんかつらいみたいなこと言ってたし……まずったか?



「い、いえ……そうじゃなくてですね。あ、いや使えるなら使いたかったりもするんですけど、や、違います」


「そうですか、今こちらからでもホリーブレに到着してからでも、いつでも伝言はできますので」


「は、はい。それじゃ後で……じゃなくて!」



 私がすっかり慌てて大声を出してしまったので、マーヤークさんは目を丸くする。



「すみません、余計なことかもしれませんが、ココノールさんにあまり無理をさせないようにしていただきたいんです」


「ほう……」



 執事悪魔は薄い笑顔で私を見る。


 考えてみたら、王城に来たばっかりのとき、執事さんもフワフワちゃんにめっちゃ蹴られてた。


 魔国では、少し厳しいからって問題にはならないのかもしれない。


 でも……



「マーヤークさんの仕事方針にケチをつけるつもりはないんですけど、もう少し優しい言葉をかけてあげてもいいんじゃないでしょうか?」



 私の勝手な感情で、余計なことを言っている。


 特殊調査員っていう職業柄、甘いことを言っては命に関わるのかもしれない。


 でもだからこそ、ミスを誘発しないためにも、疲労やストレスをためない働き方をさせてあげなくちゃいけないんじゃない? ……と思う。



「だから、徹夜で働いた後くらいは、代休を取らせてあげてください!」


「……承知いたしました」


「へ?」



 あっけなく了承されたので、私はおかしな返事をしてしまった。もっとなんかこう……現実を突きつけられるような反論されたりするんじゃないの? いや、別にお説教されたいわけじゃないんですけど。



「やはり、ミドヴェルト様はお優しいですね……教育係として、これからも期待されてしかるべきでしょう」


「はあ、ありがとうございます……?」


「この件は上に報告しておきますね。それでは失礼いたします」



 んん……? 報告とは?! サクッと撤収していったマーヤークさんの言葉に、私はまんまと試されたことを察した。もしかすると、これが私の人事異動に関するテストだった? ホリーブレ洞窟に行ってからじゃなかったの?? いやでも、これで終わりじゃないだろうし、明日からも気を引き締めていかなきゃ駄目だろ! 蛇男君の最後を思い出せ! 私は嘘のように負けちゃダメだ。いや、あれはアレでしょうがなかったと思うけれども。


 その晩は、何事もなく安眠できる予定だったんだけど、余計なことばかり考えてしまって結局あまり眠れなかった。






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