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10.『賢者の選択』part 38.

「それでは、新郎新婦の入場です!」



 もう何度目かの結婚式イベントで、だいぶ慣れているかと思いきや、自分の結婚式はまた初めての経験でとんでもなくドタバタしてしまった。


 まず、ドレスのサイズが合ってなかった……


 そんでもって、結婚指輪がどっかにいっちゃったり、靴が片方どっかいっちゃったり……細かいところがうまく行かなくて、とんでもなく大変だったのだ。


 正直、今この瞬間、無事に結婚式がはじまったことが奇跡レベル。


 式の会場は、ベアトゥス様のご希望で王都の教会となった。


 これもドタバタの一因となっている。


 大司教のロプノールくんは、意外にも二つ返事で引き受けてくれたんだけど、正直何かハプニングがあるんじゃないかと疑心暗鬼になってしまった。


 私にとって教会は()()()()()()だからさ……


 まあでも、この世界の感覚だと、教会の豪華な雰囲気は好感度高いらしい。


 私だって、本来なら中世ヨーロッパ好きだし、王都の教会は嫌いじゃないのだ。


 ただ、大司教のロプノールくんと気まずい関係で、ロプノールくんのおかげで教会中に私の肖像画や彫像が飾られてヤベえ空間になってるってことさえなければ……


 しかも、高熱を出してせん妄状態のときに、ロプノールくんは私に抱きついてキスとかしてきたのだ。それだけでも大事件なのに、その現場をベアトゥス様に見られてしまい、誤解を解くのがすんごく大変だった。


 それ以外にも、なんか嫌味なことを言われたりして、正直ロプノールくんは苦手な人物である。


 ほんとなら疎遠になって一切関わらないでいたいんだけど、私の帰還魔法の座標がこの教会の広間になってしまっているから、ロプノールくんとはビジネスライクな関係を続けなければならない。


 考えてみれば、向こうからしても私は振られた相手になるわけだし、顔も見たくないんじゃないだろうか……?


 でも、顔見たくなかったら、あんな彫像とか作んねーか……


 ロプノール大司教の考えはよくわからん。


 もしかして、勇者様は、ロプノールくんの心を折りに来てるのか……?


 でもこの教会の内部装飾を見たとき、勇者様は単純に感動して影響受けてたっぽいから、そんな高度な駆け引きはしなさそう。


 単にこの教会を気に入ってるだけかもしれない。



「参列者の皆様、目の前の背もたれにあります歌詞カードをお手にお取りください」



 ロプノールくんは、みんなに讃美歌を歌わせて、中央の通り道を進む私たちを祝福してくれた。


 何だか意外だけど、たくさんの人に祝われているというのは、連帯感がすごい。


 みんな……仲間! っていうか、私……受け入れられてる! みたいな感動でいっぱいだ。


 個人主義なところがある私でも、所詮は社会的な動物であることからは(まぬが)れないのだと思い知らされる。


 一応、ここに来てくれている皆さんに手渡しする分の引き出物は用意してあるけど、しっかり感謝の心を伝えたい……と心から思った。


 ベテランメイドさんが綺麗にメイクしてくれたっていうのに、私はまんまと泣いてしまい、鼻水もズルズルだ。


 

「……誓いますか?」


「誓います」


「てぃ、てぃがいますッ……ズビッ」



 私が泣いているのがバレると、席のほうからもズビズビと鼻をすする音がして、エコーチェンバー効果といっていいのか……さらに泣けてくる。


 いろいろあったけど、まさかマジで結婚しちゃうとはね……勇者様も私も、本来なら一生独身でもおかしくないレベルの(こじ)らせタイプだと思う。


 それが、たまたま出会って今こうなってるってのは不思議なことだった。


 誓いの言葉の後は、ロプノール大司教がありがたい説話を聞かせてくださって、極々フツーに平和な結婚式は終わったのである。


 なんだか、大司教様のこと、変に疑っちゃって悪かったな……


 会場の皆さんから拍手で送り出され、教会から出てドアの近くに立つと、私たちは帰る参列者のみなさんに引き出物をお渡ししながら言葉をかわす。



「まさか、こんなところで話ができるとはな。婚姻の儀、素晴らしかったぞ、おめでとう!」


「ありがとうございます、王様」


「ムー!」


「ありがと、王子殿下」


「おめでとうございます、ミドヴェルトさん、ベアトゥスさんも!」


「おう、来てくれて感謝する!」


「お美しいですわ、ミドヴェルト……ズビッ! わたくし感動してッ……!」


「あ、ありがとう……ズビッ! もう泣かせないでよォ……」


「そうね、あなたには笑顔がお似合いよ。お兄様も、おめでとうございます」


「お、おう……参列に感謝するぞ」


「ヒュパティアさん……」


「一応、僕もいるってこと、忘れないでくれると嬉しいな」


「おう……」


「メガラニカ公も、ご参列ありがとうございます」



 思いのほか話し込んでしまったりして、教会前の広場はワイワイと人口密度が高くなった。


 参列客に紛れてふと、ウサ子ちゃんのような長い耳が見えて、私は気になって居ても立ってもいられなくなる。


 でも、まだまだ参列客への対応は終わりそうにないし、今回私は裏方スタッフじゃないから中抜けなんてできない。



「おめでとうございます、ミドヴェルト様」


「いい式だった、幸せにな」


「お綺麗です、ミドヴェルトさん」



 ああ! 丁度いいところに執事&青髪悪魔さんたち! っていうか、ココノールさん居たんですか!?


 お兄さんのロプノール大司教とは、ご挨拶できたんでしょうか……? っていう話すら、オープンにしていいことかどうかわからない。


 パクパクと口だけ動かして声が出ない私を見て、ココノールさんはすぐ隣のマーヤークさんを見る。


 いつもは執事っぽい服装のマーヤークさんは、少し煌びやかな正装で、イケオジ度がアップしていた。


 ココノールさんは無難なワンピースで、シックな色合いが完全にマーヤークさん仕様に合わせて来てるの丸わかりって感じである。


 少し後ろに立っている青髪悪魔のロンゲラップさんは、茶色の生地に金糸とターコイズブルーの刺繍が施されたロココ調っぽい上下でキメてて、白いカツラまで被っていた。


 もしかしたら、メガネもちょっと新調してない……? 推しのレアな服装、最高です!!


 いや、いかん! 今はウサ子ちゃん問題に集中しなければ!



「あ、あの! お願いしたいことがあるんですけど……!」



 私の都合でお手を(わずら)わせていいのだろうか? ちょっとわからないけど、ウサ子ちゃんのことを頼みたい。


 様子を見に来てくれたってことは、ウサ子ちゃんはまだロプノールくんのこと気になってるんじゃない?


 だけどそれを、妹のココノールさんにお願いしていいのだろうか?


 でもさぁ、マーヤークさんに頼んだら大ごとになるじゃん? 王立警察に追い回されるウサ子ちゃんなんて想像したくないし……



「君は、ここで少しミドヴェルト様の()()()()()()()()


「はい、それでは失礼いたします」



 上司のマーヤークさんが気を回してくれて、ココノールさんは、私の後ろから引き出物を手渡す係になってくれる。



「ココノールさん、すみません。こんなときに……」


「いいえ、大丈夫ですよ。どういたしましたか?」



 この際だから、一気に近況を聞いちゃうか?


 私は、コソコソとロプノールくんとウサ子ちゃんのことについて話しながら、ココノールさんの事情を確認する。



「兄には、一応ご挨拶できました」



 ココノールさんは、何でもなさげにそう言うと、チラリと群衆を確認して「あの耳の長い人ですね」と有能ぶりを発揮する。



「兄への手土産になりそうなので、確認して参ります」



 そう言うと、ココノールさんは人混みの中へ紛れ込んでいった。


 これでひと安心……なのか?


 私が上の空になっていると、ベアトゥス様が体を曲げて囁いてくる。



「もう話は終わったのか?」


「え? あ、すみません……知り合いがいて気になっちゃったもので……」


「今日は忙しいからな。あまり無理をするな」


「はい……」



 私を責めるような雰囲気はないけど、勇者様のご意見はもっともだ。


 結婚式の日くらい、ベアトゥス様のことしっかり見てあげなくちゃいけないよね……


 こ、この後は、西の森ホテルでお食事会なのだ。


 この日のために、テーブルマナーもおさらいしたし、完璧にこなさなくては!





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「結論から言いますと、あのウサ耳さんは兄の元に戻りました」


「ほんとですか!? よかったぁ〜!」


「おぬし、またよけいなことにくびをつっこんでおったのか?」



 食事会の前に、ホテルの廊下でココノールさんの報告を受けていると、ヒラヒラと飛んできたアイテールちゃんが私の肩に止まって言った。



「よ、余計なことって……ちょっと気になっちゃっただけで……」



 私が言い淀んでいると、向こうから勇者様が歩いて来る。



「こんなところで何をやっている? また入場時に()()()()()があるようだ、配置につくぞ」


「あ、わ、わかりました! じゃあ私はここで。すみませんココノールさん、ありがとうございました!」


「いえ、愚兄のことを気にかけてくださって、ありがとうございます」


「それでは、われも()()()につくとしよう……」


「ふふ……もう王女様ったら!」


「行くぞ」


「はい!」



 軽く走って新郎様の腕に飛びつくと、なんだか新婦っぽい実感が湧く。



「うふふ……」


「どうした?」


「ベアトゥス様のお料理、すごく楽しみです!」


「ふふ……火入れも任せてるし、全部作ったわけじゃないけどな」



 ゴホン、とドア係の文官さんが合図をくれる。



「あ……じゃあ、行きますか!」


「そうだな」



 開かれたドアは、明るい光に満ちていた。


 私たちの未来も、明るいものになると信じよう。






ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました!


これにて、「空間をあらわすもの」シーズン3は終了となります。


この後のお話は、大人の時間ということで、ミッドナイトのほうで公開させていただきます。


気になる方は、自己責任で探してみてくださいませ……

(※食事会は無難にこなしたので、特に触れられてはいません)


続きがあるかどうかは、いい感じにプロットができるかどうか次第ですが……

あるとすればキシュテムさん方面がメインになっていく予定です。


この本編は主人公のFPSっぽい感じで書いているので、どうしてもミドヴェルト視点になってしまうため、今年はスピンオフの別キャラ視点にも挑戦したいと思います。

(新年の抱負)


よろしくお願いします!!



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