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10.『賢者の選択』part 34.

 先代の妖精女王様は、今の妖精王様のお母様にあたる。


 自然を元に生まれる妖精は、植物の折れ目から生まれる場合、折ってくれた相手を親と認識するらしい。


 一方、エーテルから自然に生まれる妖精さんは、あんまそういうの関係ないみたい。


 お付き妖精のせいで、アイテールちゃんは父親に当たる妖精王様に(うと)まれていると思い込んで育った。


 妖精王様はどうだったんだろうか?


 復活したママ・グルントノルムは、先代の妖精女王様と同じ存在といえるのか。


 

「お祖母様、お初にお目にかかります……アイテールにございます」



 現役の妖精王女様としては、孫としてひと通りの礼儀を尽くそうというお考えらしい。


 ママ・グルントノルムは、この状況をわかっているのかいないのか、顔色ひとつ変えない。


 私と話をしていたときは、戦うことなどあり得ない、ほんわかした感じだったけど……



「アイテール……まあ、あの子にも……こんな大きな子がいたのね……」


「あなたが、我が父の母にあたる存在だというのは聞いております。なれど、この場では失礼ながらお退きくだされ」


「まあ……そうでしたの……」


「くっ……届いておらぬか……!」



 ママが無表情のままアイテールちゃんの方に手をかざし、攻撃魔法っぽい光を溜める。


 たぶんアイテールちゃんにも妖精王の加護とかあるんだろうけど、王族同士の戦いだとどうなっちゃうんだろう?



「あなたに会えて光栄よ……アイテール……」



 ママ・グルントノルムは、言葉とは裏腹に大きめの攻撃魔法を撃って来た。


 エメラルドグリーンの森に、大量の葉っぱが舞い散ってキラキラと(きら)めく。


 何魔法かな……? 


 とりあえず、アイテールちゃんは大丈夫そうだ。防御魔法陣も張っているし、加護が働いて魔法が無効化されているっぽい。私がよくわからないまま妖精王族同士の戦いを眺めていると、腕の中にいる少年悪魔が(つぶや)いた。



「……あれは妖精女王様の風魔法『シルフ』ですね……」


「あ、マーヤークさん! 気づいたんですね、よかったぁ〜」


「チッ! じゃあもういいだろ、ほら自分で起きろっつーの」


「あ、ちょ! ベアトゥス様は冷たすぎません!? 執事さんは具合悪いんですよ!」


「あのな、お前には子供みてーに見えてるかもしれんが、俺からしたらデケェ男なんだよコイツは! いつまでも抱いてんじゃねぇ!」


「はぁ!? 今、やきもち焼いてる場合ですか!? 状況見てモノ言ってくださいよ!」


「う、うるせぇな! 結婚前の娘が悪魔に引っ付いてたら、誰だって心配するだろうが!!」



 私と勇者様の口喧嘩が本格的になる寸前で、マーヤーク少年は自力で立ち上がって、服の汚れを(はた)く。



「申し訳ございません、ミドヴェルト様。私はもう大丈夫ですので」


「えっ? でも、無理しないでね? さっきすごく大変そうだったし……」


「大丈夫っつってんだからいいだろ? ガキじゃあるまいし……」



 ベアトゥス様は、後ろから私に抱きつくと、マーヤークさんに向かってしっしっと追い払うように手を振った。


 私は、この執事悪魔に生命力を渡してもいいかなと思ってたんだけど、勇者様が居るといろいろと面倒だ。


 それに、マーヤークさんが頼んでこないから、なんか今じゃないのかもと思う。


 妖精王女様とママ・グルントノルムの戦いは、双方にダメージがないまま魔力の削り合いになっていた。


 妖精パワーが高まってるせいか、二人とも空中に浮いて、自由自在に飛び回っている。


 魔法の応酬は、ほとんど花火大会みたいな感じ。綺麗な魔法エフェクトがキラキラと連発されていた。


 

「あの戦いって、決着つくんですかねぇ……?」


「さあな。俺はお前を守るだけだ」


「わ、私はもう大丈夫ですよ! そんなことより王女様を助けてあげてください。ベアトゥス様なら魔法を封じられても問題ないでしょう? なら……」


「あの妖精王女が、()()()()()()()()()のだ」


「え……?」



 私は、妖精王女として魔国にやって来たアイテールちゃんの教育係だから、王女様がどんなに強くなっても先生然としていなければいけないと思う。


 でもやっぱりビビり倒してる部分はあって、例えばアイテールちゃんの未来視は、なんかもう(あらが)(すべ)もなく病気の宣告を受けたみたいな敗北感を感じる。


 何というか……()()()()()()()()()()っていうか……覚悟完了してないんですけど〜っていう、半分諦めと半分ワタワタ感。


 きっとその時になれば、ああこれかって思えるようになるんだろうけど、できれば自然の流れでその境地にたどり着きたい。


 でも、アイテールちゃんは重要だと思ったからこそ、あえて勇者様に伝えたのだろう。何が起こるのだろうか……怖すぎる。



「ほら、ちゃんと見てろ。あの妖精王女、どこまでやれるかわからんな」


「え? アイテールちゃんの楽勝じゃないってことですか?」


「向こうの妖精はかなりオーラがデカい。だが妖精王女は、身体の数センチ外側までしか守りがないようだ」



 私には何も見えないけど……やっぱりお付き妖精の弟との戦いが負担になってたってことかな……?


 アイテールちゃん……無理しないで!!


 私は、結界の森の中で繰り広げられるキラキラの応酬に目を向ける。が、なんかアーク溶接みたいになってて(まぶ)しすぎてよくわからん。視界に残像の影みたいなのができちゃって、見れば見るほど何も見えなくなっていく。


 一体、今どういう状況なんだ!?



「アイテール姫! エーテル薬だよ!」


「……そなたに感謝を」



 ポヴェーリアさんは、サポート役に回って妖精王女様の体力や魔力を甲斐甲斐しく回復させているようだ。二人で戦うよりも、役割分担したほうが長時間対応できるようになるらしい。


 それだけママ・グルントノルムが強いということなのか。


 もしくは、ポヴェーリアさんのレベルが足りていないと、アイテールちゃんが判断した……? まあ、無理してもしょうがないしね。


 しかし、レベルアップして最強存在に限りなく近づいたアイテールちゃんが、まさかここまで削られるなんて思わなかった。


 お月妖精の弟が復活させたとか言ってたけど、当の本人はまだ凍ってて話は聞けない。この現場の責任者である警視のキシュテムさんは、ママを完全にスルーして残りの妖精たちを連行していった。また戻ってくる気あんのか?



「ベアトゥス殿、妖精女王様がこちらを向いています!」



 急にマーヤークさんが注意喚起をしてくる。



「おう! わかってる!!」



 勇者様も当たり前のように返事をしていて、謎の連携が成立している。


 何なの……? 何が起こるの!?



「まあ、あなた……探していたのよ。よかった……夕飯の時間よ」


「ひぇ……私……!?」



 無表情のママ・グルントノルムに真正面からロックオンされ、私は大きな穴に飲み込まれたような、心の底から這い上がってくるような恐怖を感じる。


 話が通じないから、どうにもできそうにないって感じの絶望みたいな。


 人間のチャチい悪意なんかじゃなく、大自然の脅威っていうか……なんかデカすぎて戦う気力もなく敗北を脳が認めちゃうアレ。


 ママ・グルントノルムは、言葉は優しいけど全然チグハグで行動が伴っていない。


 今も、私に向かってご飯のお知らせをしながら、何やら殺意高めのでっかい魔法陣を展開している。


 妖精王の加護で耐えられるのか? これ。


 駄目元で結界魔法を重ねがけして、私は迫り来る暴力に備えた。






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