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4.『ホリーブレ洞窟にて』part 2.

 さすがにマーヤークさんが胸を張るだけのことはあって、本日の宿泊先はすごく大きな宿屋だった。魔車を横付けできる立派なファサードには、ポーチやロータリーだけでなく、ちょっと大げさな尖塔までついている。この地方ではかなり高級な作りの建物のようだ。



「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。えーこの度は手前どもの宿をご利用いただき誠に……」


「挨拶ご苦労です。まずは王子殿下をお部屋にご案内いただけますでしょうか」


「ははっ、すぐにご案内申し上げますでございます、はい!」



 執事悪魔の無慈悲なカットインに、恰幅のいい宿屋の主人は大汗をかきながら対応していた。地方の宿屋のおじさんに、一体何を求めているんだこの悪魔は。



「お世話になります」


「ムー!」



 私たちは宿のメイドさんの後に続いて、階段を登ったり降りたりしながら長い廊下を進む。この宿屋、結構複雑……あれ? 来たのってどっちだっけ?? こっち? ここって左に曲がった? え? ん? ここ、私ひとりで歩き回れる自信ないかも……



「こちらが()()()()()()がお使いになる、我が宿で一番良いお部屋でございます」


「う、うわぁ! 広いですね!」


「ムー! ムー!」



 完全に怪しいお宿にしか感じられないけど、みんなの雰囲気を壊すのもアレなので、一応ノリ良くはしゃいでみた。こんな違法建築っぽい建物、いつ何があってもおかしくないよ。非常口を確認しとかないといけないんじゃないかな。


 マーヤークさんは終始笑顔を崩さないけど、なんか怪しい。私が疑いの目で見ていると、悪魔的な瞳とバッチリ目が合ってしまい、渋々笑顔で応戦する羽目になった。謎の笑顔が満ちる部屋、怖い。



「お夕食は食堂にて7時ということになっておりますが、問題ございませんでしょうか?」


「ええ、それでいいですよ。よろしくお願いしますね」



 メイドさんが下がると、隣の部屋に入ったセドレツ大臣が苦虫を噛んだような渋い顔で挨拶に来た。



「マーヤーク殿、困りますなあ、仕事を増やされては……」


「おや、セドレツ殿ともあろうお方が、いかがされました?」



 その言葉を聞いて、セドレツ大臣はぎくりと肩をすくめる。そしてキョロキョロと辺りを見回すと「こちらもですか?」と唇だけで尋ねる。な、何のこと??


 それを見て、マーヤークさんは表情を変えずに軽く(うなず)いた。



「私は夕食まで処理しなければならない書類がありますので、失礼いたします王子殿下」


「ムー!」



 急にわざとらしい説明的なセリフを吐くと、セドレツ大臣はそそくさと自分の部屋に帰って行った。何だか変な雰囲気だけど、私は声を出していいのだろうか? まさかとは思うけど、この部屋って盗聴でもされてるの?



「さてと、せっかくなので私達はくつろぎますか」



 マーヤークさんは、胸の前で両手を合わせ、そのまま大きく手を広げながら私に視線を向ける。何? その動き。すしざんまい? なんかやってるの? 魔法?? とりあえず、普通に宿を楽しんでる感を出せばいいのかな? ……と、私は解釈した。



「わ、わぁー……! ここにおやつのクッキーがありますよぉ、お茶にしましょうか!」


「ムー!」


「では、私は自室に下がらせていただきます。何かあれば、いつでもお呼びください」



 モルドーレさんが退室すると、部屋の中には私とアイテールちゃん、そしてフワフワちゃんと執事悪魔のマーヤークさんだけになった。ココノールさんは、いつの間にか自分の部屋に行っちゃったようだ。いつ居なくなったか全然覚えていない。



「ふう……」



 思わずため息をついてしまい、ハッとして慌てて口を押さえると、アイテールちゃんが「もうだいじょうぶじゃ」と囁いた。それに私より早く反応したマーヤークさんが、いつの間にか手際良くお茶の用意をしながら褒めちぎった。



「さすがは妖精国の王女殿下でいらっしゃいますね。ミドヴェルト様も、ご自由に話されて結構ですよ」



 出されたお茶を一口飲んで、ほっと一息ついてから、みんなの分のチョコを出す。そして、さっきから気になっていた質問を切り出してみた。



「どうしてこの部屋が盗聴されているってわかったんですか?」


「あらかじめ盗聴魔法に反応するアラームを仕掛けてありましたので」


「でも……誰が……?」


「宿屋の主人でしょう」


「えぇ……?」



 これは、アレか……? 某ゲームで()()()はおたのしみでしたねってセリフを言うための……



「違いますよ」


「な、まだ何も言ってないじゃないですか!」


「ふふふ……当てずっぽうに言ってみましたが当たりましたか?」



 執事さんは楽しそうに笑っているけど、そこに向けてアイテールちゃんは胡散臭そうな視線を送っている。



「しつじどのよ、そろそろわれらにも、そなたの()()()()をきかせてほしいものじゃな」


「これはこれは失礼いたしました」



 何やらわざとらしく、もったいぶった演劇の台詞みたいな言い方をして、マーヤークさんはこの宿屋に来た理由を語りだした。


 この地方で金銭的に怪しい動きがあったため、はじめは領主の謀反を疑っていたんだけど、調査によって潔白が証明されたのだとか。だけど悪者がどこに潜んでいるかわからなくて、この地方はしばらくグレーな扱いをされていたらしい。関税をかけられたり、税率を上げられたりしてちょっといじめられていた。


 その地域を暮らしにくくすることで、犯罪組織を炙り出そうという計画だったらしいけど、なかなか効果が上がらないまま、時間だけが過ぎていた。


 そんなときにホリーブレ洞窟への用事ができたので、ついでに集中してトラブルを解決してしまおうと、通りかかる地方の問題を逐一(ちくいち)洗い出していたんだってさ。


 もしかして、長々と待たされた2週間はホリーブレ洞窟に入国する書類の準備じゃなくて、問題調査のための時間だったのか……?


 みんな魔国の大規模人事異動に必死過ぎない?


 年末の道路工事じゃないんだから……


 まあでも、こういう機会でもないと問題が先送りされて複雑になってしまったりするんだろう。


 意外とみんなのためになっているのかもね、この人事異動。


 

「……ということは、この宿はその……いわゆる密輸組織のアジトだっていうんですか?」


「声を(ひそ)めなくても大丈夫ですよ。盗聴魔法は解呪しましたから」


「でも……急に何も聞こえなくなったら、逆に怪しまれませんか?」



 私は、不安になってテーブルの下を覗いてみる。まだ電化製品がない時代設定だから、魔法以外で盗聴は無理なんだろうけど、超能力とか地獄耳の人がいないとも限らない。



「問題ありません。適当な世間話にノイズを入れた音声を相手に送っていますから」


「なるほど……じゃあ今夜中に何か動きがあるんですね?」


「まあそういうことです。ココノールが証拠をつかむ手筈(てはず)になっていますし、あとは待つだけの簡単なお仕事ですよ」


「えぇ?! ココノールさんてそんな危ないこともしちゃうんですか?!」


「彼女は()()()()()()ですから、別段ご心配は要りません」



 特殊捜査要員て……こんなのお兄ちゃんびっくりしちゃうよ……この点だけはロプノール君に内緒だな。ご本人が伝えるべき内容だわ。いや、一生秘密にする可能性もあるな。この手の仕事って、たいてい家族にも秘密だもんね。



「それって、私が知ってもいい情報なんですか?」


「……問題ないでしょう」



 今ちょっと間があったけど?!


 とにかく、密輸組織を上げたら、さっさと先に進みたいものだ。


 とはいっても、街道沿いに世直しをしていく予定なら、まだまだ何かイベントがありそうで憂鬱。ホリーブレ洞窟に到着するまで一体何日かかるのか。これってマーヤークさんのポイント稼ぎってやつなのかな?


 ついでにセドレツ大臣とモルドーレさんも、便乗してそれぞれ一枚噛んでそうなところがまた味わい深い。ポイントを稼ぐにも、助け合いの精神を忘れてはいけないのだ。大人ってやつは。


 私とアイテールちゃんとフワフワちゃんは、夕食後はトランプもせずできるだけ早く寝た。


 無論、ドアと窓とベッド周りに厳重な結界を張ってから眠りについたことは言うまでもない。





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