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10.『賢者の選択』part 30.

「ここでいいのか?」


「よし、魔法封じは済んだ。袋から出せ、丁重にな」



 暗闇の中で声がする。


 ひぇぇ……マジでこれ誘拐なのぉ!?


 え、私なんかやらかした!? ……って……やらかしの記憶しかないわけだが……



「おい、そっち持って! よい……しょっと!」


「うぶっ……!!」



 袋から変な角度に転がり出てしまい、私は顔面を床にぶち当ててしまった。


 さっき「丁重に」とか言ってたくせにぃ!


 なんなん!? こいつら……マジ知らない人なんですけど!!



「アンタたち、こんなことして無事で済むと……アレ?」



 確かに知らないはずなんだけど……なんだか見たことのあるキャラデザだった。


 これって……



「妖精……?」



 マズいな……ここで妖精族が問題起こしたとなると……ファレリ島の経済特区計画がポシャるかもしんない……


 いやそれどころか、妖精王様をご招待して、アイテールちゃんとポヴェーリアさんの婚約発表パーティーが……


 ていうか……アイテールちゃんは、またポヴェーリアさんと微妙なことになってたな。


 いろいろ問題がありすぎる……



「ふふふ……さすがは王城務めの教育係殿ですな……」


「え? お付きの妖精さん!? 生きてたんですか?」


「くっ……貴様、ぬけぬけと……! 我が兄は死んだ!!」


「え!? まさかの双子!?」



 待て待て、情報が多いぞ……?


 そういえばマーヤークさんが、妖精のスパイがまだ魔国に潜んでるとか言ってたような……



「それは……えーと……御愁傷様でございますです……」


「貴様、なぜここに連れられてきたのか、わかっているんだろうな……?」


「いやぁ……ちょっと……わか……らないですね……」


「「「…………」」」



 みんなで無言になる時間が1秒。


 意外と無音って、ストレスだ。


 

「あらぁ、お客様がいらしてたのね? そろそろご飯ですよ」


「「ママ・グルントノルム!」」


「ママ……?」


「うふふ……よろしくね、片割れのお嬢さん」


「あっと、はじめまして……」



 奥の扉から現れた妖精さんは、私と同じぐらいの背丈で、どう見ても王族の妖精だった。


 一体何が起きてるの……?


 それでも、甘いパンの匂いがして、私は誘われるようにテーブルに着く。


 意外とホワイトな環境かも知れない……



「ママ! 僕は赤い実のついたパンがいい!」

「僕は黄色いの!!」

「私は手前のを貰おうか」


「はいはい、どうぞ。たくさん食べてね」


「「「いただきまーす!」」」


「ふふふ……あなたはどのパンを食べる?」


「え、じゃあ……ぐるぐるのパンください」


「いいわよ。はい、どーぞ!」



 ママ・グルントノルムに渡されたパンは、焼きたてほかほかで柔らかい。


 厨房のおばちゃんのパンに、ちょっと似てるかも……


 私はぐるぐるパンに(かじ)り付いた。


 味は全然()()だった。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





 道端で急に誘拐されてから、どのくらい経ったのだろう。


 すっかり夜になってしまったけど、仕事も終わったし実験も終わったし、明日の勤務時間を過ぎないと私が消えたことに気づかれないかもね。


 勇者様とかフワフワちゃんが、私の部屋に遊びに来るかもしんないけど……単純に留守だと思ってそのまま帰っちゃいそう。


 あ、そういやマーヤークさんのペンダントは!?


 慌てて首元を確認すると、物は無事だったけど、ウンともスンとも言わない。このペンダントは、元々マーヤークさんとの連絡機能はないのだ。魔法が使えないからスマホも出せないし……無力だ……


 今んとこ、ご飯も貰えて拷問もされてないけど、妖精のスパイ組織は暴力的なイメージがある。王都のお店が爆破されたりしてるし、かなり本格的なテロ組織と認定されているのだ。



「マズいなぁ……」



 無断外泊って、なんか勝手に罪悪感を感じちゃうけど、私は大人だし、自由っちゃ自由だよね。


 いやしかし、勇者様にバレたときが怖すぎる……


 でも妖精のテロ組織に誘拐されたってことがバレるのもマズいし、どうしたらいいんだろう……


 実は勝手に夜遊びしてましたぁ〜! イェーイ☆


 って私が全部ひっかぶるのが、政治的には丸く収める方法としか思えないんだけど、そうなるとプライベートで私が死ぬ。


 すでに、こないだ勇者様に殺されそうな危機を乗り越えたばっかりなのにぃ……


 などと、私が悠長に考え事をしていられるのは、敵が妖精とわかったからだ。私には、妖精王女様が加護を授けてくださっているから、妖精の攻撃は無効化される。このホワイトな扱いも、スパイの情報網で私の加護について知識があるからかもしれない。


 ふふふ……おまえらの攻撃は痛くも(かゆ)くもないのだ……


 さっきまで魔法を無効化されて無力感に(さいな)まれていたのに、今は謎の万能感で気が大きくなっている。


 モノは考えようですなぁ……



「ま、元々役に立つ魔法はあんま使えないし、おやつ食べれない程度の問題か……」



 今さら妖精王様が魔国に攻撃の意志があるとは思えないけど、やっぱ国同士の関係って、仲良さそうに見えても敵って意識なんだろうね。


 妖精国のトップだって、困ったふりして、テロ組織にちゃっかり指示を出している可能性はある。


 何が本当か嘘か、さっぱりわからないのが政治ってやつだ。


 だから気のいい人から脱落していき、だんだん煮詰まっていっちゃうんだよね。もっとまともな人が政治に参加して、キチガイを駆逐してほしいけど……ヤベー奴ほどしっかり保身してるからタチが悪い。


 魔国はまだ弱肉強食で、弱くてズルい者が上に行けないシステムだからいいけど、人間の国は物凄いカオスなのだった。だから、この世界の最強存在の一角とも言えるベアトゥス様すら、簡単に罠にハメられ立場を失ってしまう。


 妖精の国は人間の国よりはマシだけど、やっぱり搦手(からめて)が多くて権謀術数が跋扈するカオスな空気はあるっぽい。アイテールちゃんもそれで魔国に送り込まれたし、妖精王様の愛情に気付くのが遅れて苦しんだ。


 私は策略家は嫌いだ。でもそういう嫌な奴に対処するには、自分も策略家にならなければいけない。経済学者に騙されないために経済学を学べっていうのと同じだ。まったくヤな感じだけど、同じ土俵で戦わなきゃいけないこともあるのだ。


 よく「同じ土俵に立ってはいけない」とか言うけど、そしたら場合によってはやられたい放題だよ。そんなのは、私の考えだけど単なる逃げだ。見ない自由はあるけれど、掃除をしなければ汚れが溜まるだけじゃ済まずにカビが生えちゃって、元に戻せなくなるかもしんない。


 問題は、見つけたときが対処のベストタイミングなのだ。放置すれば悪化するだけ。



「はぁ……さらわれたのが私で良かった」



 私なら無傷で丸く収められるはずだ。


 ……どうしたらいいかわかんないけど。


 でも、とにかく妖精のテロ組織は殲滅してあげようじゃない。


 よし、やること決まったら元気出てきたぜ!


 私は、妖精王女様の教育係として、ファレリ島での婚約パーティーを意地でも成功させる!!



 


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