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10.『賢者の選択』part 26.

 「ロード・トゥ・チュレア」……それはチュレア様の側近たちが婚約者の座を射止めるために競い合うランキングシステムである。


 マジ、そんなもんが存在してるってこと今知ったけどさ……チュレア様が言ってたのってこのことか……


 チュレア様の周りでワチャワチャしてるイケメン文官さんたちは、実は結構身分の高い方々で、実力もかなりのものらしい。だから、あんなカニレストランでも優秀な店員さんできてたんだね……勇者様にも強気で対応してくるし。


 ポイントはチュレア様から直々に与えられ、ライブランキング制で毎日順位が入れ替わっているらしい。そんでもって、気まぐれに行われるイベントで大量得点が可能となる。そのひとつが「グランドスラム」といわれ、優勝者にはなんと2000ポイントが加算されるという。


 日常ポイントでは性格の良さや勘の良さ、チュレア様との相性などが採点基準となるが、グランドスラムでは単純に強者が勝ち上がる。魔国の者なら最も馴染みのある弱肉強食のルールが適用されるのだ。したがって腕に覚えがある者たちは、ここぞとばかりにポイントを稼ぎにくる。……と聞いた。


 おそろしい……


 その中にポイっと放り込まれた伝説の悪魔キシュテムさんは、新参者の割には初手からトップ10にランクインし、周囲に衝撃を与えたようだった。



「だ、大丈夫なんですか? その……いじめられたりなんかは……?」


「あん? どうだろうね〜? 今んトコみんないい奴らだよ」



 なぜかわからないけど私の部屋に来たキシュテムさんとアイテールちゃんは、これまたちょうど遊びに来たフワフワちゃんとマーヤークさんに鉢合わせて合流した。これぞまさに悪魔合体である。


 久しぶりに自室でのんびりしようと思っていたのに何故……


 私は蓄積した疲労もそのままに、高位存在たちをおもてなししながら疲弊を重ねていくしかない。


 というか、アイテールちゃんはポヴェーリアさんのこと放っといていいのか?


 いろいろと納得できないままに話を聞いていると、妖精王女様はふと相談を切り出した。



「実は、折入って教育係殿に相談があるのだ。我はポヴェーリアが苦手かもしれぬ……」



 え!? 急にどうした!?



「何だよ、王女ちゃん、彼氏とうまく行ってないの?」



 私よりも先にキシュテムさんが、心配そうに聞いた。


 私も心配してるんだからね! でも出遅れたので、神妙に王女様の答えを待つ。



「うまく……は行っていると思う。しかし、あの者は我を助けると言って聞かぬのだ」



 ん? 惚気(のろけ)かな? 助けてくれるなら良いんじゃないかと思うけど……



「助けてもらえばいいじゃ〜ん! 何? 王女、助けてほしくないの?」


「そ、そうですよ! って……何をどう助けるんです??」


「ムー!」


「植物の魔法で()()()を作ると言うておる……」


「動力源……」


「あー……それは、アレだな……俺に頼んでくれれば、もう少しマシかもよ?」


「キシュテムさんの場合は乗っ取るだけでしょ!」


「あはは〜! やっぱダメだよね☆」



 伝説の悪魔がふざけて笑いに走るのを、マーヤークさんは胡乱(うろん)な目で見ていた。


 やはり契約で縛っても、悪魔の性質としてキシュテムさんは誰かを乗っ取ろうとしてしまうのだろうか?


 それとも、マーヤークさんはチュレア様を好き……? まさかね。


 しかし、図書塔で見たポヴェーリアさんの草遊びって……あれ植物魔法だったのか?


 まさか……動かなくなった妖精王女様に動力源を埋め込んで、フランケンシュタインの怪物的なことしようとしてる……?


 麗人のときもかなりAIじみてたけど、妖精に生まれ変わってさらにヤバくなってんな……


 ポヴェーリアさんて、優しいのか異常者なのか、よくわかんないよね。そもそも大精霊様に与えられた役目を自分から放棄してるし、イレギュラーな存在ではあるのだ。あの人の矜持というか芯みたいなもの、実はまだよくわからない。悪気はなくて真面目そうってとこしか……


 アイテールちゃんに危害が及ばなければいいが……まあ、この妖精王女様は大精霊様ぐらいには強いから、今のところ心配はしてないけどね。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「教育係殿に話せてよかった。ではまたな」


「まったね〜☆」


「ムー!」



 最後まで残ったマーヤークさんが無言のまま一礼して去ると、やっと部屋にひとりになれた。


 久々にゆっくりしようと思ってベッドに寝転がると、急に窓から見える景色が、勇者様に別れを告げられた日の記憶に繋がる。


 この角度だったか……


 ゴロンと仰向けになって目を閉じると、ファレリ島でのことが夢みたいで不思議な気分になる。


 だんだんウトウトして寝そうになっていると、ドアをノックする音がして目が覚めた。



「はい、どうぞ」


「少し、いいか?」



 ドアを開けたのは、ベアトゥス様だった。



「あ、はい。どうぞ……」



 てっきりメイドさんかなと思ってたので、私は慌ててベッドから出て髪を手櫛で直す。


 それを見た勇者様が「やはり明日にしよう」なんて言うので、とにかく入ってもらって長椅子に座らせた。



「邪魔だったか?」


「いえ、そんなことはないです」


「そうか」


「はい……」



 え? マジ、何しに来たの??


 さっきまでの妄想のせいで、なんかこの勇者様にフラれた日のこと思い出しちゃって、軽くイライラしながら私はオレンジジュース魔法で飲み物を用意した。


 チョコとオレンジって相性良くて好き。


 適当なお茶請けチョコを添えてオレンジジュースを出すと、ベアトゥス様は軽く笑って、テーブルに並んだおもてなしセットを見つめた。



「お前とはじめて会った日も、確かこれを持ってきていたな……」


「あれ? そうでした?」



 言われてみれば、確かにこのオレンジジュース魔法ができるようになったのは、メガラニカであのく……メガラニカ公と仕事してるときだった気がする。


 勇者ベアトゥス様は、なんか豆腐建築の謎施設ですごいイビキかいて寝てて、あのく……メガラニカ王に差し入れ持ってけって言われて持ってったら襲われそうになったんだよね。純粋ぶって逃げようとしたらデートする羽目になって今に至る……って考えると、あのく……現メガラニカ公が私たちのキューピッドってことになるな……なんかムカつく……



「怒っているのか?」


「え? 何でですか?」


「そんな気がした……」


「お、怒ってないです……けど」



 何となく返事がぶっきらぼうになってしまって、むしろご期待通りに怒ったほうがいいのかなぁ……? なんて思ったりする。けど、まあここは丸く収めておこう。


 私は勇者様にちゃんと向き合うと決めたのだ。



「話は何です?」


「ああ、うむ……そうだな」


「…………」


「つまり、その…………だ」


「は?」


「俺はお前が好きだ」


「あ、ありがとうございま……す」


()()()……」


「えっ……と……?」



 この人、なんて答えて欲しいんだろう?


 何を言ってもこの雰囲気が変わる予感がしない。



「俺はいつでもお前と一緒にいたいし、お前を視界に入れていたい」


「はあ……」



 え? もしかしてヤバい話……?


 どういう態度に出ればいいのかよくわからないまま、私は曖昧(あいまい)な返事をしてしまう。


 この勇者様はけっこう()()()()だからなぁ……


 怒らせず、がっかりさせず、そして調子づかせない答えを考えなければいけないのだ。


 私が黙っているのを見て、ベアトゥス様は話を続ける。



「しかし、お前は()()()()()()のだろう?」


「え?」


「俺さえ居なければ、お前はこの世界から逃れられたのではないか?」


「えっと……?」



 話が見えたような見えないような……?


 これってアレか? ホリーブレ洞窟でイザイザ様たちが言ってたアレだ……


 私が死んだら、()()()()()()()()()っていう……ってことは!?



「俺はお前に……」

     「あ、あのっ!!」


「なんだ?」


「いいですか? まず私はこの世界が好きです。で、ベアトゥス様のことも好きですよ?」


「お、おう……そうか」


「もちろん妖精王女様のことも好きですし、公爵夫人もお友達ですし、ヒュパティアさんのことも大好きです!」


「そうか……」


「それに、私は全然死にたくないです。頑張ってここでしっかり生き抜こうと思ってます!」


「そうか」


「そうです!」


「……そうか」


「そうですよ!」



 私の言葉を聞いて、勇者様はフウッとため息をつく。


 何となくだけど、この勇者、私を殺そうとしてたな。そんな気がした。


 殺気は全然感じなかったけど、返答次第では「お前をこの世界から逃してやる」とかなんとか言って、私を送り出すことも視野に入れていたのではないか。


 あぶねえあぶねえ……はぁ。


 危うく何もわからんまま、ほかの世界に強制送還されるところだったぜ。……たぶん。


 え、ていうか、なんで勝手に決めるワケ? 超コエェよ……危機一髪すぎるだろ……


 それに、ほかの世界ったって、どんなとこに飛ばされるかわからないのだ。行きたい場所に狙って行けるならまだしも、岩だらけの世界とか、ご飯が氷の世界とかは絶対ヤダもんね。



「私は、好きでここに居るんです」


「そうだったな……」



 勇者様は、オレンジジュースを一気に飲み干すと、急に立ち上がってチョコの皿を持つ。



「これ、貰っていくぞ」


「あ、はいどうぞ」


「疲れてんだろ、さっさと寝ろ」


「あぁ……はい……」



 なんだかよくわからんけど、ベアトゥス様は寂しがり屋なのかもしれない。


 でもさーそっちが先にハグ拒否したりしたくせにさー!


 どうしろってんだよまったくもー!


 接触増やしたいの? 減らしたいの? もうわけわからん!!


 などと思っていると、ドアの前で勇者様が言った。



「……で、たまにはお前から会いにきて欲しい」


「えっ? は、はい……」

 


 不公平感をなくすってことね、OK!


 




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