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10.『賢者の選択』part 25.

「ムー! ムー!」


「あれ? フワフワちゃん、どこ行ってたのー?」



 昼食会を何とか終えてガーデンヴィラまで戻ると、王様とフワフワちゃんが一緒に歩いてきた。


 そういえば図書塔でムームーいってる子、見かけなかったわ……



「余と王子は、チュレアの身内として少し身を引いておったのだ。今度こそは話をうまくまとめて欲しいのでな」


「はあ、なるほど……」



 王様の言い訳に納得しつつも、王子殿下まで出席を控えるほどかな? と少し疑問にも思う。


 でも確かに、お見合いデートに家族があんまりプレッシャーかけないほうがいいのか。あの伝説の悪魔氏がプレッシャーを感じることなんてあるのかわからんけど、チュレア女公爵様は気軽に「キー様♡」とか言えなくなるかもしんない。


 バタバタと残留組と帰還組で引き継ぎを済ませ、私たちは浜辺の駐機場っぽいところで竜車を待った。


 これから王城で正式な人事異動が決定され、海路の定期便でファレリ島との行き来が盛んになる予定だ。島の移動には、マーヤークさんのアドバイスをいただいて、ジップライン的な魔道具が設置された。なんか平らな傘みたいな遺跡の発掘物みたいな形で、個人用の低空飛行椅子って感じのデザインだ。自分の魔力を注入することで垂直に上昇して、目的地までなだらかに落下して行く。


 魔力がない種族が使用するときは、魔力を込めた腕輪を貸し出して使ってもらう予定。まあ落っこちても蘇生アイテムで何とかなるだろう。この異世界のワイルドさは、ちょっと怖いけど結果的に自由度を上げてくれる。


 竜車がやってくると、王様と上層部のおじさんたち、そしてチュレア様と私たちで分乗して出立(しゅったつ)した。


 螺旋の軌跡を描いて竜車が上空に舞い上がると、ファレリ島の長細い包丁みたいな形が小さくなっていく。


 私は、思ったよりあの島に愛着がわいてしまったのか、少し泣いちゃったけど……まあ夏休みのおばあちゃんちみたいなもんだよね、と思って下の景色を覗き込んでるふりをしてごまかした。


 また来ればいい。


 そう、これが最後ってわけじゃないのだ。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「それで、それで? 女公爵様の婚約者候補という方は、その……どんな方ですの?」



 王城の裏庭で久しぶりの女子会をすると、私とアイテールちゃんは居残り組からの質問攻勢にあう。


 久々に会ったホムンクルス姫は、公爵夫人として聞いておかなければいけませんわ! とばかり、好奇心のままに前のめっていた。


 ヒュパティアさんは、相変わらず飄々として何を考えているかわからないけど、お茶を飲みながら微笑んでいるので機嫌は良いようだ。



「アストロラーべとも話していたの。施設が充実したらファレリ島に旅行してみたいわねって」



 神国メガラニカは山脈に囲まれた北国で、北のほうに海はあったみたいだけど、氷に覆われて海っぽさは満喫できなかったらしい。ヒュパティアさんに南国の海の楽しさを味わってほしいので、旅行の日程が決まったら早めに教えてもらって亀島に連絡することを心に決める。


 アイテールちゃんは、甘いココアに蜂蜜をたっぷり入れて、花びらチョコを頬張りながらグイッと一気に流し込んでいた。



「お主らの聞きたいことは大体わかった」



 急に流し目で微笑むと、妖精王女様はふふんと悪戯っぽく笑う。



「あちらから『キー様』ご本人が登場じゃ」



 姫たちが色めき立って花畑のほうを見回すと、何をするでもなく花を摘んでクルクル回しながら歩く、伝説の悪魔キシュテムさんがいた。



「まあ、あの方がチュレア女公爵様の運命の恋人ですのね……」


「ふふ……噂どおりの麗しの悪魔というわけね」


「う、うるわし……?」


「ふん……まったくどんな噂が広まっておるのじゃろうな」



 ほう……とすっかり妄想に夢中になっている公爵夫人様と、いったいどんな噂話を入手したのかキシュテムさんに誤解のありそうな義妹予定のヒュパティアさんを見ながら、私は何をどうしたらいいのかすっかり茫然自失だった。


 そのせいか、こちらにやってきたキシュテムさんに注意するタイミングが遅れる。



「やあ、お嬢さんたち……って、あ! 王女じゃーん、綺麗どころが揃ってどうしたん? ミドヴェルトも久しぶりぃ☆」


「ふふ、結局()()()()のじゃな」


「お、お久しぶりです……」



 チュレア女公爵様の婚約者候補となったキシュテムさんはファレリ島に封印される案が白紙となり、王様の口添えもあって、今はチュレア様のお付きとして他の文官さんたちと一緒に行動している。


 新しい契約書は、ファレリ島で竜車に乗る前にマーヤークさんが作成していて、ささっとサインして何やらぽわっと光っていた気がする。


 とりあえず、対人魔法の禁止とか細かく制御が効くようにしたっぽくて、王城の中にいる限りは悪魔キシュテムは無害となったようだ。


 そうは言っても、実際に戦って色々とされた身としては、警戒心を完全に解くことはできない。


 一方、ロマンスの噂しか聞いていない姫たちは、顔だけは良いキシュテムさんに興味津々である。既婚者なのに……



「ま、まあ! キシュテム様、はじめまして。わたくしはストーカー公爵夫人ですわ。お見知り置きくださいませ」


「私はメガラニカ公妃です。よろしくね」



 あ、ヒュパティアさんて公妃だったんだ……そういやメガラニカは魔国に吸収合併された感じだもんね。アイツも元王じゃなくて、今はメガラニカ公なんだね。


 私は仕方なくキシュテムさんの椅子を持ってきてもらって、チョコを出しながら席を作る。


 女子会とはいえ、フワフワちゃんも一緒にお茶することが多いし、別に男子禁制ってワケではないのだ。


 それに、キシュテムさんならみんなの質問にしっかり答えられるだろうしね。勇者様とかライオン公爵様みたいに、知らない女子の前で人見知り発動しないから、むしろ大歓迎だ。



「そういえば、アイツ、このチョコ好きだったなあ……」



 急にヘス卿のことを思い出したのか、キシュテムさんがアンニュイな笑みを浮かべる。


 姫君たちは、その横顔にすっかり夢中になっていた。既婚者なのに……



「お疲れ様です、新しいお仕事はどうです?」



 お茶が来たタイミングで私が話かけると、伝説の悪魔はいつもの軽薄なキャラに戻ってヘラヘラと答える。



「そーだねぇ、チュレちゃんはさぁ……俺のこと嫌いじゃないと思うんだけど、他のみんなのことも愛してると思うんだよね……」


「ちゅ、ちゅれ……!?」

「んふふ……仲は良いみたいね」


「だからさぁ……俺ちょっと焼きもち()いちゃうんだよ。俺って独占欲強いし?」


「んふっ! なにを抜かしておるのじゃ、浮気者のくせしおって」


「え〜!? 俺、浮気なんかしたことないよ〜!」



 笑いのツボにハマるアイテールちゃんと、いつものキシュテムさんのイチャイチャがはじまって、姫たちは呆気に取られていた。


 私はファレリ島の図書塔で何度も見た光景だったけど、お嬢様たちには刺激が強いかもしれない。


 普通の令嬢は、こんなふうに悪魔と談笑しないもんね。


 魔国とはいえ、悪魔は何となく特別視されていて、どちらかといえば怖がられている存在らしい。


 まあ、どうやらこの異世界に5柱しかいないとかいうレアな存在だし、普通の魔国民は下手したら一撃で消滅させられてしまうのだ。誰も好き好んで近づこうとはしないだろう。


 ホムンクルス姫なんて、自分で頼んだとはいえ、前世で悪魔マーヤークに()()()()()()()()()()。しかも暗黒海の貴公子ヴァンゲリス様に魅了されたりなんかして、悪魔には散々な目にあっているのだ。


 私も最初の頃はマーヤークさんに虐められていたし、赤髪悪魔のエニウェトクさんには命を狙われたし、推しの青髪悪魔ロンゲラップさんには塩対応をされて散々だ。イケメン悪魔は遠くから眺めて噂話を満喫するくらいで丁度いいのだ。……たぶん。


 伝説の悪魔に慣れた姫たちが、キャアキャアとキシュテムさんを質問攻めにしていると、向こうから何やら派手な一団が近づいてきた。



「おやおやまあまあ、こんなところにいらしたのね、キー様。わたくしの側にいるよりも楽しいことがあるだなんて、これっぽっちも気づきませんでしたわ」


「あ、チュレちゃん、迎えに来てくれたのぉ? 俺がいなくて寂しかった? 会えて嬉しいよ!」


「「「…………」」」


「ふっ、そなたらは難儀じゃな。まあせいぜい運命に(あらが)ってみるがよい。我の予言に無理して従うことはないのだ」


「まったく、アイテール様には()()()()()()()()。ねぇ、ミドヴェルト? わたくしにも飲み物をくださる?」


「は、少々お待ちください!」



 私がアワアワとメイドさんにお茶を頼みがてら椅子を調達しに行くと、手伝いに来てくれたホムンクルス姫がこっそり耳打ちしてきた。



「キシュテム様は、ああおっしゃってましたけど、わたくしあんなに仲良しな恋人たちなんてそう見ませんわよ?」


「まあ、チュレア様が素直に受け入れてくだされば、案外サラッとご成婚になると思うんですけどね」


「うふふ……わたくしもそう思います。そういえば、天使様たちの第二弾、そろそろ進めてよろしいかしら?」


「お願いします、またお手数おかけしちゃいますけど……」


「いいの。わたくし、他人の恋愛を眺めるのが楽しいんですわ」


「くっ……わかります」


「ふふふ……このお仕事は誰にも譲れませんわ」



 飛び入りゲストを迎えた女子会は、時間を忘れるほど盛り上がって、楽しい記憶となった。


 





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