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10.『賢者の選択』part 5.

「なんじゃ? 新しい飲み物か?」



 私が海から上がって、砂浜の日陰に体を休めているアイテールちゃんに可愛い透明黒スライムを見せると、妖精王女様は当たり前のように飲食物だと判断する。確かにこの入れ物は、コロッセオで出してるカクテルのグラスと似てるけどさぁ……



「違いますよ〜! ちっちゃい魔物を見つけたんです!」


「なにゆえ捕獲したのじゃ……面倒が起こる前に放逐(ほうちく)するがよい」


「えー? だって……種類とか知りたいじゃないですか!」


「それはシーサーペントのプエルルス幼生じゃ。もうわかったであろ、さっさと放しやれ」


「え〜? 夏休みの自由研究にしようと思ったのにぃ!」


「さっきから何をワケのわからぬことを……」


「だって、こんなに透明で綺麗なオタマジャクシ……」



 私はシーサーペントのプエちゃんを日光に透かすと、黒っぽい透明な体がすごく綺麗で、思わずペットにしたい欲に駆られる。それに、プラナリアみたいな、何となく漫画じみた目がとっても可愛い。



「ムー! ムムー!!」


「あ、王子殿下やっと帰ってきましたね」



 私が、すっかり呑気な気分でフワフワちゃんの実況をすると、アイテールちゃんは立ち上がって鋭い声を上げた。



「教育係殿よ! その後ろを見やれ!」


「え?! 何ですかアレ?!」



 いつになく、フワフワちゃんが余裕のない声を上げて警戒を(うなが)している。その後ろには、大きな黒い影が水飛沫(みずしぶき)と雷雲を伴って追ってきていた。


 一緒にいる妖精王女様も焦った表情をしていて、さすがに感知力ゼロの私でも、何かヤバいことだけはわかった。



「あれは、シーサーペントの親じゃ!」


「うそぉ?! 全然可愛くないですけどぉ?!」



 何となく黒くて長くてテカってるけど、フワフワちゃんの後ろに迫るシーサーペントは、ウツボのような海蛇のようなタカアシガニのような、いかにも魔物といった感じの異形だった。うまく言えないけど……どデカいシャチホコガの幼虫??


 今、私の手元に居るぷるんとしてツヤツヤな可愛いプエちゃんも、あんなふうになっちゃうの?!



「早く! ここは危険じゃ!! 上の草地に登りやれ!」


「は、はい!!」


「その前に、ミドヴェルトよ! そのプエルルス幼生を海に(かえ)すのじゃ!!」


「えぇ?!」



 アイテールちゃんがテキパキと指示を出してくれるので、私はとにかく言う通りに行動した。


 プエちゃんを海に放して、そっと手で波の奥に押しやる。残念、さよなら……元気でね。


 プエちゃんは水の中でくるりと一周すると、挨拶でもするかのように私の手に頭をツンと当てて、沖へと泳ぎ出した。


 超可愛い……やっぱ飼いたかった……


 そんな情緒的な別れの余韻もそこそこに、アイテールちゃんに手を引かれて私は坂道を駆け上がる。


 正直ちょっと走っただけで足がガクガクで、心臓も限界。ゼエハアしながら草地まで登り切ると、丁度フワフワちゃんが後ろから追いついてきて、とりあえずみんなの無事が確認できた。


 転がるように草むらに倒れ込むと、同じタイミングですごい音がする。




 ドシーーーーーン!!!




 スピードを緩めないまま、成体のシーサーペントが洞窟のある岩壁に激突したらしい。


 あの位置は、まさにアイテールちゃんが座っていた岩陰だった……危機一髪!


 大きなシーサーペントは、これといった怪我もなく崩れた岩から顔を出し、キョロキョロと辺りを見回す。


 そして、浜辺にキラリと光るプエちゃんを見つけると、落ち着いて一緒に沖へと帰っていった。


 一体何がどうしてこうなった……?


 私が一連の流れを無言で眺めていると、アイテールちゃんが説明してくれた。



「だから()()()()()と言ったであろ……教育係殿があのプエルルス幼生を陸に移動させたことで、親に連絡がいったのじゃ」


「え……何なんですか? そのPTA連絡網……」


「ぴーてぃー? なんじゃそれは?」


「えっと、親御さんの互助会でしょうか……?」



 妖精王女のアイテールちゃんによれば、妖精や魔物の親子関係は希薄なようでいて、しっかり管理されているらしい。


 子供が敵にやられるとか、自然淘汰される分にはノータッチらしいんだけど、縄張りから外れると自然契約のシステムが働いて親に連絡が行くとのことだった。


 さっきアイテールちゃんが言ってたことも、妖精だから妖精王様に連絡が行くというよりは、子供であるアイテールちゃんが迷子になるとお父さんに連絡が行くって意味だったっぽい。


 不思議な絆があるもんだ……


 まあでも、そのおかげで海と陸の生き物はかなり棲み分けができているようだ。


 この異世界の管理システムは、割と自由みたいだけど、意外なところで過保護なんだよね。


 てことは、魔国民も海で泳げないのかな?


 でも、艦隊戦で海に落ちた人は普通に泳いでた気がする。


 自然発生する系の種族は、生息地に縛られるってこと?


 そういえば、ウェスパシア問題が起きる前は、魔国民のみなさんってどうやって生まれてたんだろ……?


 何千年も前からウェスパシアの祭壇があったらしいから、王城の図書館でもなかなか調べられないかもしれない。


 というか、このファレリ島にも図書塔はあるのよね……


 結局あの悪魔に聞くしかないのか……なんか嫌なんだが……





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





 王家のプライベートビーチが大変なことになっちゃったので、上層部に報告がてら、みんなでガーデンヴィラに向かう。


 途中、大音量と……それから()()()()()()地震を察知したらしき勇者様が、私たちの様子を確認に来てくれた。



「どうした、何があった?」


「あ、ベアトゥス様。いやぁ、急にシーサーペントが来たので……」


「教育係殿よ、報告はよく考えてするがよい」


「ムー!」


「え、っと……その……QSKで土砂崩れが起きまして……」


「そうか……まあ、お前が無事ならそれで良いが……報告に行くなら付き合うぞ」


「ありがとうございます」



 そうね……なんか自然災害の被害者みたいな気分でいたけど、私、下手したら賠償責任……いや、ちょっと待って? 考え方によっては私、超ヤバくない? いや、待って待って? 王家のプライベートビーチ潰しちゃったワケで……いやいや、不可抗力だよね? あれ? 悪いのは私なのかな? あれれぇ〜? おかしいなぁ〜


 ……ふえぇぇん……どうしよう……


 私が半泣き状態で王様のいるガーデンヴィラの庭に着くと、なにやらイケメンの集団が芝生の上をゾロゾロと移動していた。


 その中心に咲いた、大輪の薔薇のような黒いドレスをお召しになった女公爵チュレア様は、相変わらずの存在感で優雅に振る舞っていらっしゃる。



「おや、ミドヴェルトではないの。そろそろ来る頃かと思っておりました」



 女公爵様は、近くにいるイケメンに何やら指示出しをする。そしてそのまま、チュレア様がテラスの階段をゆっくりと登ると、いつもの文官さんたちがテキパキとドレスの裾を直して回る。


 もうこれからファッション誌の撮影ですかってな感じで、完璧にキマッている見返り美人姿のチュレア様は、別のイケメンに手を取られながら私に言った。



「ミドヴェルト、あなたに王家のプライベートビーチを再開発していただきたいの。もうお兄様には伝えてあるから、計画書を確認しておきなさい。案ずることはありません。何かあれば私に相談なさいな。悪いようにはしないから」


「は、はい! かしこまりました!」


「頼んだわね」



 それだけ言うと、女公爵様はイケメンに囲まれながら建物の中へ入っていった。


 九死に一生を得た……のだろうか?


 女公爵様の後ろ姿を見送ると、妖精王女様がボソッと(つぶや)いた。



「これは大きな()()になってしまったな……教育係殿よ」


「で、でも一応、助かりました……」



 あのチュレア様がタダで助けてくれるわけないんだよね……何らかの大いなる計画に組み込まれてしまったか、もしくは何かすごくいっぱい要求されるか……まあ、日頃のご恩もあるので、返すのにやぶさかではないって感じ。きっと大丈夫!


 というわけで行き先変更!


 開発担当の文官さんのとこへ直行だ!!







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