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3.『蛇男君の昇進試験』part 6.

 満員のコロッセオは、試合を見る客や飲食店巡りを楽しむ客で賑わっているようだった。まあ戦闘試合が好きなお客さんばっかりじゃないだろうし、付き合いで来た人も楽しめるように軽いゲームコーナーとか託児所なんかも作ってて、家族連れとかに対応できるよう工夫している。


 魔国の家族事情がいまいちわかんなくて、もしかして皆さんひとりずつ野生的な暮らししてんのかと思ったけど、わりと()()()()大家族なパターンもあるらしい。そこら辺は種族によってバラバラなので、あんま深く考えないようにしている。


 提供したサービスの不具合は、様子を見ながらアップデートしてくしかない。私の思惑とは全然違う受け止められ方とかもするし、ある程度はどんと構えてケ・セラ・セラな感じで行かないと、とてもじゃないけどやってらんなくなるのだった。


 だから、結局は私が好き勝手やって、文句あるならご意見よろしくねって感じにするしかないのだ。今回は憧れのウィンブルドンを真似て、きゅうりのカクテルとイチゴ&クリームを提供している。軽くフルーツ屋さんとの癒着が見られるが、()()()()()()だ。いい感じのグラスがなかったので、小さい半球の結界を容器にして、1日限定で使えるようにしてみた。きゅうりだけじゃなくて、オレンジっぽいフルーツとベリーやミントを大量にぶち込んでるので、どうしても透明な容器に入れたかった。可愛さ重視。



「このカップは、なかなか斬新だな」


「美しい模様が入っていて、透明なのがいいですな。家に持ち帰りたいくらいです」


「うーんどうでしょう……帰る頃には消えてしまうかと」


「なんともったいない。これは売り物になりますよ」



 亀甲紋様の結界が美しいのはわかるけど……売れるか? すぐ消えちゃうし、タヌキとかキツネの葉っぱのお札みたいな感じで詐欺っぽくなっちゃわないかな?


 でも、王様も大臣さん達も無邪気にワイワイしてて、何だか楽しそう。



「たしかに、けっかいまほうを()()()()にするなど、きょういくがかりどのぐらいしかおもいつくまい」



 妖精王女のアイテールちゃんも、すっかり元気になってイチゴに(かじ)り付いていた。フワフワちゃんは酸っぱいイチゴが苦手みたいで、クリームだけペロペロしてる。できれば残さず食べてほしい……



「結界……売れる……イベント……そうか!!」



 結界を()()()()()()結界像を作って飾るイベントをしたら、みんな見に来てくれるかもしれない!


 すぐ消えちゃうし、後片付け問題も解消されるよね!


 などと考えていたら、早速やりたいことがてんこ盛りにあふれ出てきてしまった。


 王都でもいいけど、こういうのは雪国でやってなんぼのお祭りなのではないだろうか?



「きょういくがかりどの……なにやらまこくのおうが、そなたにはなしかけているようじゃが」


「あっ、何ですか? すいません!」


「いや何、あの対戦者がなかなか見どころのある人間なのでな、名前を聞いておこうかと思ったんだが」


「あ! 名前……そういえば聞いてない……」



 コミュ障がこんなところで炸裂するトワ……


 丸一日ずっと一緒にいたのに、筋肉3人組のひとりとしか認識していなかった。



「け、警備志望の人間君Aです……」


「なんじゃそら。そなた、本当に他人に興味がないのだな……余の名前を知っておるか?」


「えっと……ロワ様ですよね?」


「余はミューオン・イム・ジェヴォーダン。覚えておいて損はないぞ。ちなみに我が息子たる王子の名前は?」


「フワフワちゃん」


「ムー!」


「これの正式名は、タウオン・イム・ジェヴォーダンという。覚えておくがよい」


「タウオン王子ですね、了解です」


「ム、ムー! ム、ムー!」


「え、じゃあ……フワフワちゃん?」


「ムー!!」



 王子殿下ご自身は、フワフワちゃん呼びがお気に召しているようだ。私たちのやりとりを見て、周囲のおじさん達は溜息まじりに諦めた様子だった。フワフワちゃんは、これからもフワフワちゃんだよね!


 などと客席でワチャワチャしているうちに、蛇男君と警備志望の人間君Aの試合は始まっていた。どちらも腕力は互角のようで、槍と剣の戦いだ。リーチが長く防御魔法が使える分、蛇男君のほうが有利かと思ったが、人間君も何かスキル持ちらしく油断ならない相手だった。



「あの人間君は、たぶんスキル持ちですね。人間は、魔法の代わりに『スキル』という特殊能力が使えるらしいので……」


「何と、それでは希少種か?」


「ぜひ軍に欲しい人材です。魔国でもスキルとやらの研究をはじめてみてはいかがでしょう?」


「鍛えてしまって大丈夫ですかな? 新たなる勇者となるのでは?」



 おじさん達は、にわかにワイワイと盛り上がりだし、こういうスペック語りにハマってるのはどこの男子も同じだなと思った。単語と数字を与えたら、いつまでも楽しそうにしているだろう。原理的には、噂話を楽しむのとあんま変わらない気もする。


 私は余計なこと言っちゃったかと少し反省したけど、騎士団に入るならどうせとことん調べられてしまうだろうし、隠すより何となくバラしといたほうが健全じゃないかと思う。個人の能力は内緒でもいいけど、人間が『スキル』という能力を持ってるっていうのは、やっぱり魔国の首脳陣には共有しておいて欲しい情報だ。ただし、勇者様の秘密は約束どおり内緒にしている。


 2人の試合はかなり長引いたけど、スタミナ勝負に持ち込んだおかげで、魔力と体力の総量が多い蛇男君に軍配が上がった。


 試合も面白かったけど、2人の剣戟(けんげき)に一喜一憂するおじさん達を見物しているのもまた面白かった。



「いやー手に汗握る試合でしたな」


「いかにも、双方持ちうる技術を出し切ったように見えました」



 歌劇を観終わった後のご婦人達のように、あれは良かったここが面白かったと好き勝手に言い合うおじさん達は、何だか少し酔っ払っている。


 4年に1度の大規模人事異動は、酒の肴にちょうどいいらしい。蛇男君達は必死で頑張ってるのに、トップはいい気なもんだ。大臣の配置換えは無いのかな??


 まあ、私もホリーブレ洞窟行きで何かを評価されちゃうらしいから、大臣さん達だってこれから何かテストが控えているのかもしれない。もしかして、この王様との観戦も、何かの評価に影響したりするんじゃ?


 蛇男君は5人抜きまであとひとり。ここまで来たなら一発で騎士団に合格してほしい。


 私は、楽しそうにはしゃぐ妖精王女を見ながらそう思っていた。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「ホロホロ・ボウル4つと、カトブレパスの串焼き6本ください」

 

「あいよ!」


 

 ランチを調達がてら、私はコロッセオ2階で出店の様子をチェックする。市場で人気のお肉屋さんが出してくれた出店で売っているのは、いろんなお肉を細切れにした串焼きと、それをごはん的なものに乗せてくれるボウルって名前の丼物だ。女将さんが威勢のいい人で、旦那さんに店を任せてコロッセオに来てくれた。ワンオペっぽいけど大丈夫かな?


 ささっと商品が出てくるので、作り置きかと思ったらホカホカの出来立てだった。



「どうも、何か困ったことありませんか?」


「ああ、誰かと思えばオーナーさんかい! こっちは問題ないよ!」


「女将〜! お腹減ったでしょ? 差し入れで〜す!」


「あらまあ悪いね! ありがたくいただくよ! ……ほらね?」



 私との会話中にも、隣りのブースの店員さんが、ぐるぐるバーガーを届けてくれていた。みんな助け合っているようで何より。余計な気を使わせちゃいけないので、用事を済ませたら早々に退散する。



「おお、待っとったぞ!」


「前回は出店が出ていませんでしたからな」


「これが新作のホロホロ・ボウルとやらですな」



 お偉方のおじさんズに丼飯(どんぶりめし)を渡し、私はフワフワちゃんに串焼きをあげる。アイテールちゃんは私のホロホロ・ボウルから焼鳥を一個持ち出すと、手と口周りを茶色いタレでベタベタさせながら思いっきりかぶりついた。



「なんと! このあまいつゆはたまらんな!」


「ふふ……王女様のお口に合ったようで何よりです」


「ムー!」



 フワフワちゃんも、大好きな串焼きを両手に持って大喜びだ。私はおじさん達に試してもらおうと日本酒っぽいものを用意していたので、(ふた)のついたカップ酒を見せる。



「実は、新しいお酒もあるんですけど味見します? そのお肉の下のご飯部分を醗酵させたもので……」


「何と、これが酒になるのか」


「飲んでみたいですぞ!」


「このカクテルもなかなか乙なものでしたが、新作の酒となると味見せずにはおれませんよ」



 偉いおじさん達にカップの開け方を指南して、買い足したおつまみの袋を渡す。これでしばらくは持つだろう。ロイヤルボックスの様子を窺っている周囲のお客さん達も、ワラワラと同じものを探しに席を立つ。宣伝効果はバッチリだ。


 客席のご飯タイムが落ち着くと、午後の部の試合がはじまった。







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