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3.『蛇男君の昇進試験』part 5.

 王城の廊下を小走りに移動していると、マーヤークさんとヴァンゲリス様が揉めていた。どうせ人事異動の件だろうと思ったけど、ヴァンゲリス様は一応ほかの国の王子様っていう設定だし、人事異動とか関係ないはずだよね。


 ……などと考えて一瞬立ち止まってしまったのが運の尽き。ヴァンゲリス様がなぜかにこやかに笑いながら、こっちに向かって手を振っている。それに気づいて怖い笑顔の執事悪魔も振り返った。


 み、見つかっちまったあぁぁぁ!!



「これは良いところにミドヴェルト嬢、王都に行こうと思うのですが、ご一緒しませんか?」


「は……?」



 事情が飲み込めずに、思わず生返事をしてしまう。


 何言ってんだ? この暗黒王子は……


 執事のマーヤークさんと一緒に居ただけで勇者様が激怒りだったのに、王子様と町歩きなんて完全に終わる。主に私の命が……だってベアトゥス様は、男女が町を歩くのは親睦を深めるためだと思い込んでるんだからね! 絶対に勘違いしてヤバいことになるんだってば!


 というか、オメーと俺、そんな仲良くねダロ……


 思わず自分の都合だけで考えてしまったけど、冷静になってみれば身分もすごく違うんだよね。王子が平民に声かけないでほしい。どうすればこの窮地を脱することができるのか?!


 救いを求めて、いつも優しい執事さんに目を向けてみると、当たり前のようにスッと視線をそらされる。裏切り者ぉおぉぉ!!



「き、今日は少々予定が詰まっておりまして、生憎ですがご遠慮いたします……」


「まあそう言わず、忙しいときほど息抜きが必要と言うではありませんか」



 悪魔達の常套句なのか、なんだかどこかで聞いたような台詞を吐きながら、暗黒王子はこちらへ歩み寄ってきた。私の立場でこいつに失礼なことしたらマズいかな?


 魅了問題で散々やらかしといて今さらだけど、混乱状態の応急措置と、この状況は同じじゃないってことだけはわかる。



「ヴァンゲリス様も()()()()()()()ですし、私は失礼させていただきます。それじゃ……」


「せめて王立学園までご一緒にいかがですか? 今時分はテスト時期でして、ぜひ一度、教育係殿のご指導をお受けしたいのです。よろしいでしょう?」


「う……」



 急にしつこいの何で?!


 私は結局断りきれずに、暗黒王子と王城の外へ出ることになってしまった。いつも一緒の暗黒騎士さん二人はお休みらしい。お休みって何だ? お前んとこの王子殿下、お忍びで外に行くってよ。付いてかなくていいの? ……と思うけど、まあヴァンゲリス様のほうが強いか。護衛の騎士は形だけなんだよね。この暗黒海の貴公子は、魅了全振りで悪魔界最弱だとしても、種族的なアドバンテージがあるから腐っても悪魔なのだ。少なくとも暗黒騎士よりは強い。


 つまり、私よりも強いわけで、マーヤークさんが(かば)ってくれないならヴァンゲリス様に逆らう(すべ)はないのだった。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「お忍びで外に出たいなら、もっとコッソリ動けばいいんですよ!」



 王城の外に出ると、私は暗黒王子に食ってかかる。何だか知らないけど、行き先は王立学園じゃなかった。その証拠に、ヴァンゲリス様は町人の服に着替えて髪も真っ黒に変えている。


 パッと見、マーヤークさんがちょっと若返ったようにも感じられるけど、どうも浮かれている顔が執事悪魔のイメージと違って気持ち悪い。その顔で変な笑い方しないでほしい。



「えへへっ……すまないね。君にはいろいろと迷惑をかけているんじゃないだろうか?」


「わかっているなら自重してくださいませんでしょうか、殿()()



 わざと殿下と付けるのは、ビビりながらも最低限の嫌がらせ行為のつもりだ。まあどうせ、こんなに騒がしい王都の市場街では誰も聞いちゃいないだろう。私は早いとこ王城の自室に戻って、蛇男君の()()()()()()()に戻らなければいけないのだ。忘れちゃいないさ、ここ数日の最優先事項なんだからね!



「……そういえば、ヴァンゲリス様はテスト勉強しなくていいんですか?」


「ああ、準備ならしっかり終えているよ」


「終えた…………ですか?」


「なんだい、その手のひらは? 私にやましいところなど……」


「残りのチャーム薬、出してください。さもないとマーヤークさんに告げ口しますよ」


「んもぅ君には敵わないなぁ……はい、これが最後の1本さ♡」



 暗黒王子は、まんまと教師を()()してテスト問題を入手していたようだった。本当に最後かは怪しいけど、わかっているぞと駄目元でプレッシャーをかけるだけでもしておこう。まあ、王子の成績がどうなろうと魔国には関係ないので、今回は教師にまで報告はしない。


 丸暗記で好成績取って何が楽しいんだか知らんけど、やってる感を演出して王都で遊び回りたいんだろうか?


 酒場に続く道で不良王子と別れると、私はすぐさま王城に駆け戻った。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「すみません、ちょっとトラブって……てアレ?」



 部屋に戻ってみると、蛇男君とアイテールちゃんしか居なかった。ベアトゥス様と3人の人間達は警備の受付に行ったとのこと。今は妖精王女様が妖精魔法の『シルフィ』で蛇男君の鱗を乾かしている最中だ。私の風魔法だと攻撃要素が強くて体に悪そうだから、自然な風でマイナスイオンも感じられそうな妖精魔法はうってつけかもしれない。


 脱皮後に弱体化するのは、脱水症状と栄養不足が関係しているらしいので、回復薬と栄養たっぷりスープを飲ませてみる。たらふく飲んだ蛇男君は、気持ちよさそうに窓際で長い体を伸ばしていた。


 魔国の民は、確か全員防御魔法が使えるんだっけ?


 だから、蛇男君も最低限身を守ることはできるはずなんだよね。だけど、生まれつき鱗のガードが硬いから、それに甘んじて防御魔法がうまく使いこなせないみたいだった。


 というわけで、私もそんなに詳しくないけど、西の森でマーヤークさんに怒られたときのことを思い出して効果的な防御魔法の使い方を伝授した。蛇男君は、そこそこ魔力があるほうみたいで、ケチケチせずに防御魔法が使える。だから、戦闘中の魔法は防御に全振りして、得意の槍術で攻撃する作戦だ。うっかり尻尾攻撃とかしちゃうと怪我するかもしれないから、とにかく鱗は守る方向で。



「ありがとうございます! 俺……頑張ります!」


「まあ、きおうでない。いつもどおりがいちばんじゃからの」


「きっと大丈夫! 試合、見に行きますね!」



 蛇男君にできるだけのサポートをして部屋から送り出す。階段で発見したときはどうしようもなく弱り果てていたけど、今はやる気と自信にあふれていて、何だかものすごく強そうだ。遊びに来たフワフワちゃんとそのお付きの執事マーヤークさんも、戦いのコツみたいなものをアドバイスしてくれてた。


 ドアの前にはベアトゥス様も来てて、やっぱそれなりに責任感があるんだなぁと思った。いや疑ってたわけじゃないけど、人間に肩入れしても、蛇男君にそこまで気を使うのかわかんなかったから意外に感じちゃったのかも。人間の3人は無事エントリーできたので、あとは本人の実力次第だ。



「ベアトゥス様、いろいろとありがとうございました。ご面倒をおかけして申し訳ございません」


「おう、気にすんな。それより、あの執事に聞いたが、()()()()()()()()()って?」


「ははは……王族にご指名いただき仕方なく……でもお忍びのカモフラージュですので……」



 あの悪魔……何してくれてんだ……非難の目でマーヤークさんを見ると、執事悪魔はニッコリ笑って口元に人差し指を当てた。何? 何が内緒? 意味が不明ですよ裏切り者!!





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





 騎士試験は、西の森のコロッセオで開催される運びとなった。


 いつもは王城の騎士訓練場で行われていたらしいんだけど、ちょっと手狭になってきたのと、割と密室感なとこが問題あって変更になったっぽい。後から評価に納得いかない我がまま貴族が、部下を引き連れて気に食わない相手を暗殺しようとしたり、揉め事に繋がることが多かったんだとか。


 だから観客入れて、後から言い訳できないくらいに見せ物にしようってことになったらしい。


 だ、大丈夫か蛇男君……


 でもなんか、闘技場が細かく仕切られて一斉にたくさんの試合が行われているのを見ると、すごく懐かしい感じがする。


私とフワフワちゃん、そして妖精王女のアイテールちゃんは、ロイヤルボックス席に入れてもらって王様と一緒に観戦することになった。なぜか黒い棒の大臣と、一緒に妖精王国に行ったセドレツ外務大臣も同席している。


 蛇男君が騎士団に入れるかどうかは、この勝ち抜き戦でいかに良い成績を残せるかにかかっている。



「お前達の友人の蛇男君というのは、あれかな?」


「ムー!!」



 おお……王様にも認識されてるよ蛇男君……頑張りたまえ。


 御前試合で緊張してなきゃいいけど……



「騎士団に入るなら、最低でも5人抜きは必要ですからなぁ」


「これまでで最高は、べへモト騎士団のモルドーレがやった8人抜きらしいですぞ」


「アレは凄かったですなぁ」



 大臣のおじさん達の話からすると、蛇男君は今2人に勝ったから、あと3人倒せばいいっぽい。


 順調に3人目を倒した蛇男君を見ながら余裕かもしれないと思っていると、4人目の相手は何と警備志望の人間さんだった。



「え、人間も魔国の騎士になれるんですか?!」



 思わず私が声を上げると、おじさんズが白けてこっちを見る。



「王子殿下の教育係になれるんですから、騎士にだってなれますぞ。ただし、実力が伴っている必要はありますがな」


「あ、あははーそうですよねー」



 ぐっ……ぐうの音も出ない。私って実力伴ってない気がしまくってるんだけど……もしかしなくてもやっぱ嫌味かな? ま、まあそれなりに役に立ってると信じよう。



「ムームー!」


「きょういくがかりどのよ、あのにんげんはどれほどのちからがあるのか?」


「うーん、どうでしょう……勇者様が見込みありって言ってたので、そこそこ強いかと……」


「なんと、勇者殿が?」


「これは見ものですなぁ」



 ワクワクするおじさん達を見てると、どうしても勇者ベアトゥス様に憧れてるようにしか見えない。いいのか魔国……まあいいけど。



「あのものは、かてるかどうかわからぬのにいどむのじゃな……」



 妖精王女アイテールちゃんが小さくつぶやいた。




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