01.勇者に婚約破棄されました
『女の勘』は当たらない。でも『自分に不利になりそうな予感』は当たる。
「まったく。最後に一言くらいあっても良いじゃない……」
がらんとした自室に、声が響く。手に力を込めて、手紙をぐしゃりを丸めた。
『やっぱり聖女と婚約するわ(笑)勇者より』と書かれていた紙を。
前世でやりこんだゲームに転生したから、この結末は知っていた。
私はヒロインである聖女の恋敵。貴族の悪役令嬢、ヘレナだから。
「分かっててもムカつく。誰の金で、ここまで来たと思ってるのよ!」
豪勢な部屋を見渡す。いつもの部屋だ。
でも、壁にかけられた絵や宝石など、金目のものは全て消えている 。
「そうだ。あのパーティ、盗賊がいたんだった……」
そういえばゲームでも、婚約破棄と同時に一気に羽振りが良くなっていた。
でもそんなものより、もっと憂うべき未来が私には待っていた。
シナリオ上では、婚約破棄された後にヘレナの出番は無い。
勇者と聖女の愛の力(笑)でラスボスの魔王を倒して、エンディングだ。
「でも追加コンテンツでは処刑されてたわよね、私」
CMで見ただけだが、確かそういう設定だった。こうしてはいられない。
さっさと国から出て、ゲームシナリオが適用されない場所を探すしかない。
荷物をまとめて、家を出た。
ぽかぽか陽気で、ほとんど春の宵だった。
「よお、ヘレナ」
そこで待っていたのは、赤毛に浅黒い肌の青年。
私と婚約破棄をした、勇者だった。
☆
「あんた、どの面下げて来たのよ?」
「俺が恋しくて泣いてるんじゃないかと思ってさ」
彼は口元に、下卑た笑いを浮かべた。
ぽかぽか陽気で、頭までやられてしまったのだろうか。
「今なら抱いてやっても良いぜ?今まで断固として抱かせてくれなかったからな」
「死んでもお断りよ」
私の答えは、彼にとって想定外だったらしい。
彼の表情は、一気に凍りついた。
「……なら、死ねよ」
「え?」
彼は剣を抜いた。禍々しい黒い光が、剣にまとわりついている。
それを見て、彼は薄く笑いながら私に近付いてきた。
「ちょうど試したかったんだ、『闇の剣』をな」
「ふーん。斬った相手を魔界に送るってやつ?」
「強がっていられるのも今のうちだぜ」
彼は剣の先を、私の首元にピタリとつけた。
黒い光が首元をぐるぐると覆い始めた。その動きは、どこか喜んでいるようだ。
チクリという痛みと共に、一筋の血が流れる感覚がした。
「言い残すことはねえのか?」
「あっても、あんたに言うことはないわ」
彼は無言で剣を空へと突き上げ、叫んだ。
宙に巨大な黒が出現した。
「『闇の剣』よ、この者を魔界に捧げる!」
次の瞬間、私は穴に吸い込まれていった。
気にしていたことは、ただ一つ。
自分の顔がニヤけていたのを、うまく隠せたかどうかだった。
☆
落下して、私は辺りを見渡した。不毛な荒野、確かに魔界だ。
誰もいないことを確認して、叫んだ。
「やった!これで推しに会える!」
魔王には5人の息子『魔王子』たちがいて、彼らを順番に倒していく。
そして最後に魔王を倒すことになっている。
あのゲームで、私の推しは第五王子のローラン。
美しい金髪とブルーの瞳を持つ、端正な顔立ちの青年だった。
あの頃は倒すのが嫌で、魔界で魔物を倒し続けていた。
レベルアップをしすぎた挙句、一瞬で倒してしまったのだが。
でもその方が、痛みを与えずに殺せて良かったよね?
「で、魔界ってことはローランの城もあるはずよね」
私は立ち上がり、辺りを見渡した。
すると前方に忘れもしない、彼の城がそびえていた。
「あった!?さすがに都合良すぎて心配になるけど!」
でも私は悪役令嬢だ。いつ死ぬか分からない。
モラハラ勇者と一緒にいた時間を、自分の人生を取り戻したい。
「彼に会えるなら、何だって差し出しても良いわ!」
私は深紅のドレスをひるがえし、一目散に城へ駆けて行った。
―――あの時、私は知らなかった。
この声を、地中深くで聞いていた者がいたことを。
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