無色カーストランク
『逃げても良いよ。』
あの言葉に今となっては縋りたい。
自分で決めた事に後悔して、泣くくらいなら。
「部活……辞めたいな。」
オーケストラとは、カーストで成り立っている。
一見、ヴァイオリンなどの主旋律が権力を持っている様に見える。
でも違った。人の替えが効くかどうか。それだけで成り立っている。
事実、人が多くてメジャーなヴァイオリンよりも、人が少なくてマイナーなファゴット。
沢山の人が弾けるけれど、実技テストをクリアしないといけないピアノ。
夢も個性も無い、ただ普通な音の重なり。
失敗しないけれど何の意味も無い。
「リコ?」
「は、はいっ!?」
部長から声を掛けられ、慌てて返事をする。
「さっきの合わせだけど。音、ズレてたよ?」
チューニングはした。つまり音自体は大丈夫……。
「えっと……どこが、ですか……?」
確認する様に小声で聞いてみると、部長は真顔のまま答えた。
「息継ぎだよ。あ、そういえば初めてだったね!ごめん!」
軽く笑いながら謝られる。
「……息継ぎがズレてる。全部、全部完璧にしないと……。」
怖い。個性が消されるってコレなんだと気付く。
「伝統には従ってね。」
目に光が見えない。恐怖で目を逸らす。
ふとムードリングを見ると、茶色く濁っていた。