5歳になりました 2
泣き出した私をお父様が抱っこし、両親が声をかけるが私は泣き止むことができない。今まではあまり考えないように記憶に蓋をして思い出さないようにしていた。だって、思い出すと前世の人々との別れを実感してしまうから…。優しかった両親、友達や職場の同僚、そして私が担任した教え子達…。もっと一緒にいたかったし、子ども達の成長も見守っていきたかった…。病気になり生きられないのは分かっていたけど平気なふりをしてずっと笑っていた。私が辛そうにしていたらみんなも気を使うし、悲しむと思ったから…。
でも、本当は辛かった…泣きたかった…。みんなと一緒に居たかったっ!!!
そう考えたら、もう顔を上げていることはできなくて私はお父様の胸に縋り付いて泣いている。
「ヒューゴ、セリーヌはどうしたんだ?!具合でも悪いのか?!」
やってきたのはリュミエール王国の国王のリュカと秘書のエミールと護衛の騎士達だった。遠くの方に王妃のエルサと王太子のアルベールがおり、こちらを心配そうに見ている。
「陛下…、それが我々にも分からないのです。神樹が見られるのを数分前まで楽しみにしていたのに、見たら急に泣き出してしまって…」
「セリーヌがこんなに泣いたことなんて今までなかったわ…どうしたのかしら…」
「そうなのか…、教会の者に控室を一部屋借りよう。そこで少し休んでくるといい」
陛下はそういうとエミールに声をかけ教会の人を呼びに行かせた。
「陛下、申し訳ありません」
「気にするな、私たちの仲だろう!お前がしおらしいとかえって調子が狂ってしまう。今日は王子を紹介しようと思ったのだが、また今度にしよう」
「陛下、本当に申し訳ありません…」
「ミラも気にするな。この子が泣くのだから余程のことがあったのだろう…」
お父様と両親が話しているのが聞こえたが、今日は挨拶できそうにない…。陛下ごめんなさい。
そして私たちはエミールが連れてきた教会の人に案内されて個室で洗礼の時間まで休ませてもらうことになった。
1時間ほど経って、私たちの順番が回ってきた。その時には少し落ち着いていたので、教会の内部へと進む。両親はとても心配そうにしていたが、大丈夫だと無理に笑って答えた。でも、私の嘘に気づいているみたいだった。理由を聞きたそうにしてたけどあえて聞かないでおいてくれることに今は助かった。
教会の礼拝堂には祭壇はあり、正面には大きなクリスタルのような岩が聳え立っていた。淡い光で輝いており荘厳な雰囲気があった。大司教様から月桂樹の冠を被せてもらい、動きについて教えてもらう。両親と大司教様は祭壇の下に降りて様子を見守る。
クリスタルの前に行きお辞儀をして手を触れると岩が属性の色に輝くそうで、能力が強いと光が強くなるそうだ。私は言われた通りにお辞儀をして岩に手を触れる。すると七色の光が一気に放たれ、目が開けていられないほどの光に包まれる。
私はあまりのことに驚いて手を離して後ずさる。
「セリーヌ、大丈夫?!」
「大丈夫です…ちょっとびっくりしただけ…え?」
「セリーヌ?!どうした?!」
私は両親の問いかけに答えずに、ある一点を見つめる。私がもう一度岩へと振り返った時に上から桜の花びらが降ってきたのだ。室内にも桜が入ってきたのかと上を見ると、岩の上には5歳ぐらいの男の子が座っていた。
「「「「ーーーーっ!!!」」」」
驚いてみんなで男の子を見上げる。でも、私がみんなと違うことは男の子がいるから驚いているのではなく、私はその男の子だから驚いているのだ。
思わず2人で数分見つめあう…。そしてやっとのことで震える唇を動かして声を出す…。
「ぇ、え、うそ…どうして!!!ゼン君!!!どうして貴方がいるのっ?!」
私がこの男の子の名前を知っている理由は簡単だ。
だって、私はこの子の担任の先生だから!!!忘れられるはずがない!!!どうしてゼン君がここにいるの?!もしかして、ゼン君も死んでしまったの?!まだ5歳なのにっ!!!
私は、色々な思いが頭の中を駆け巡って再び涙を流しながら、ゼン君の元に駆け寄った。私の教え子達には幸せていて欲しかった!元気で幸せな毎日を過ごして欲しかった!!私の分まで長生きして欲しかった!!!
ゼン君は微笑みながら舞い降りて私を抱き止めてくれた。
『桜先生、落ち着いて。ちゃんと説明するから…』
久しぶりに聴いた私の前世の名前…思わず目を見開いてゼン君を見つめる。
『2人きりで話をしてくる、少し待ちなさい』
ゼン君は威厳に満ちた態度で大司教様と両親に声をかけ私を連れて、姿を消した。
連れてこられたところは、白い建物の中でそこには白いテーブルと椅子が置いてあった。
もう、私は訳が分からなくなって大声で泣いてしまった。分からないことが多すぎて頭の中がパンクしてしまったのだ。私が泣いている姿をゼン君は困ったように抱きしめながらぎこちない手つきで頭を撫ででくれた。そのぎこちない様子からこの状況が現実なのだと実感し、私は少しずつ冷静さを取り戻していくのであった。