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黒と白の少女

長閑な風景を眺めていた白髪が風に靡く。涼風に吹かれ気持ちよさを感じているのか、白髪の彼女、アルス・イェライズはにこやかな笑みを浮かべていた。


「綺麗だね。」

「そうだね、あの景色とはまるで違う。」


私はアルスのことを言ったつもりだったが、彼女には風景の事と勘違いをされたらしい。それもそうだ、今私たちの住む国、エストリアは隣国と戦争の真っ只中だ。この辺境の村、アルケアは隣国と離れた場所にあるため未だ敵国の侵略等は受けていないが、国境線付近では昼夜問わず、銃火器や魔術の爆破音が響いている。


「ノアちゃんは怖くないの?あの光景が。」

「怖いよ、でも、いつか私達もその景色の1部になる。そのために私たちは生きているんだから。」


ノアと呼ばれた私、エーテル・ノア=オキシドライトは魔術を扱う魔術師の卵だ、学園に通い魔術の基礎となる元素学や魔術倫理等を学んでいる。それはアルスも同じことで同学年の友人として今こうやって長閑な風景を見ていたのだ。

だけどそれも、あと2年だけの話なのだけれど。学園は13歳になると入学をすることができ、15歳の成人の歳まで生徒として魔術の勉強をすることが出来る。そしてその後、立派な魔術師として戦線へと赴く事になる。それが私達魔術師の運命なのだ。

少し沈んだ空気を消すために私は座っていたベンチから立ち上がり、近くにあったブランコに座る。ギコギコと漕ぐと此処が崖付近だから下の街の光景がよく見える。平穏な、だけども少し焦燥を抱えたように感じるその光景が不思議と目に焼き付いた。

茜色に染る空を見てアルスは口を開く、


「そろそろ、帰ろっか。」

「そうだね、かえろ。私達の家に。」


ブランコから降りて私はアルスの横に行く、そしてしっかりと力強く彼女の手を握り歩き始める。慣れてるはずなのに彼女の頬はほんのりと朱に染っていて恥ずかしそうに顔を伏せていた。それを見て笑みを浮かべた私は上機嫌で歩き出す。


家、と言っても学園の寮に帰り着く。2人部屋でそこそこの広さがあるこの家に私たち2人は住んでいる。玄関で脱いだ靴を揃え、2人でただいまと言ってからリビングへと向かう。部屋に灯りをともすと見慣れた部屋の光景が出てくる。部屋着に着替え、洗面所で手洗いうがいを済ませた私たちはリビングの椅子に腰掛けた。アルスは机上に置いてある一冊の本を手に取り読み始めた。其の姿さえも様になっているのだから彼女の美しく儚い顔もスラリと引き締まった体つきも羨ましく思う。

少しばかり休息をとったあと私は夜のご飯の用意を始める。アルスは集中した様子でまだ本を読んでいたので、音を立てないよう立ち上がり、キッチンへと向かった。

何を作ろうかと考えアルスの好きなオムライスを作ろうと決めた。卵を殻が入らないように綺麗にボウルに割り、砂糖やイェスルのミルクを入れる。イェスルは牧草地域に住む草食の動物で、定期的にミルクがとれ、そのお肉も美味しいので食用として飼育されている。

それらを混ぜたあと、フライパンでふわふわに焼き上げる。中のご飯は冷凍のものを使いパパっと済ませた。出来たオムライスをお皿に盛りつける。アルスはナイフで切るとフワフワになるのが大好きらしいから久しぶりに作ったが、結構大変なものだと改めて感じた。

両手にお皿を持ち、リビングのテーブルの上に載せる。カタンとお皿とテーブルがぶつかる音に気が付いたのか、アルスは熱中していた読書をやめ、顔をあげる。視界にオムライスが入ったからか、その綺麗な翡翠色の瞳が更に輝いている。急いでテーブルに来た後可愛らしく手を合わせ、


「いただきます。」


と、言葉を発してハムハムと食べ始めた。その様子を見て小動物みたいで可愛いなとか、そんなに急いで食べたら喉に詰まらせないかなとか色々と考えていると、案の定喉に詰まらせたのかケホケホとアルスが咳をしだした。しょうがないなとため息をついて、アルスの背中側にたって優しく背中を撫でる。やがて落ち着いてきたのか、私が持ってきたコップに入れた水を半分ほど飲んで、ありがと、と小さく零しゆっくりの残ったオムライスを再び口に運ぶ。それを見つつ私もアルスの反対側の椅子に座り、自分で作ったオムライスを食べる。我ながら美味しいなこれ、とか色々と考えながらまったりと過ごすこの時間は、私にとっての幸せだった。

食事を終え、アルスはお風呂に入りに行ってしまった。その間暇になった私は、本棚横に置いてある1人がけのソファに向かう。本棚から面白そうな本を1冊選び、それを手に取ってソファに腰掛けた。綺麗な風景の描かれた表紙を開く、そこで1度深呼吸をして、さらに次のページを読み進める。初めて読む本だけどスルスルと読み進めれるぐらいにはおもしろかった。この本の舞台はまだ魔術の発展していなかった100年前のこの国、エストリアだ。今よりも少しだけ栄え、人も賑わいも多かったこの世界を感じられた気がして、嬉しいような寂しいような、今もこうだったらいいなと言う気持ちが湧き上がってきた。

そんなことを考えながら1冊を読み終える。ふうっと息を吐いて手と背中を伸ばす。気持ちいい。顔を上げ、アルスがお風呂から上がっているのを確認し、私も立ち上がりお風呂に向かう。

脱衣所で衣服を脱いで浴室へ行く、浴室はゆったりとした広さがあり、浴槽も2人くらいまでは余裕に入れる広さがあった。シャワーを浴びて、浴槽に満杯まで溜まったお湯に浸かる。身体全体がポカポカとあったかくて、一日の疲れがとれていく。

10分くらいお風呂に使った後に頭と身体を洗ってもう一度お風呂に入る。やっぱりお風呂はいいものだ、無限に長く入れる気がする。

それから10分ぐらいたって眠気を覚えてきた。流石にお風呂で寝落ちするのはまずいのでそろそろ上がろうと思う。タオルで軽く体を拭いてから脱衣所に行き、置いていたバスタオルでもう一度身体の水気を拭き取る。そして下着とパジャマを着てリビングに戻った。

アルスはさっきまで私が座っていた椅子に座って本を片手にうつらうつらと眠そうにしていたので、


「明日から新学期だしそろそろ寝よっか。」


と声をかける。アルスは眠たそうになんと言ってるか分からないような返事をして立ち上がり、フラフラと寝室へ向かった。それを支えながら寝室のドアを開ける。

寝室の真ん中には大きなダブルベットがあり、その左隣にライトが置いてある。理由はアルスが暗いのが苦手だからというとても可愛らしいものだ。


「ちゃんと明日の用意した?」

「…うん。したよぉ。」

「それなら大丈夫だね。アルスおやすみ。」

「ノアちゃんおやすみぃ…。」


布団に潜り込んだアルスは直ぐに一定の速度で寝息を立て始めた。可愛らしい顔を覗き込んでほっぺをむにむにしたりつんつんとつついてみたりして、私も布団に入る。サイズ的には2人でもかなり余裕があるけれど、私はアルスのすぐ側にくっついた。

いっつもそうやって寝ているしその方が安心感があるから。目を瞑ってその安心感に身を任せているとすぐに眠気が襲ってきた。新学期の緊張も吹き飛ばすくらいのその眠気は直ぐに私を夢の中へと誘う。幸せな暖かさと心地良さを感じながら私はゆっくりとその意識を手放した。

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