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お見合い行ったら相手が二人いて、どっちからも好意を持たれてバトルが始まったんだけど何コレひどい

作者: 白城めめか


 突然だが、俺——――佐々木 大作(ささき だいさく)にとって、今日は厄日だと思う。

 それは―――――。


「「一目惚れしました! 結婚して下さい!!!!」」

「はいっ?」


 突然の求婚に俺は困惑していた。

 どうしてだろう。対面した時は普通の女の子だと思って感動していたのにな。


(おかしいな。これは夢か幻か? 目覚めたら俺はベッドの上なんだろうな)


 俺は考える。どうしてこんなことになってしまったのかを。

 一度も彼女が出来たことが無かった俺に突然降って湧いた婚約話。

 

 俺にも可愛い彼女ができるのかと喜んでいた。


(なのに、どうしてこんなことに)


「そっちは子供を作って欲しいだけでしょ! この雌犬が!」

「ほう。こちらは幼少期から傍で見続けていたのだ。途中から入って来た女にだけは言われたくないな」

「言ったな! 表出ろぉ!!」

「いいぞ。勝負は何にする!」


 何か話せば喧嘩(バトル)し合うお二方。

 ちなみに、「幼少期から」と言っている青髪ポニーテールの女の子とは()()()だ。


 名前は峰崎美亜(みねざき みあ)

 俺と同級生で高校二年生。


 キリっとした大人系女子の雰囲気を持つ青い瞳にもかかわらず、ふっくらとした泣き袋が色香を醸し出す。

 そして、古風な感じで、時折目を合わせた時に俯いて上目遣いでこちらを見る仕草がチャーミングな子だ。


 ただ、話をしていて違和感があった。

 それは何故か、俺と彼女は幼馴染だったらしいのだ。

 

(初めて会ったんだけど。俺、頭でも打ったかな)


 語られる馴れ初め含めた記憶にない想い出の数々。

これほど怖い物は無い。


 トドメは好きな食べ物を聞いた際に、


「大作殿がお好きな料理が好きです」


 と口に手を当てて、チラッチラッと見ながら言う彼女には心臓が止まるかと思った。


 正直言ってホラーだ。


 そして、もう一人の美少女も問題だった。


 山城桃花(やましろ ももか)


 財閥のお嬢様で高校二年生。赤ツインテールにバラのような赤味の強い瞳にタヌキ顔で可愛らしい。

 口調はわがままお嬢様で、ツンデレ感があるのも良かった。


 あと、お見合いの部屋がどこか迷った俺を偶然会った彼女がお見合い相手だと知らずに案内してくれた優しさもある女の子。


「バカなの? 事前に場所ぐらい調べておきなさいよ」


 と罵倒しつつだったが、最後には「お見合い頑張りなさいよ」と応援までしてくれた。


 お見合いの席で親が連れてきた時、良い子とお見合いできると嬉しかったものだ。


 ……殴り合いに近い暴力行為(バトル)をする気の強そうな場面を見るまでは。


(あぁ、どうしてこうなった)


「はぁ? アンタ、幼馴染じゃないでしょ。それに対して私なんか、さっき偶然にも出逢って、ここまで案内してあげた関係よ。偽幼馴染はすっこんでなさいよ!」

「言わせておけばッ! 貴様の方こそ、知っているんだぞ! さっきお見合いの待合室で勝手に抜け出して、本来は男性が待つ場所で待ち構えていたのをな!」

「こ、この、噓つき!!!」

「ふん。貴様の方こそ噓つきだ!!!」


 ヒートアップする二人を前に俺は縮こまるぐらいしか出来ない。

 おかしいな。俺は普通の女の子に憧れて、親にも普通の女の子がいいと頼み込んだはずなのに。


(うーん、どうしてこうなった? というか、はよ終わってくれよ)


 二人の喧嘩は激しさを増していく。そして、俺に最終判断を求めて来る有り様だ。


「そこまで言うんだったら、どっちが正しいか選んで貰いましょうよ!」

「望むところだ! 貴様のような女に負けるはずが無い」


 そこまで聞いて、俺は部屋を飛び出した。

 後ろの方から追いかける二人の声が聞こえる。


(もう嫌だ。俺、家帰る)




「これは夢だ。これは夢だ」


 震える俺は朝を迎え、体を起こして固まった。


「おはよう。よく眠れた? 昨日はごめんねぇ。私も興奮しちゃってさ」

「いや待て。まず何故、俺のベッドの上に居る。いやそもそも、何で一緒に寝ている」

「え? 覚えてないの? 馬鹿、あんなに滅茶苦茶にした癖に」


 何をとは聞かない。聞いたら終わる。何がと言えば、具体的に言うと()()()()が。

 

「山城さん」

「桃花って呼んでよ。嫌?」

「………」


 よく見れば、山城さんのパジャマがはだけていた。これは見てはいけない。謎の反射光がなければ見えそうなぐらい隠れていない。


(これは事案だ。事案だな。さて、俺はどうやって言い訳しようか?)


 誰に対しての言い訳だろうか。そもそも論、俺は記憶がない。

 あの後、眠った後に山城さんをベッドに連れ込んだような記憶がない。

 だから問題は起こしていないはず。


 だが、事件は起こっている。さて、これはどういうことだろう。

 

「ふつつかものですが」

「待てぇぇぇ!!!」

「はあああああ!!??」


 窓からダイナミック突入をする青髪の美少女。

 昨日お見合いをした峰崎美亜だ。


「何という不潔なことを! 許さんぞ!」

「待て待て! 俺は無実だ! 何もしていない。する気もなかった!」


 浮気現場が見つかった男のように言い訳する俺は覚悟して目を瞑る。

 ビンタなりなんなりされるはず。


(あれ、何も来ない)


 見れば、山城さんと峰崎さんが取っ組み合いをしていたのだ。

 この好機逃すべきではない。


 気配を消して、ゆっくりと後退る。足音も立てないように静かに丁寧に。

 ドア前に着いた。制服、学生カバン含めてすべて手にしている。

あとはダッシュすれば問題無い。


「あ、大作!」

「大作殿!」


 何か呼ばれたが知らんぷりだ。


 二階の自室から一階のリビングに着くと、お袋と親父がゆったりと食事していた。

 息子の貞操が奪われかけていたのになんと吞気なことなのか。


 親父に問うとコーヒー飲みながら笑われた。


「孫の顔を見たかったからなぁ」

「やかましいわ!」


(ダメだ。親も味方になってくれない!)

 

 いや、そもそも親に言われお見合いにいったのだ。

 親もグルだと思うべきだった!


 塞いであったリビングのドアが激しくノックされる。声からして二人の女がこじ開けようとしているのが分かる。


 残った退避口は庭へと続く窓のみだ。

 急いで制服に着替え、食パンを咥える。


「教科書も筆記用具も入ってる。あと忘れ物は……嘘だろ」


 家の方向を見れば、玄関ドアから出て来る二人の女が目に入る。

 青と赤の鬼である。二人で口論しながらこちらと目が合う。


「あ、やべ」


 思わず逃げ出した。





「そんなことがあったんだよ」

「あはは、大変だったね」


 俺の話を聞いてくれるクラスメイト。

 本当の幼馴染で、婚約するならこいつがいいと思える女子。


 古川春奈(ふるかわ はるな)


 友達としてしか見て貰えていないだろうし、振られるのが怖いから何もしてない。

 だけど、女っ気のない俺にとって、こうして親身に相談に乗ってくれる幼馴染というのは貴重な存在だ。精神的癒しを与えてくれるからな。


「大作君も大変だね」

「も? ということはそっちも婚約話が!?」

「うん。本当、大変だよ。相手には既に婚約者が二人決まっていて、スタートに乗り遅れちゃったし」

「あはははッ、そうなんだ」

 

 ショックだ。結婚するなら春奈とが良かったのにと思っていたから。


 腰までかかる黒髪ストレート。大和撫子な黒瞳にパッチリ目。

 可愛い系で明るい彼女に俺はどれだけ励まされた事か。


「婚約相手が春奈だったら良かったのに」

「……」

「春奈?」

「あ、ごめん。ちょっと考え事をしてた」


 今、一瞬だけ目付きが家に強襲してきた青鬼、赤鬼に似ていた気がしたが。あの獲物を前にした肉食獣のような目。思わず寒気がして身震いしてしまった。


(俺の勘違いか?)

 

 いつもと変わらない明るい幼馴染。

 家に置いて来てしまった消しゴムなり定規なりを貸してくれる優しい彼女がそこにいる。

 明らかに勘違いだ。


(疲れていて、見間違えてしまったんだな。朝、大変だったし)


 色々とあり過ぎた。心の処理が追い付いていない。

 普通の女の子とお付き合いなり、結婚できると思って喜んでいたのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。


「見つけたわよ大作!」

「は?」

 

 教室入口を見れば、そこにいたのは赤いツインテールの女の子。

 山城桃花が立っていた。


「学校違うだろぉぉぉ! 何で違う制服なのに、すんなり入れてんだよぉ!」

「守衛の人にお願いしたら通してくれたから問題無いわ!」

「大ありだよ!」


 俺は逃げる。教室は一階だから窓から逃げれたのは幸運だ。


「待ちなさいよ! まだしっかりと答えを聞いていないんだから!」

「勘弁してくれ!」

「一緒に寝たんだから責任取るのが男ってもんでしょ!」

「それ、俺、悪くない!」


 友達連中から「裏山」と同時に「裏切り者死すべし」の呪詛が聞こえた。

 聞き間違いではない。

俺に向かって、ブーイングしているのが見えたから。


「待たれよ。答えを聞くなら私が先だ!」

「お前、どこから出てきたよ!」


 突如となく現れた峰崎美亜に驚いてツッコミを入れてしまった。

 そんなところじゃないのにだ。


「安心して欲しい。私が守ろう。その為にも、茂みから見守っていたのだしな」

「それおかしいからぁ!」


 それ立派なストーカーだし、山城から守って貰っても結局、お前に襲われるなら意味無いから。


 今は逃げるしかない。

 隠れるところが少ない校庭から学校内に逃げ込む。

 使っていない教室に隠れ潜むなり、図書館に逃げ込むなりすればさすがの二人も襲って来ないはず。


(だといいなぁ)


 望み薄だが仕方ない。行くしか活路がないのだ。

 廊下を進む俺の前に手が出て来た。


「こっち!」

「春奈か! 助かった!」


 使っていない教室の中に引っ張られ、ドアに鍵を閉める。

 一指し指を口に当てられ「しっ」と耳打ちされる。

 廊下を掛ける音がする。


「見失った!」

「アンタのせいよ! いつも邪魔ばっかして!」

「それはこちらのセリフだ!」


 言い合う二人の声が遠くなる。どこか遠くへ行ってくれたようだ。

 助かった。そう思って良いだろう。


「ありがとう春奈。命拾いしたよ」


 振り返ると、春奈が俺を押し倒す。

 四つん這いに乗りかかる彼女の顔は見た事もないぐらい怖い笑みを浮かべていた。


「は、春奈?」

「酷いよ。私の方がずっと前から……もっと前から傍にいたのに別の女を選ぶなんて」

「え? いや、えっ?」


 理解出来ない。いや理解したくない。

 春奈がこんな目をする女なんて思いたくない。

 純真で優しくて普通な女の子の春奈だ。

 そんな幼馴染が肉食獣のような目をするあの二人と同類なはずがない。


「待て、これは夢だ。きっとそうに違いない」

「夢じゃないよ。大好きだよ。大作」


 蓑虫のようにモジモジするもガッシリとホールドされ、体を固定された俺に逃げ場は無い。春奈の手が俺の頬に触れられ、うっとりとした表情をする。


 本格的にマズイ状況だと理解する。理解した。


(これ朝の時より、マズくね?)


 左手で頬を触られ、右手はズボンに向かってベルトの方に触れられる。

 金属が擦れる音が響く。脱がされているということを理解した。


「春奈、一旦落ち着け」

「どうして? 既成事実さえあればもういいじゃん」

「違う、そうじゃない」

「もう焦らさないでよ。我慢できない。だからね……頂戴?」


 その時、ドアが吹き飛ぶ。そこにいたのは蹴り上げフォームを取っている峰崎美亜だ。

 どんな馬鹿力だよとツッコミ入れたら、


「愛の力だ」


 と言って、頬を赤くして言う彼女にドン引きした。


「まだ間に合うわ。このまま入れてしまえば!」

「何を入れるの? 泥棒娘?」


 いつの間にか隣でニコニコしながら屈んで春奈の腕を掴んでいる山城。

 さっきまで俺と春奈だけしかいなかったはず。

なのに、隣で屈んで微笑む彼女の目は雪のように冷めたかった。ハイライトさんが死んでいた。


「アンタ誰?」

「幼馴染で大作の彼女ですけど。何か文句あります?」

「大あり。アンタ邪魔。だからさ……消えてくれる?」


 山城の言葉を合図に春奈が見た事もない速度で回し蹴りをし、山城を蹴りつける。

 対して、山城はそれを腕でガードし、受け止める。


 突然起きる戦闘アクションに開いた口が塞がらない。

 いや、春奈に対して引いていたのもあった。

(春奈って、運動苦手じゃなかった? 体育の授業とか、アレ全部演技!? 嘘だろおまえ)


 俺は決断する。この機会を逃す訳には行かない。

 峰崎も山城と春奈の乱闘に加わっている。

 行くなら今しかない!


 さあ、行こう。今行こう。


 命がまだある(貞操が奪われる)前に!


「あ、大作!」

「ぬ、大作待つのだ!」

「大作君! 私を選んで!」


 肉食獣同士が戦闘しながらこちらに向かって走り出す。

 それを見て思った。


 やっぱり、結婚相手は普通の女の子がいいなと。


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