三、真似ごと軍議
正徳寺にて、岳父斎藤道山との会見に臨んだ信長は、そこで思いがけず、赤塚での首狩り事件の下手人、天、氷、蒼の三人の童達と再会した。彼らはなんと、道山の元で小姓働きをしていると言う。
会見は無事に終了し、道山らに見送られながら那古野城への帰途についた信長であるが、道山と天には、なにやら別の思惑があるようでー。
天文二十三年、一月、信長が二十一歳になる年だった。
正月のめでたい雰囲気もすっかりと霧散する事態に、信長は居室で一人、重い溜息をついていた。
振り返れば昨年四月、美濃の国主、岳父斎藤道山との会見以降、尾張国内は例年になく「静か」だった。
つまるところ、信長に楯突く勢力が、静観、もしくは沈黙を貫いた一年でもあった。清洲城の織田大和守と坂井大膳らは、あいも変わらず城に立て籠もり抵抗を続けているが、籠もっているだけならまだ良い方といえた。
これは兎にも角にも、道山との会見のおかげだろう。
道山との会見を終えた信長の耳に、とある噂が入ってくるのに、そう時間はかからなかった。曰くー、
『大たわけの門前に、我が子らは馬を繋ぐことになるだろう』
そう道山が会見の後に、家臣に漏らしたという。
大たわけとは勿論信長の事で、門前に馬を繋ぐとはすなわち、斎藤家がゆくゆく信長に下るということだ。
そんな噂が、尾張と美濃の領内で広がっているという。信長が流布したものではないので、出処は十中八九道山なのだろう。道山から信長への粋な助力という訳だ。
という訳で信長は、斎藤道山という強力かつ協力的な後ろ盾を得て、内政に力を入れ出したところだったのだが、その矢先に此度の「問題」である。
身内からの裏切りではない、尾張の外、今川家からの鬱陶しい干渉だ。
伊勢湾に突き出るようにして尾張と繋がる知多半島。そこには信長の同盟相手、水野信元の緒川城があるのだが、そこが今、今川軍に攻略されようとしているのだ。
「…信元殿の事は助けてやりたいしなあ。とはいえ那古野城を空ける訳にもいかんし。さて、どうするか。」
もとより緒川城を今川方に押さえられるのは良くない。尾張の横腹からしか攻めてこられない今川が、緒川城を攻略すれば尾張を下から攻める事も可能になる。
そしてなにより厄介なのは、水野家の特殊な立ち位置だ。水野家は知多半島で勢力を伸ばしてきたのだが、この水野家、敵味方をコロコロ変えるという特徴がある。織田と協力していたかと思えば、気付けば今川、松平と仲良くしていたり、果ては彼らと姻戚関係を結んでいたりしたのだ。
とはいえそれは先代までの話、信元が家督を継いでからは、水野家は一貫して尾張の味方として同盟関係にあった。勿論、今川にどうしても寄らねばならない時期もあったが、それでも信元は結局のところ、織田に味方し続けた。それは信秀から信長に家督が移ってからも変わらず、信長にとっては数少ない味方の一人であると言えた。
しかし信長と信元との同盟は、いわば信元の鶴の一声で維持されているだけなのだ。もともと今川にも通じていた水野家の家臣達の中には、今一度今川と手を結ぶべしとの意見も多い。それを信元は、頑として聞き入れないのだという。
だからこそ今の状況は、非常に危ない。
緒川城に、今川軍が攻め入ろうとしている。いや、正確に言えば、信長から離反しろと、圧をかけているのだ。信元がどれ程今川からの使者を突っぱねようとも、家臣の中には心の揺れる者が出てくるだろう。水野家の中で裏切り者が出る可能性もある。信長としては、身内からの叛意の危うさを、身に沁みて知っているので、信元に同じ轍を踏んで欲しくはない。
「…俺が行くしかない、か。」
とはいえ、信長が那古野城を長期に空ければ、清洲城に立て籠もって信長に反抗している連中が攻めてこないとも限らない。信長個人で動かせる兵は、未だ数少ない。那古野城に残しておく余力は、ない。
「兵が、要る。もっと大勢の…。」
信長の馬廻り衆と、叔父の信光率いる守山衆も頭数に入れていいだろう。しかしそれらはどう数えても、全て緒川城に向かわせるべきだ。残るは弟信行の末森衆。しかし信行に那古野城の居留守を任せる訳にもいかない。厄介な事にこの品行方正な弟こそが、織田家が纏まらない最大の要因なのだ。まだまだ表立って派手な動きはないが、かといって信長に反意があるのは明白だった。
「こりゃ駄目だな。俺の周りは敵だらけ、か…いや、とうの昔に知っていたが。」
信長はそう言うと、ゴロンと床の上に仰向けに寝転んだ。背中の床は、とんでもなく冷たい。しかしその冷たさが、信長の煮え切った頭を冷ましてくれるようだった。
「殿?」
暫くすると、天井しか見えていなかった信長の視界に、見慣れた女の顔が映った。帰蝶である。
「一眠りされるのでしたら、床を用意させましょうか?」
帰蝶の細い指が、そっと信長の眉間に触れた。帰蝶はそのまま信長の眉間を撫でる。信長はというと、こそばゆくなって、フッと頬をゆるめた。気持ち良くて眠たくなってくる。
「俺の眉間に皺でも寄っていたか?」
「ええ、それはもう、深くて大きい皺が。」
「そうか。」
「…緒川城の事でございますか?」
「ああ。ああ…、あ!」
帰蝶の声を聞きながら、信長の意識はふと覚醒した。
「なるほどその手があるか!」
帰蝶の顔を見ながら、信長は突然、水野信元を救いに行く為の打開策を思い付いた。
「帰蝶!岳父殿に文を書く。お前も一筆添えてくれ!」
さて、それから二日が経って、信長の苛立ちは最高潮に達していた。
道山宛の文には、「出兵の為、城を空けるので、留守居の軍を貸して欲しい」という旨を書いてある。尾張の他の城から兵を借りるより、道山の方が余程信用が出来ると、信長は判断したのだ。加えて今川が勢力を伸ばす事を、道山も良しとはしていない筈だ。断られる可能性も低いように、信長には思えた。そしてその文を、道山と直接面識のある前田利家に持たせ、数人の共をつけて稲葉山城へと送り出した。
実は信長、道山に留守居の兵を頼むにあたり、帰蝶以外の誰に相談することなく、事を運んだ。
信長は自ら筆をとると、半刻もしないうちに利家を呼び付け、ろくな説明もしないまま文だけを持たせて発たせたのだった。
利家の良いところは、その単純なところだ。利家はただ嬉しそうに文を懐に仕舞い込むと、ほとんど手ぶらの状態で美濃へと駆け出していってしまった。それを慌てて、共を命じられた者達が支度をし、後から追いかけていく有様だが、そのくらいで丁度良い。
利家の事はそれで良い。では何が信長を苛立たせているのかというと、その事を説明した他の家臣達の反応についてだった。
「殿!そのような大事を、我らに黙って行うなど…、」
「だいたいあの斎藤道山殿ですぞ!濃姫様が殿に嫁いでいるとはいえ、油断ならぬ方でございましょう。それをこの那古野城の留守居に使うなど…、」
「何故信行様にお頼りにならないのか…!」
反論はされるだろうとは思っていたが、まさか信行に頼れと言い出す阿呆がいるとは、信長は思ってもみなかった。
「秀貞、美作…お前らは阿呆か。」
信長がそう言って睨めつけたのは、家老の林秀貞と、その弟の美作である。
信長に阿呆呼ばわりされた秀貞は、顔を顰めると信長に真っ向から反論した。
「だいたい他国の軍に居留守を任せるなど…、」
グチグチと信長に異を唱えられるその胆力は認めるところであるが、秀貞の場合、状況が読めていないのだ。ただ単に、昔から「うつけ」と呼ばれる信長の意見に、素直に従うことが出来ない。自分の意見こそが正しく定石に則っており、そこから逸脱する非常識な信長を諌めなければならないと、もはや信長からすれば謎の義務感でもって、信長の考えを否定する。そこに秀貞自らが考え抜いた意見や思考は無い訳なので、結果として信長は、秀貞の諫言を聞き入れる事は無い。
それにもとより、秀貞は弟の美作と共に、信行に心を寄せている気がある。留守居に信行をと望むのも、その為だろう。つまりは信行に、活躍の機会を与えたいのだ。
信長はざわつく家臣達を黙らせるため、一度ドンッと床を拳で殴り付けた。狙い通り静まった彼らを眺めながら、信長は余計に苛立ちが募り、結局それ以上何も言わないまま、軍議の場を後にした。
後から聞けば、林兄弟は信長のいなくなった軍議を、そつなく纏めて場をお開きとしたらしい。一応は信長の意向に添った形で、戦支度を進めるよう他の家臣達に言い付けたという。
しかし林兄弟は結局、信長に従軍しなかった。
荒子城に閉じ籠もって、留守居の斎藤軍を見張ると言い出したのだ。
「まったく…救いようのない阿呆共だな。」
林の兵など、せいぜい三百。恐らく道山はそれ以上の兵を送ってくるだろうから、道山の兵とぶつかって敵うはずもない。
そんな訳でこの二日間、信長は苛立っていたのだ。しかし今回は、林兄弟の茶番に付き合っている暇はない。だから咎めもせずに捨て置く事にした。
しかしこれは、将来起こりうる戦の予兆…とも言えた。
つまるところ信長の家老、林秀貞は遠回しに、「信長にはついていけない」と宣言したことになる。本人にそこまでの気はなかったのかもしれないが、信長が林兄弟を見限るのには十分な動きだった。
「いずれは堂々と信行の元に…だろうな。まったく、国内でゴタついている場合ではないのだが、それが解らん馬鹿ばかりで困る。」
しかしその後すぐに、信長の苛立ちも苦悩も吹き飛ばすような報告が、信長の元に届く事となる。
「殿!美濃から軍勢が…、その数、一千程でございます!」
「…はぁ!?」
まだ道山から返答はきていない。利家も戻ってきていない。
それなのに美濃から軍が来ているとは、一体全体どういう事だろうか。
「まさか本当に攻め入る気ではないでしょうな…岳父殿。」
信長は馬に乗って、すぐさま那古野城から飛び出していった。
結論から言うと、信長の心配は杞憂に終わった。
単独で那古野城から馬に乗って走ってきた信長は、暫くすると件の軍勢と行き当たった。確かに道をズラズラと、軍勢がやってきてはいるのだが、先頭の集団を見たところで、信長の表情は緊張から、呆れたものへと変わった。
「おーい、信長サマぁ。きてやったぞー!」
列の先頭でブンブンと手を振っているのは、どこからどう見ても道山に仕える少女、天だった。その後ろでは、天と同じ年頃のまだ年若い少年達四人が、背の高い青年にじゃれついているのが見える。
「利家!こっちに来い!」
そして少年達に揉みくちゃにされていた青年こそ、信長が道山への使いに出していた利家であった。
利家は信長の怒声にビクリと体を揺らすと、まるで飼い主に呼ばれた犬のように、信長の元に走り寄ってきた。
「殿!ええと、あの…、」
そして利家は、信長を前にして狼狽えた。信長の機嫌が悪い事には気付いているが、何故機嫌が悪いのかがわからないのだろう。
信長ははあと溜息をつくと、腹に力を入れ直して、怒声を発した。
「お前がちゃんと俺の言いつけ通り、岳父殿に会ったのはわかる。話がうまくいったのもな。だがしかしな…利家!話が纏まったのならお前は先に帰ってこんか!俺にすぐさま報告しに来い!それを岳父殿の軍とのんびり戻ってくるなど…。」
信長がそこまで言ってやっと、利家は何を失敗したのか理解したらしい。先までも十分萎縮していたが、今はすっかり落ち込んでしまっている。まるで尻尾の垂れ下がった犬だ。
「まあまあまあ、信長様!そう責めないであげて下さいよ!俺らもまあ、お犬帰らなくていいのかなーとは思いましたけど、道山様が兵の用意を整えるのも早かったんっす。お犬の足じゃあ、どっちにしろ俺らに追いつかれてたっすよ!」
そう執り成しながら、信長と利家の間にぬっと顔を覗かせたのは、すっかり顔馴染みとなってしまった、道山に仕える少年の一人、氷である。
氷の言葉を聞いた利家は、あまりの言われように、カッと頭に血が上ったようだが、信長の手前何も言わずに大人しくしている。
そんな利家に構わず、氷が信長に話し掛け続けた。
「マムシ様からの言伝っす!那古野城の留守居の軍に一千の兵をお預けするとのこと。率いているのは安藤守就様っす!俺らとあんまり馬が合わないんで、今は少し後ろの方にいるんですけど、そのうち挨拶に来ると思いますよ。あと俺ら五人は、信長様の働きぶりを報告するよう言われてますんで、勝手に行動させてもらいます!あ、そういえば信長様、火種と影に会うのは初めてでしたっけ?」
氷はそこまで一気に捲し立てると、信長の返答も待たずに後ろを指し示した。
そこには天と、他に三人の少年達がいた。一人は氷同様、信長と面識のある蒼で、もう二人は初めて見る顔だった。彼らが「火種」と「影」なのだろう。
「…以前、帰蝶の元に現れた者達か。」
二年前だ。信長が天、氷、蒼の三人を、首狩りの下手人として尋問している隙に、帰蝶の元にやって来た童達の名が、確かそうだった筈だ。
「ええ、私が影でございます。こちらが火種。あの節は帰蝶様と楽しくお喋りが出来て…。ええ、歳は皆と同じで十一でございます。私達も道山様にお仕えしておりますが、天達とは違って、小姓働きはしておりません。城にもほとんどおりませんね。こちらの火種は口がきけませんので、ご無礼はどうぞお許し下さいませ。」
そう言って影と名乗った少年は、丁寧に頭を下げた。いや、「淑やかに」という表現の方が合っているかもしれない。顔も女顔で、それに合わせてか、長い髪も女のようにして、先の方だけ結って背中に下ろしている。
声変わりしているので男だとは分かるが、見た目だけだと嫁入り前の娘だ。
「ん。」
そして影の隣で、言葉にならない音を発した少年が、火種らしい。五人の中だと一番背が高く体格も良い。季節に似合わず日焼けした肌も目立っていた。
「岳父殿の小姓ではないと申すが、普段は何をしておるのだ。」
信長がそう問うと、影がにこりと微笑んだ。
「時には百姓の子に成り済まし、時には商人の子を演じ、また時には武家の子に紛れ。女の振りをして町を出歩く事もしばしば。私の仕事は道山様の耳となり口となること…とだけ申し上げておきましょう。火種も耳は聞こえますからね…普段は私と似たような事を。」
「ん。」
「…まるで忍のようだな。」
そう言った信長に、影は笑うばかりだった。
信長が現れた事により、美濃の軍勢は一度足を止めていたのだが、暫くすると痺れを切らしたように、天が先頭を歩き始めた。
「ほれ、さっさと行くぞ。あまり立ち止まっていたら、後ろから安藤サマが様子を見に来るじゃろ。顔を合わせたら喧嘩にしかならんのじゃから。」
そう言って信長達を急かした天は、その後なんと鼻歌を歌い出した。未だかつて見た事がないほど上機嫌な天の様子に、信長は思わずギョッとして利家を振り返る。
すると利家も信長の言いたい事がわかったのか、怪訝そうな顔をしながら口を開いた。
「稲葉山城を出た時から、あの調子です。」
どうやら利家は、何故天の機嫌が良いのかは知らないらしい。
そこで信長は、比較的よく喋る氷に視線を遣った。するとそれに気付いた氷が、「天っすか?」と言って話し始めた。
「戦に出られるかもしれないのが、楽しみなんじゃないっすかねえ。」
氷の答えに、信長はムッと顔を顰めた。
「お前達は、戦が嫌いなものとばかり思っていたが。」
確か天は、「戦ばかりのこの世に復讐したい」などと言って、「この世を治める奴の首が欲しい」と抜かしていなかっただろうか。
それにだ。大体おなごの身で、戦場に出て何をする気なのだろう。
しかしそこで信長に答えたのは、氷ではなく、今まで黙っていた蒼だった。
「天さんは別に、戦自体を憎んでいる訳ではありません。戦のせいで困窮して、挙げ句大人達に暴力を振るわれた…その事を腹に据えかねているんです。戦があっても、困窮しない世の中なら、天さんはそれで構わないんだと思います。天さんが嫌いなのは、自分に対する『理不尽』であって、戦ではありませんから。」
「…そういうものか。」
「あくまで天さんにとっては、です。俺は戦が嫌いですから、正直に申し上げて、天さんの感覚はわかりません。」
「…。」
「けど戦で天さんが強いのは確かです。」
そう言った蒼の視線が、信長から、前方を歩く天の背中へと移った。信長もつられて天の後ろ姿をまじまじと見つめる。鎧も着けずに、右腰に鎧通しらしき短刀を差しているだけだ。恐らく逆手で抜いて使うのだろう。
「武器はあれだけか。槍は使えるのか。」
信長がそう問うと、蒼が首を振った。
「天さんが使えるのは短刀だけです。重たいものは使いづらいからと…。槍どころか、太刀も重たいからって嫌がります。」
「…それで殺れるのか?」
信長が半ば呆れたように問うと、今度は横から氷が得意げに答えた。
「勿論っすよ!それこそ敵をバッタバッタと倒しますよ!」
そこで氷は一度口をつぐむと、珍しく言葉を選ぶようにしながら声を潜めた。
「…多分戦に出るのって、天にとっては安心する事なんっすよ、信長様。『自分はこんなに強いんだ。もう誰にも屈しない!』…的な事を証明する手段みたいなものなんっす。自他共にね!だからああやって浮かれてる。」
「…そうか。」
信長は氷の言葉に、短く相槌だけ返すと、後は道中、黙って考え込んでいた。
天の気は知れないが、氷の言葉は、信長の心に刺さった。
「自分の強さを証明する為の戦、いや…戦でしか強さは証明出来ない、か。そしてそれが、他者から支配されない事の証明にもなる。」
信長がぽつりと呟いた。
信長は今まで、戦を巧く避けようとしてきた。尾張国内においても、他国相手においてもだ。それは信長の兵の数が、決して多くはないという、どうしようもない問題があった事も理由だ。しかし氷の話を聞いて、ふと信長は思ったのだ。
ー その分俺は、俺の強さを証明する機会を、失ってきたのではないか…?
考え込む信長は、前を勇みよく歩く天が、ちらとこちらを見た事に気付かなかった。
さて、こうして一月の二十日に尾張へとやってきた美濃の軍勢は、那古野城のほど近く、志賀と田幡の二郷に陣を構えた。そこで信長は大将、安藤守就と初対面する事となる。
この時はまさかこの守就と、今後長い付き合いになるとは思いも寄っていなかった。この時信長が思った事と言えば、守就はどうにも、林秀貞、美作兄弟に似ているという事だった。要は、若輩者や身分の低い者の意見を…受け入れられない。
「まったく、あの者らは一体何を考えているのか…。殿が何故か重用しておりますので、多少の勝手は見逃しておりますが、それにしても私の許可も得ずに那古野城に向かっているなどと…。まったく、あの者らの行儀の悪さと我儘には、目も当てられません。いやはや、誠に申し訳ない。義龍様であれば、あのような子供達など、お近くに置くことはありませんのに…。」
守就の言う「あの者ら」は勿論、天達五人の事だ。
天達は、守就の元に向かう信長には付いていかずに、利家と共に先に那古野城へと行ってしまっていた。どうやら守就の軍には入らずに、信長と共に水野信元の緒川城へと行くつもりらしかった。
そしてその事を、軍の大将である守就に、一言も相談していなかったのだ。
ー しかしまあ、天達の気持ちもわからんではないがなあ。
それが信長の正直な感想だった。
先から天達の行いを恥じる守就の様子を見ていれば、彼らと守就の関係が険悪のはすぐにわかった。仮に天達が、「信長と共に緒川城に行く」と言っても、もしくは「那古野城の居留守に守就の軍と共に残る」と言っても、どちらにせよ守就は嫌な顔をするだろう。嫌味の一つや二つは間違いなく言われる。
つい先日の、信長と林兄弟との諍いと同じだ。あの時は結局、道山に居留守の兵を頼んだ事を、信長は二人を含めた家臣達に事後報告した訳だが、もし事前に相談していたとしても、もし信長の考えが名案だったとしてもだ、林兄弟は揃って顔を顰めて反論したに違いない。何を言ってもどう言っても、林兄弟の反応は結局のところ変わらないのだ。
それは何故か。
信長の事を、「うつけ」だと見下しているからだ。
そしてそれが、この守就にも言える。
守就は天達を、「得体の知れない下賤な子供達」と思っているからこそ、天達の行動を頭ごなしに否定するのだ。
そしてこの守就は、どうやら主君である筈の道山にも、思うところがあるらしい。噂に聞き及んではいたが、道山とその息子、義龍の仲はあまり良くないという。斎藤家の家臣も、どうやら道山派と義龍派に分かれているようだ。まだ派手な衝突には至っていないのだろうが、不穏は燻っているのだろう。守就の言葉一つをとっても、それが伝わってくる。
「岳父殿には、本当に感謝している。」
そこまで考えると信長は、守就の話を断ち切るようにして、話とは脈絡のない事を呟いた。
家中に火種を抱えているのは、何も信長だけではないのだ。道山とて同じ。そしてそんな中でも道山は、迅速に兵を手配してくれたのだ。
勝手に不貞腐れて城に引き篭もった林兄弟とは、随分な違いである。
「天達の事はご案じなされるな。この信長が責任をもって、預からせてもらいましょう。」
そして信長は、恐らくは守就が期待していなかった挨拶を残して、さっさと那古野城へと引き上げていった。
さて、「責任をもって預かる」と言ったものの、信長は眼前の光景に、今すぐ天達を那古野城から追い出したい気分になっていた。
もうすっかり日も暮れた頃である。明日、那古野城を発つ事を決めた信長は、早々に軍議もお開きにして、家臣達を下がらせていたのだが、帰るところのない天達が、軍議をしていた部屋に来て、ゴロゴロと寛いでいたのだ。
寛いでいるだけならまだいい。なんならこのまま床の上で雑魚寝でもしてくれたら、布団も貸さずに済むので大助かりだ。
しかしながら彼らは、休むどころか、何故か言い争いを始めてしまっていた。
「だから言うとるじゃろ!儂は絶対、信長サマについて戦に出るんじゃ!」
そう天が何度目になるか分からない怒鳴り声を上げると、次は氷が口を開いた。
「はいはーい!俺も信長様と一緒に行くから!相手は今川の兵だろ?面白そうじゃん?」
すると今度は、蒼が静かに主張する。
「天さんが行くところに俺も行きます。だから譲れません。」
「もう!」
ここで蒼の言葉に被せるようにして、影が苛立たしげに声を上げた。
「三人とも我儘言わない!道山様に言われてるでしょ?那古野城とその周辺の動きを逐一報告するようにって。毎日だよ毎日!少なくとも二人はこっちに残らないと!信長様が出て行ってる時が好機なんだよ、色々探るさあ。それなのに皆して信長様に付いていったら意味ないじゃん。ちなみに私も緒川城に行きたいですー。」
「ん!ん!」
そして言葉の発せない火種も、何かを必死に訴えているようだった。恐らくは、「緒川城に自分も行きたい」なのだろう。
かれこれこんな口喧嘩を、信長の前で半刻は続けている。
内容も内容だが、とにかく誰も譲るという事をしない。信長はもはや呆れるを通り越して、不毛な言い争いに苛立ちを募らせていた。
それでも信長は、彼らを怒鳴りつけずに、黙って眺めていた。それはひとえに、
「ふふっ。ああ、可笑しい。見ていて飽きませんね、殿。」
そう、信長の隣に、帰蝶が座っていたからだ。
天達しかいない事を良い事に、帰蝶は信長の肩にもたれかかるようにして座っており、その体温を感じながら、信長はすっかりのぼせていたという訳だ。それも心底楽しそうに帰蝶が笑うものだから、信長は子供達の言い争いを、無闇に止める訳にもいかなかった。
しかしこの調子では、本当に夜が更ける。
天達を放って置く手もあるのだが、寝かし付けなければ安心して同じ城の中で眠れないという警戒心が、信長にはあった。あろう事か信長の前で、「那古野城の様子を探って道山様に報告する」などと宣っているほどだ。彼らを信用して安眠しろと言う方がどうかしている。
「…全員で俺に付いてくれば良いのではないか。」
信長が諦めたようにそう意見するも、氷の「それじゃあマムシ様に怒られる!」という叫びにより、話はまた平行線を辿っていた。
いよいよ信長が欠伸を噛み締めていると、隣でそろりと声を上げたのは帰蝶だった。
「殿、殿。紙と墨はまだございますか?」
帰蝶の問い掛けに、信長が内心首を傾げながらも頷く。そしてそれらを用意してやると、帰蝶が天達を呼んだ。
「さあ、ここで『軍議』を開いてごらんなさい。人には適材適所というものがあります。此度の戦について話し合っているうちに、自ずとそれぞれがやるべき事はわかるでしょう。我が父のもとで働いているのですから、そのくらいは仕込まれていますね?」
帰蝶の言葉に、それぞれ自由に寛いでいた天達五人が、パッと帰蝶の前に集合した。帰蝶から紙を受け取ると、それを床に広げ、五人で取り囲んだ。勿論紙は白紙なので、そこから何かを読み取る事は出来ない。
そんな中、いの一番に声を上げたのは氷だった。
「ええっと、今回信長様に助けを求めてるのは、知多半島、緒川城の水野信元様で、今川はこの緒川城を押さえたい訳だ。だけど一気に攻め取る気はなさそうで、むしろ信元様の方から降伏してくれたら、今川にとっては一番理想的…。ってことは現状、今川は信元様に脅しをかけている途中。っすよね、信長様?」
「ああ、そうだ。緒川城の北、目と鼻の先にある村木というところに、今川は城を築きおったわ。信元殿にとっては目障り極まりないだろうな。」
信長の言葉に、氷が頷く。すると次は、影が信長に問い掛けた。
「信長様、その村木城の造りはわかっているのですか?」
「ああ。実際に見てみないと正確なところは分からんが、信元殿の使者の話だと、かなり堅固な城らしい。東側が大手口、西側が搦手口、南側が大きな空堀になっていて、北側は断崖絶壁…ここから攻める事は出来んだろうな。」
「敵の数は?」
「使者の話だと、二千だ。ちなみにこちらは俺の兵が八百、叔父の信光率いる守山衆が千、信元殿の兵も恐らく千人くらいだろうな。」
なるほど、と影が頷いた。そして「あーあー」と何故か大仰な溜息をつきながら、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
「なるほどなるほど。そこまで調べがついているなら、今回私の出番は無さそうだ…。しょうがない、大人しくこっちに残って、守就様の機嫌を伺いながら、道山様への報告もこなしてみせますよっと。あーあー、つまらないなあ。…もう寝るから!」
そしてそのまま、誰の返事も聞かずに、影はすとんと眠りに落ちた。床に大の字になって、気持ちよさげに寝息を立て始める。
そんな影を見ながら、天が嬉しそうにニヤリと口角を上げた。
「影は諦めたようじゃな。よし、あと一人、居残る者を決めたら、あとは戦の為に寝るばかりじゃ。さっさと決めてしまうぞ。」
それに他の三人も頷くと、引き続き氷が、彼らの「軍議」とやらを進行していく。
「それじゃあ、実際にどう攻めるかだな。定石で言えばこの兵力差だと…ジワジワと兵糧攻めにするべきだろうなあ。力攻めするには心許ない兵力差だし。」
「ええ。力で押し切るには、敵の兵の三倍は、こちらの兵が欲しいところです。しかしながら…のんびり兵糧攻めなどしている余裕もないでしょう。道山様にも、恐れながら信長様にも。」
氷に続けて、蒼がそう目敏くも発言した。確かにその通りだ。いくら道山の兵が留守居にいるとはいえ、那古野城を長く離れている訳にもいかない。道山とて、いつまでも尾張に兵を出しっぱなし、という訳にはいかないだろう。
それに時が掛かれば、今川が後詰の兵を送ってくる可能性もある。そうなれば、僅かに勝るこちらの兵力差も、おいおいひっくり返されるかもしれない。
「そんなら兵糧攻めは無しじゃ!だいたいまどろっこしいのよ。北側以外の三方から攻め入れば良いだけの話じゃろ。」
ここで大声を上げたのは天だった。天は氷に目配せすると、未だ白紙のままの紙を指差した。
氷はすぐさま天の意図を察したようで、筆ですらすらと紙に何かを書きつけ始める。
信長は立ち上がると、氷の丁度真後ろに立って、紙を覗き込んだ。紙の真ん中には、「村木城」と書かれた円が一つあり、その上下には「北、南」、その左右には「東、西」と書きつけてある。
氷は続けて、せっかく書いた「北」の字を、上から躊躇なく塗り潰した。
「天の言う通り、北側は放置でいいだろうな。その日中に落とせない攻め口を攻める必要は、今回の戦では無い訳だし。」
「しかしどうしますか?大手口と搦手口には勿論、兵を向けるとしても…南側は大きな空堀があるのでしょう?ここも捨て置きますか?東西の二方から攻め入れば、兵力もあまり分散せずに済みますけど。」
「いや…、」
そう蒼が意見したが、氷は頷かなかった。氷は少しだけ一人で考え込むと、暫くしてパッと信長を振り返った。正確に言えば、信長は氷の頭頂部を見下ろすように立っていた訳なので、氷は首をうんと後ろに倒して、信長を仰ぎ見ている体勢だ。
「今回の戦には、鉄砲持って行くんっすか?」
そう問い掛けた氷に、信長は氷を真下に見下ろしながら答えた。
「ああ。実戦で大々的に導入するのは初めてになるがな。村木城に籠もる今川軍を散々驚かせてやるつもりだ。」
信長の言葉に、氷は「良いっすねえ」と頷くと、ニヤニヤと笑いながら、紙面の「南」の字を指差した。
「だったら南側を無視するのは勿体ない。確かに空堀を越えて城に攻め入るのは大変だし、堀を登っている間の死者も凄いことになると思う。だけどやれない事もない…、城に辿り着く前から、効果的な攻撃を叩き込み続ければいい話だ。」
「それで鉄砲か。まあ弓矢じゃあ、どれだけ頑張っても破壊力はないからな。」
「そゆことなんだよ、天!ただまあ、俺も鉄砲の集団戦って見た事がないし、使い勝手もよくわからないから、行きあたりばったりになる気はするけど、試す価値はあると思、」
「ん!ん!ん!ん!」
信長が氷の話を感心しながら聞いていると、突然、言葉にならない声が、氷の話を遮った。何度も繰り返される音は、火種の喉から絞り出されているらしい。
何かを必死に訴えている火種の代わりに、口を開いたのは蒼だった。
「…南側の軍には自分を入れろと、火種さんは言いたいのでしょう。俺も異存はありませんが。」
蒼の代弁に、火種が大きく頷いている。
信長が、「説明しろ」という意を込めて、足元にいる氷の背を膝で小突くと、氷が再度信長を仰ぎ見た。
「火種はっすね、根来から流れてきたんっすよ。信長様も聞いたことはあるでしょ?根来と言えば鉄砲だ。あそこの人間は誰よりも早く、鉄砲の鍛錬を始めた傭兵集団です。まだ多くの大名は、鉄砲の威力を体感した事がないから、根来衆の価値に気付いていないけど、信長様ならわかるっしょ?あと数年すれば、根来衆は戦に引っ張りだこになる。」
「火種はなあ、それこそ生まれた時から、鉄砲が側にある生活をしておったんじゃ。鉄砲も重いから儂は使いたくないが、火種の技を見るのは面白い。信長サマも驚くぞ?」
氷と天の言葉に、信長はほう、と相槌をうった。口の聞けない火種という少年に、俄然興味が出てきたのだ。
氷は広げた紙の上の「南」の字の真下に「火種」と書き込むと、その隣に「信長軍」という文字を並べた。
「南側に充てるのは、信長様の馬廻り衆と兵が良いだろうな。鉄砲隊の指揮は、信光様にも信元様にも無理だろうし。うーん、だからと言って、鉄砲だけを頼みにしてたら、信長様の馬廻り衆は堪らないよなあ。なにせ一番攻めにくいのに、殺されやすい鬼門が、村木城の南側な訳だから。それにだいたい、この戦は元を正せば水野家と今川家の戦だ。だったら矢面に立たせるのは…信元様の軍じゃないと。」
そう言って氷は、紙面、東の大手口の辺りに、「水野軍」と書き込んだ。
「信元様には表口から攻めてもらう。まあ信元様もそのつもりだとは思うけど。だけどただ攻めさせるだけじゃあ駄目だ。散々働いてもらわないと。信元様と、それと西の搦手口には信光様の守山衆、この二人の軍には、『囮』になってもらう。」
そして西の搦手口に「守山衆」と書いた氷が、背後から紙面を覗き込んでいた信長に顔を上げた。
「信長様、信長様と馬廻り衆、特に鉄砲隊は、開戦から間をおいて、動き始めた方が良いっすよ。出来れば最初は、南側の空堀に織田軍は構いませんよー、って村木城の連中を騙すくらいで丁度良いと思います。」
「…ははっ、氷は悪いことを考えるのう!つまりは村木城の兵の多くを、大手口の信元様と、搦手口の信光様に押し付けようってわけじゃな!そんで手薄になった南側で、信長サマは良いとこどりじゃ!ははっ!」
氷の提案に、信長が何か返事を寄越す前に、天が心底楽しげに笑い出した。しかしそんな天とは裏腹に、氷の表情は決して楽観的ではない。
「どうだろうな…その空堀を実際に見てみないと何とも言えないし、鉄砲だってちゃんと戦で使い物になるかと言われると…正直に言ってわからない。何もかも巧くいかなかったら、信長様の馬廻り衆は全滅だろうね。なにせ空堀に一旦降りてしまったら、信長様の兵は自由には動けなくなる。村木城からしてみれば、格好の的になりにきた阿呆共だ。だからこそ遠方から、鉄砲隊の助けがいる。」
そう言って考え込むように紙面の村木城図を睨みつけていた氷の頭を、信長は勢いよくパシッと叩いた。
「誰も俺の軍の心配までしろとは頼んでおらんわ!これはお前達のうちの誰が戦に出るのか決める…いわば『真似ごと軍議』であろうが!俺がお前らの案に乗るとはそもそも言っておらん。とにかく話を先に進めんか!」
氷の指摘は正しい。しかし信長とて、鉄砲を持っていく上で、何の策も立てていない訳ではない。
信長に叱られた氷は、「これはすみません!」と調子良く謝った。その上で氷は、自身を見下ろす信長の目を、遠慮なくじぃっと覗き込んだ。
ー だったら信長様、…あんたはどうするの?
氷の視線から、信長は彼の言いたい事を察すると、すぐさま決断した。
「気に入った。氷、お前は俺と来い。せいぜい俺の側で、俺の軍略を見ておるがいい。その生意気ヅラを後悔しろ。」
「ぃよっしゃー!!」
「はぁ!?なんじゃそれは!ずるいぞ!」
「氷さん、そういうのを抜け駆けって言うんですよ!」
氷が信長の言葉に喜びの声を上げたのと、残っていた天と蒼が非難の声を上げるのとが同時だった。
しかし氷は、そんな二人の不平不満など気にも留めずに、スラスラと紙面の南側、「信長軍」の文字の横に、大きな字で「氷」と書き込んでいる。
「くそっ!氷にしてやられた!…蒼!お前が影と一緒にこっちに残れ!儂は絶対戦に行くからな。」
「なっ…。だから言ってるじゃないですか!天さんが戦に出るなら、俺も一緒に行きます!」
「しょうがないじゃろ!あと枠は一つなんじゃから。」
「…っ、ですが、」
天と氷の言い合いに、信長はいい加減決着を付けさせろと、再度氷の背中を膝で小突いた。すると氷は、「わかりましたよ」と言いたげに、頭の後ろで手を組むと、あっさりと二人に告げた。
「今回は天にして欲しい仕事があるから、天が俺と火種と一緒に村木城攻めに向かう。悪いけど蒼は、影と留守番よろしくな。道山様への報告も抜かりなくすること。以上、軍議終了!就寝!」
氷の有無を言わせぬ声に、天は信長が初めて見るような満面の笑みを浮かべ、逆に蒼は酷くがっかりとした表情で項垂れた。
天はそのまま機嫌よく後ろに倒れ込むと、先の影と同様、すぐさま寝息を立て始めた。その横で蒼は不貞腐れたように横向きに寝転び、気付けばいつの間にか火種も寝入っている。
広間で起きているのは、成り行きを静かに見守っていた帰蝶、渦中にいた氷と、そして未だ氷の真後ろに立つ信長の三人だけとなった。
氷は仲間達が寝ても尚、紙面を睨みながら何か考え込んでいたようで、そのうち筆をとると、西の搦手口、「守山衆」と書かれた横に、「天」と書き込んだ。
「…何故『そこ』なのだ。」
信長が低い声で問い掛けると、氷が大真面目な顔をして言った。
「だって信長様、一番怖いのは、身内からの裏切りっしょ?」
氷の言葉に、信長は一度舌打ちすると、短く「そうだな」とだけ答えた。