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ルナリード公爵館


「俺に分かるのは、そ、それだけ……です」


 ルインはルナリード公爵に頭を垂れたまま、どうにか説明を終えた。


神兵(しんへい)のプレイヤーか……面白そうなのが、この国に来たね……ねえ、アカツチ、そう思わない?」


「領民を面白半分に殺されるのは、少々、問題かと?」


 ルナリード公爵は齢四十を超えているにも関わらず、まるで十二、三の少年のような細面を綻ばせる。

 肌は青白く、幽鬼のようで、赤ん坊のようなお包みに包まれて半分、寝転がるように玉座のような車椅子に座っている。

 髪は白髪に覆われているが、それが奇妙に黒い大きな目玉と合わさって、幼く見える。


 しかし、いきなり襲いかかって来るようなプレイヤーの話を面白がれる感性がルナリード公爵の歪さをより際立たせていた。


 それで行くと、ルナリード公爵に話しかけられたアカツチ。初老だが体格も良く、カクシャクとしたタキシード姿の執事長はまともなことを言っている。


「それならば、我ら対魔騎士、訓練ばかりで飽いております。

 巡検を命じていただければ、対処も容易かと思います」


 発言したのは、この場にルインが召し出された時、最初に労いの言葉を掛けた対魔騎士団長コッパーだ。

 今もヘルメットこそないが、対魔用魔導鎧に帯剣を許されているルナリード公爵子飼いの騎士だ。

 酒の飲みすぎか、鎧がはち切れんばかりに膨らんでいるが、これでも騎士団長の地位にある。


「よい、任す」


「はっ、有り難き幸せ……」


「なるべく面白い話を期待するぞ」


「はっ、お任せを……」


 ルナリード公爵館は、街の城壁に守られた中心にさらに城壁で守られた、半ば城のような作りをしている。

 今、ルインたちがいるのは、普段ルナリード公爵が過ごす宴遊館と呼ばれる場所ではなく、城塞になっている月代城の大広間だ。

 ここが謁見の場にもなっている。


「では、男爵、後は任せる」


 ルナリード公爵は車椅子ごとメイドに連れられて去った。

 男爵と呼ばれた男が前に出る。


「城代家老のクロバルである。

 まずは東門番、衛兵長メヒカ、部下を三人も失った罪は重い。しかしながら、狂人に襲われる民を守るため、素早く立ち上がり、凶行を最小限に留めた功績、またそなたの機転により対魔騎士たちが素早く現場に駆け付けられたことにより、功ありと看做す。

 二週間の休暇の後、原隊復帰とする」


「はっ……」


 メヒカは二週間の休暇を得た。ルインは良い薬屋のババアを紹介してやるかと考える。

 そうすれば、一週間で傷は塞がり、残りの一週間は休めるだろう。

 それにしても、対魔騎士が現場に素早く駆け付けられたことが功績として挙げられたが、実際のところ対魔騎士は何もしていない。

 駆け付けてきた時には、全てが終わっていたのだ。

 ただ、これには絡繰りがある。

 対魔騎士たちが出動しておいて、何もしなかったというのは通らない。

 ルナリード公爵の不興を買うのは確実だ。

 なので、表向きは対魔騎士にルインが手伝ってプレイヤーを倒したことになっている。

 この裁定を受け入れることで、メヒカの罪が軽くなると言われれば、ルインは受け入れざるを得ない。

 ブレイクは異を唱えたかったようだが、ルインが頼み込んだことで、とりあえず口を噤ませることには成功していた。


「続いて、金器の冒険者、ルイン。

 神兵(しんへい)なるプレイヤーの話、公爵様はなかなかに楽しまれた様子。

 金二百ジンを与える。

 また、街のため狂人を仕留めたは見事なり、冒険者ギルドに功績を伝えておく。以上」


 メヒカ、ルイン、ブレイクの三人は下がらされる。

 メヒカやルインと共に戦ったブレイクには何もなかった。

 対魔騎士の功績を認めなかったことも大きな要因だったかもしれない。


 これでは、腕を斬り落とされ、剣を失っただけだ。

 最初にルナリード公爵に説明した時、ルインはブレイクの剣があったからこそプレイヤーの凶行を止められたのだと力説したが、それは功績として認められなかったということであった。

 プレイヤーが残した物の内、『雷鳴剣』は証拠として取り上げられ、他のよく分からないアイテム類と金はルインの取り分とされていた。


 ブレイクはムスッとした顔のまま、不貞腐れたように去ろうとする。

 だが、それを止めたのはルインだ。

 ルナリード公爵館からの帰りの道すがら、ルインが話し始める。


「ブレイク。この金はお前のだ。持っていってくれ!」


 ルインはもらったばかりの二百ジンに、モルガの落とした五百ジンを足して、ブレイクに突き出す。


「同情してんのか?

 俺が、剣とそれを振るう腕を失くしたから?」


「剣は済まなかった。ああするしか生き残れる道がなかった。

 それの詫びと、お前の剣があったからこそ、俺は戦えた。

 それの感謝の金だよ」


 ブレイクは、ルインの出した金袋をふんだくるように掴んだ。


「落ちたもんだよ、俺は……魔物が狩れねえ冒険者に助けられてよぉ……同情の金を恵まれるたぁな……」


「ブレイク、その言い方はないんじゃ……」


 見かねたメヒカがブレイクに物申そうかとするのを、ルインが止めた。


「いいんだ。俺は他の冒険者から何を言われても仕方のない生き方をしてる。

 それに、魔物が怖くて街の外に出られないのは事実だ……」


「はんっ……片腕を失くした冒険者に何を言われたところで、堪えないだろうさ……。

 この金はもらってやる。

 お前は同情の金かもしれんがな。俺にとっちゃ侮辱に対する迷惑料だ。

 次は金じゃ済まねえからな!」


 そう言ってブレイクはルインたちと違う道を選んで行ってしまう。


「片腕を失って辛いのは分かるが、何故、アイツはルインに当たる?

 馬鹿がっ……」


 メヒカはそう憤っていたが、ルインは何も答えられなかった。

 空を見上げれば夕暮れ時で、空は赤赤と燃えていたのだった。




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