南門
「そりゃ確かに装備は、俺的最高ランクになったが、そこはオススメしないぜ」
ルインがドウマンの装備を見立てて、ドウマンがレベル上げに行くと言うので、南門の前までやって来た時、こんな声が聞こえた。
見れば、鉄器の冒険者シーマイと彼が案内したプレイヤーだ。
「……それで、南にまっすぐだと少し強めのやつがいるんだよな?」
シーマイたちの会話が多少、気にはなったが、ドウマンの声にルインは意識を戻した。
「ああ。南門を出て、そのまま南だ。
東と西は急激に魔物の強さが上がるからな。
まっすぐ行けば砦跡が見える。
その辺りなら、あんたの腕とその装備があれば、問題なく戦えるはずだ」
「オーケー、オーケー。
何から何まですまないな。早くこの新しい手斧の感覚を馴染ませたいからな」
「重さは少し増えたが、その分バランスを調整したから問題なく振るえると思う。
もし、気に入らないようならあの店にもう一度行くか、俺を見つけてくれ。
普段は門前の辺りでふらふらしてるから」
「ああ、今のところ完璧だから、文句はないと思うけどな。
強くなったと錯覚しないように慎重に行ってくるよ」
「ドウマンさんの性格ならすぐに強くなれるよ。
安全マージンをしっかり取れるのは、良い冒険者の資質だからな」
「まあ、臆病なだけなんだけどな。
それじゃあ、案内ありがとう。また何かあったら、よろしく頼むよ!」
「こちらこそ、いい仕事ができた。
ありがとう、いってらっしゃい!」
カマ・ドウマンは自信に満ちた顔で南門を潜っていった。
同じ頃、シーマイとプレイヤーも別れたようだ。
「いきなりその装備を失うことになっても知らねえからな!
俺は止めたぞ!」
「あー、分かった、分かった。
装備とリスポンの更新だけできりゃ、もう用はねえ。
去っていいぞ、NPC!」
あまり良い関係性が作れたようには見えなかった。
そのプレイヤーは魔物革の高級鎧と斧槍のポールウェポンに身を固めて、南門を潜っていった。
装備としては良い物だが、どちらも癖が強い装備だ。
ある程度、扱いに慣れが必要な物で、プレイヤーの基本的な装備、新品の動きやすい革鎧と片手武器から随分とかけ離れた格好になっていた。
あまり大丈夫そうではない会話に不安を覚えるが、案内人同士で口出しするのは、喧嘩を売っているようなものだ。
ルインは小さく肩を竦めて、別の旅人を探しに、またふらふらするのだった。
それから四日。
ルインは東門で旅人を見つけることができず、ふらふらと南門にやって来た。
やはり、プレイヤーは減っている。
普通の旅人を案内してもいいが、昼間のこの時間は団体客が多く、ルインを頼るような一人の客は少ない。
今日はもう無理だと判断して、ルインは自分の懐具合と相談しながら飯でも食うかと、踵を返そうとした時に、その事件は起きた。
南門が騒がしくなる。
門に向かって馬が猛烈な勢いで駆けて来る。
「止まれ!」
声を掛ける兵士と、門を閉めようとする兵士がいて、馬はギリギリでスピードを落とすが間に合いそうにない。
だが、その落ちたスピードの直後、馬から落馬同然で子供が落ちた。
「お、おい、大丈夫か!」
門を閉めようとした兵士も思わず手が止まる。
馬はギリギリで勝手にカーブを描くように、門への激突を避けて止まる。
子供が痛みに呻きながらも手を伸ばすようにして訴えた。
「軍を……ううっ……鎮めの森の封印が……」
何事かと南門に集まる人々の中、ルインは確かにその声を聞いた。
兵士を押し退けて、ルインが子供に近づく。
「お、おい、勝手に門から出るな!」
だが、その声が聞こえていないかのように、子供を見てルインはふらふらと寄っていく。
「……ビエット。ビエット、どうした!?」
その子はルインと縁の深い子だった。
鎮めの森の封印を守る一族、三人だけの生き残り。
最も年若いビエットだった。
「おう、案内人。知り合いか?」
兵士と直接的な面識はなくとも、ルインは案内人として知られている。
「ああ、鎮めの森の封印の一族の生き残り、ビエットだ」
「う……ああっ……封印が……虎柄頭のやつに……」
ルインの記憶が蘇る。
四日前、鉄器の冒険者シーマイが案内したプレイヤーはそんな頭をしていなかったか。
だが、犯人探しよりも重大な問題があった。
「おい、まずいぞ。
おそらく鎮めの森の封印が破られた……この子はそれを知らせるために……」
「なんだとっ!
おい、誰か公爵様に知らせを!
各門を閉じるんだ!」
それはほんの三年に満たない危機の記憶だ。
鎮めの森に眠る邪龍アジ・ダハーカ。
無限に魔物を産み増やす魔物の惨劇は、全員の記憶に新しい。
鎮めの森の奥深くから、ここまで馬を飛ばして丸一日。
前回は一週間と保たずに、溢れた魔物が近隣の村々を襲い、軍は遅れをとった。
早急に対処する必要があるのだった。




