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最近、街にプレイヤーという人が来ます。  作者: 月乃 そうま


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ルナリード冒険者ギルド4


 ルインはなんとか帰って来ることが

できた。

 魔物の素材を買い上げる受付は、ギルドの裏手にあるので、そこに捌いた素材を持ち込む。

 華やかな表口と違い、裏口は数多の魔物の血や臓物で汚れている。

 ルインは本来ならば忌避したくなるような異臭の溜まり場で、その匂いに懐かしさすら感じていた。


 水場を借りて、素材についた泥や血を洗い流す。

 別に査定は変わらないが、心証は良くなる。

 魔物を捌く職人たちと懇意にしておいて悪いことはない。

 これは長年の冒険者生活で覚えた心得のようなものだ。


 依頼の書かれた羊皮紙と持ち込んだ素材を受付に出す。

 受付は最近入ったばかりの職人見習いだろうか。

 十七、八歳ぐらいの若者が半分寝ながら受付をしている。

 どさり、とした音に若者が跳ねるように目を覚ました。


「はい、寝てません!」


 魔物の素材を扱うのは想像以上に力が必要な上、毒腺に触れないなどの繊細さも要求される仕事だ。

 この世界では十五歳で成人とされているが、ルインが見た記憶にないので、前職が上手く行かずに流れて来た口かもしれない。


「すまない。素材の買取と依頼の確認を頼む」


 若い職人はルインの風体を眺め回す。

 泥塗れ、まともな防具なし、得物はマントに隠れて見えない、歳は二十七、八に見えるが、冒険者は年齢では判断できない。

 ちら、と手元の羊皮紙を確認すると、新人冒険者が受ける、角ネズミ退治の依頼だ。

 髭が伸びている訳でもなく、物腰も穏やか、つい昨日まで街暮らしだったのではないかと思わせる細面。


「なんだよ、ビビらせるなよ!

 ……ったく、親方かと思ったじゃないか。

 初心者なら、初心者らしくしろよな……」


 不満そうに若い職人は文句を零した。


 この若者も五年もすればいっぱしの職人になるだろう。

 ルインはなるべく穏やかに接する。


「悪いな。だが、臓物系は鮮度が落ちるのが早い。

 寝かせてやりたいが、親方に怒られる方がキツいんじゃないかと思ってな」


「あ、ああ……まぁ……」


「おい、新人! 何をダラダラやってやがんだ!」


 言った途端に親方職人から雷が落ちた。


「はぃいっ! 今、やってます!」


「てめぇ、受付は休憩じゃ……悪食っ!」


 親方職人がついでに拳骨のひとつも落とそうかと近づいたところで、ルインに気がついた。


「親方、久しぶりだな……」


「お前、戻ったのか!?」


「リハビリ中なんだ」


「親方、お知り合いで?」


 若い職人が聞く。


「はぁ……これだから若ぇやつは……。

 いいか、コイツは金器の悪食。

 伝説の龍牙者のただ一人の生き残りだよ。

 それくらい覚えとけ!」


 ごいんっ! と鈍い音がして、結果的に拳骨が落ちる。


「痛あーっ!

 でも、初心者が受けるような角ネズミの依頼ですよ?」


「ああっ!」


 親方職人がまたもや拳骨を振り上げる。

 それを止めるようにルインは言葉を継いだ。


「親方、この新人は見る目があるよ。

 ちゃんと依頼と風体を確認して、俺がどの程度なのかを測ってる。

 まあ、俺にブランクがあり過ぎるせいで、勘違いをさせてしまったが……」


「ふん、庇う必要なんざねえよ。

 コイツは商家の三男坊の穀潰しでな。

 今まで碌に働かないで生きてきたから、根性がねえ。

 商家の親父が知り合いだから預かったがな。

 いつまで保つか、分かったもんじゃねえ……」


「そりゃねえよ、親方……」


「商家の出か。

 それなら査定も安心して任せられるな」


 そう言って、ルインは持って来た素材を若い職人の方へ押しやった。

 若い職人は働き始める。


 親方は、新人の躾を置いて、ルインと話すことにしたようだ。


「それで、悪食。

 心が砕けて、外に出られなくなったって聞いたが?」


 二年と少し、顔を見ない間に噂はそれなりに広まっていたようだ。


「ああ、恥ずかしながら本当だ……」


「なんとかなったってことか?」


「いや、散々だった。

 角ネズミを見て、足の震えが止まらなかったよ。

 逃げるのに転げまわって、マントも泥だらけだ。

 ……だが、やらなきゃならないことができた」


「やらなきゃならないこと?」


「ブレイクって銀器の冒険者は分かるか?」


「ああ、金器までもう少しとか、いつもほざいてたな」


「鬼道に堕ちた……」


「なっ……」


 親方もギルドの一員だ。意味するところは分かるのだろう。


「たぶん、俺のせいだ……」


 ルインは掻い摘んで事情を話す。

 問題だったのは、ルインがブレイクの腕を守れなかったことにあると、ルインは考えていた。

 話を聞いた親方は、首を捻る。


「おめぇ、そりゃ違うんじゃねえか?」


「だが、神兵しんへいが暴挙に出た瞬間、俺はその場にいた。

 ブレイクが逆恨みしたとしても、不思議はないだろう?」


「おいおい、自惚れは昔から変わんねぇな。

 確かにブレイクの逆恨みはそうだろうと思うが、奴だって、腕を斬られたのが自分のせいだってことくらいは理解しているはずだぜ。

 それよりも、問題は、悪食、お前の態度だよ。

 ブレイクからしたら、お前はもう冒険者として終わってたんだ。

 そいつに助けられた上、お貴族様の前で庇われたんじゃ、ブレイクのプライドはズタズタだったろうぜ。

 その上、施しまで受けたとあっちゃ、もう救われねえ……。

 だが、勘違いすんなよ。

 悪いのはブレイクだ。これだけは間違いじゃねえ。

 勝手に悪食は終わりだと勘違いして、勝手にプライドを傷つけられたと勘違いして、勝手に馬鹿にされたと勘違いした。

 ブレイクは大馬鹿野郎だな……。

 まあ、おかげで悪食はようやく足掻く気になったんだ。

 俺らギルドからしたら、万々歳だけどな」


「俺は余計なことをしたのか……?」


「いんや。ブレイクの腕を守ってやれたはずだ、なんてのは自惚れもいいとこだけどな。

 命を救ってやって、お貴族様からのお咎めを減らしてやって、これからの人生のために金を恵んでやったんだろ。

 別に悪いこっちゃねえよ。

 しいて言うなら、相手が悪かったくらいか……」


「だが、そのせいで鬼道に堕ちたんだ。

 なんとかしなきゃな……」


「ふん、お優しいこった。

 まあ、ブレイクの腕は知ってる。

 止められるのは、やっぱり、お前だろうさ……」


 ルインは改めてブレイクを止めなくてはならないと、心を新たにするのだった。



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