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城門


 今日も今日とて、ルインはふらふらと街をうろついている。


 ルナリードの街は北は入江、東と南は巨大な城壁で囲われ、西は山に面しているため柵が設けられている。

 プレイヤーがやって来るのは東のハジュマーリュ伯爵領からだ。


 ルインは東の城門近くをふらふらする。

 言ってしまえば、プレイヤーは騙しやすい。

 但し、危険も多い。それと、不思議で興味深い存在だ。

 日に日にプレイヤーは人数が増えていく。

 皆一様に、染色したような髪色や瞳をしていて、傷や汚れがほとんどない綺麗な装備をしている。

 そして、何故かルインがこの世界の常識だと思っているようなことに疎い。

 さらに、おそらくプレイヤーにしか分からない常識のようなものが存在している。

 それが、危険で、不思議なプレイヤーという人々に共通した根源のような何かだ。


 ルインはプレイヤーを騙してやろうなんてことは、ちょっぴりしか思っていない。

 そのちょっぴりがルインの日々の糧に繋がっているからしょうがないのだ。

 それでも、ルインの案内に感謝してくれる旅人もいる。

 それから、街の住人たちはルインに感謝している部分もある。

 旅人の望みを聞いて、適材適所に振り分けるのがルインの仕事だ。

 ルインが案内することで、避けられるトラブルが沢山あるのだ。

 その点で言えば、ルインは誠実に働いている。

 ぼったくって問題なさそうな旅人は、ぼったくりの店へ。

 困っている旅人は然るべき所へ。

 人を見る目がないと、案内人はやっていられない。


 そして、ルインはプレイヤーを見極めるべく、東の城門前をうろつくのだった。


「おい、ルイン。最近、良く来るな」


 近くの屋台を冷やかしていたルインを呼び止めたのは門番をやっている衛兵のメヒカだ。

 歳は四十を超えた、長年門番一筋の名うての衛兵だ。

 傷だらけの鎧はメンテナンスに出す暇がないほど朝から晩まで門前に立ち続けた勲章みたいなものだ。


「ええ、プレイヤーさんたちはいい飯の種になりそうですから」


「ああ、最近増えてるな……なんだか怪しいやつらだが、王国発行の通行証を盾にされると、厳しく詮議する訳にもいかなくてな……」


「クラウドオーバーシャインのお墨付きですか……」


 王都クラウドオーバーシャインの通行証は王国内の自由な通行を許可するもので、王令通行証の次に権威の高い通行証だ。

 簡単な所持品検査はするが、魔力探知や精神探査のアイテムによる検査が免除される上、通行税もかからない貴族御用達の通行証と言える。


「ああ、しかもかなり重い【魔術書(グリモワール)】を持っているやつもいる。

 これじゃあ、密輸し放題で、禁制品の取り締まりも厳しくてな……」


 『魔術書(グリモワール)』の中には、アイテムボックスというページの中にアイテムを入れてしまう契約魔法というのもある。

 そうなると、表面的に持っている物が全てではなくなってしまうが、一介の魔法使いでもない衛兵に中身が読めるはずもなく、実質、所持品検査もあってないようなものだ。


「たぶんなんだが……プレイヤーってやつらは全員が【魔術書(グリモワール)】を掛けられているんじゃないか?」


 ルインは今まで会ったプレイヤーの類似性からそう判断する。


「全員!? 勘弁してくれ……貴族でもないのに貴族待遇で、その上、全員が契約魔法持ちだって!

 この国で何が起こるって言うんだ……」


 メヒカは頭を抱える。


「前に俺が案内したヴァニラってプレイヤーは『災厄を取り除くゲームをしている』と言っていた。

 それが本当なら、契約魔法を掛けられていてもおかしくないだろうさ。

 それよりも、プレイヤーってのは貴族じゃないのか?」


 災厄。この世界には幾つもの『災厄』と呼ばれる存在がいる。

 例えば『天を割る龍神』であったり、『山砕く雷鳴神』であったり、『荒ぶる海の蛇神』などといった存在だ。

 神と呼んでいるが、それは魂鎮(たましず)めのための尊称であり、この世界で祀られるアマティーラやスーサといった神とは似て非なるものと言える。

 それらを取り除けるのならば、それは勇者と呼ばれるような運命に決定付けられた者だろう。


「ああ、確認したが、今まで貴族の紋章を持つ人物は一人もいなかった。

 貴族なら紋章指輪を持つのが決まりだからな」


 貴族の身分証明、それが紋章指輪だ。

 封蝋に押しつけて、手紙の内容を保証したりするのに使われる。

 子供でも貴族であれば、紋章指輪をネックレスにしたりして持っている。


 門番をしているメヒカにしてみれば、貴族かそうでないかで対応が変わることもあるので、必ず確認することにしている。

 そのメヒカがプレイヤーは貴族ではないという以上、貴族ではないのだろう。


 ただ、そうなるとあの新品同然の装備品はますます不思議だ。

 全員がハジュマーリュで装備を整えたとでもいうのだろうか。

 ルインたちはまだ、プレイヤーという存在をほぼ理解していないに等しかった。


「まあ、何にしろ問題さえ起きなきゃ、俺も文句を言わずに済むんだがな……」


 メヒカの遠回しな、お前がきちんと見極めろよ、というような言葉に、ルインはバツが悪そうにへらへらと笑って返すしかできない。


 プレイヤーに対して、門番が門番として機能できないから、街の中は任せたぞという意味合いでメヒカは言っていたが、ルインにしてみれば、努力はするが責任は持てない立場だ。


 その結果が、へらへら笑うだった。


 メヒカは他の門番たちが規律を正す様を感じて、仕事のはじまりを知った。


「おっと、お客が来たぞ……」


 そう言い残して、メヒカは門へと向かう。

 それを見て、またルインはへらへらと笑うしかないのだった。



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