鎮めの森
それは二年と少し昔の話です。
当時、ルナリード冒険者ギルドでトップと呼ばれていたのは、龍牙館の五人でした。
頑健なる者デスト、槍奏者ペリス、悪食ルイン、大地の慈愛フォル、最強フィニ。
彼ら、彼女らはルナリード冒険者ギルド内でも十五人しかいない金器の冒険者だけで組んだ最高のパーティーと認識されていました。
龍牙館というのは、その五人が仕事で掻き集めた財宝のひとつ、龍の牙を売って建てた彼ら、彼女らの城です。
冒険者の成功例のひとつとして、他の冒険者たちの羨望を一心に集める豪華な館のことです。
そのことから、当時は龍牙組とか龍牙者などと呼ばれていました。
あの時は、ルナリード南東、鎮めの森の封印が解かれるという事件がありました。
それは、キマイラよりも千年は昔からある封印でした。
中には『邪龍アジ・ダハーカ』が封じられていました。
邪龍は、その身から千もの魔物を生み出す危険な災厄として、永きにわたり封印されていたモノです。
そして、封印から解かれた邪龍は、その名の通り千の魔物を生み出しました。
千の魔物は列をなしてルナリードの街を襲います。
ルナリードの街は騒然となり、騎士と傭兵団と冒険者が必死に街を守りました。
ですが、守るだけでは邪龍の脅威は終わりません。
千の魔物を倒すと、新しい千の魔物が生まれるのです。
そこで、邪龍再封印の依頼が冒険者に託されました。
その依頼を受けたのが、龍牙館の五人だったのです。
戦いは何日も続きました。
朝も昼も夜もなく、戦い、戦い、戦い抜いて、ようやく千の魔物がうず高く積まれた屍の山になった時、邪龍は再封印されました。
皆が歓声に湧く中、ですが龍牙館の五人は帰って来ません。
ギルドは鎮めの森へと人をやりました。
そこで見つかったのが瀕死のルインさんと鎮めの森の守り人村の子供たち数名だけだったのです。
実際に何があったのかは分かりません。
ですが封印は戻り、ルインさん以外の冒険者は戻りませんでした。
それ以降、ルインさんは冒険ができなくなりました。
ギルドは、なんとかルインさんに立ち直ってもらおうと色々と試みましたが、心の傷は癒えることなく、今もルインさんは街中で案内人を続けています。
受付嬢ブリジットの話をまとめると以上だった。
ザビーは俯き、アワツキは沈痛そうに眉間に皺を寄せていた。
「無限湧きで周辺被害を出しまくる敵とか最悪じゃねえか……」
ザビーの脳裏には青い花の咲き乱れるキマイラの草原が広がっていた。
目の前で青い花が咲くたびに、軽い気持ちで解いてしまった封印が重くのしかかって来る気がして、なんとも言えない気持ちになる。
所詮はゲームだが、軽はずみな行動がゲーム内の歴史として続いていき、その影響は後々まで残っていく。
プレイヤー間では英雄と崇められて、鼻を高くしていたが、それどころではないと、ようやく実感が湧いて来ていた。
封印を解いたのが自分たちだとNPCにバレたなら、あの青い花と関わりのあるNPC全てから恨まれるだろう。
それは、ゲームだが、恐ろしいことに思えた。
「ルインさんは、その守り人村の子供たちを守るために戦ったということでしょうか?」
「ええ、おそらく……。
子供たちは、村長の家の蔵に隠れていたそうなので、詳しいことは見ていなかったと聞いています」
「ひどい戦いがあったのだろうことは想像できますが、実際の部分はルインさん本人しか知り得ないということですね」
「はい。でも、そのルインさんも細かい話は語りたがらないですから……」
「分かりました。ありがとうございます」
アワツキは何故か青ざめているザビーを見て、大丈夫ですか、と声を掛けながら出ていこうとする。
そこにブリジットが声を掛けた。
「アワツキさん。おそらくですが、ルインさんは他の四人の死に責任を感じているように思えます。
我々ギルドも、なんとか立ち直ってもらおうとルインさんに接して来ましたが、ダメでした。
ですが、神兵である皆さんになら、心を開く可能性はあると思っています。
どうか、お願いします」
「ありがとうございます。
何かできないか、しっかり考えてみたいと思います」
そう答えてアワツキはザビーを連れて、ギルドを後にするのだった。




