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ハジュマルナ街道


 『ハジュマーリュ』と『ルナリード』を繋ぐ街道は『ハジュマルナ街道』と呼ばれている。

 その街道を進んで、『ルナリード領内』に入った辺りで、旅人は慎重にならなくてはいけない。

 それは、常に狙われることを想定し、名うての冒険者を複数雇っているような大型の乗合馬車でも例外ではない。


 男が一人、道にうずくまっている。

 旅人だろうか。剣の一振りもなく、荷物もない。

 御者が、さては噂の野盗に襲われたかと手綱を引いた。


「どうした?」


 馬で後ろを固めていた冒険者の一人が、前に来て御者に尋ねる。


「人が倒れている。

 噂の野盗にやられたんじゃないか?

 道の真ん中じゃ不憫だろう……」


「一人か……よし、調べてくる」


 鉄器の冒険者は慎重に馬を寄せる。

 蹲る男は動きもなく、死んだと思われる。

 冒険者は、この辺りが危ないと聞いているので、早めに立ち去りたいと考え、この男の身元を探ろうと馬から降りた。

 荷物らしきものもなく、武器も奪われたのか見当たらない。


「血の跡が見えないな……」


 冒険者は、撲殺であればあまり死者の顔を見たくないと思い、また、流れた血がマントの下に隠れているなら、死んでからあまり時間が経っていない証拠になるので、早くこの場を離れるよう御者に指示しなくてはならないと考え、嫌々ながらも男の身体を動かした。


 ズブリ、と嫌な音がして冒険者の背中から刃が飛び出した。


「あ……なん……」


「一人で充分だと思ったか……舐めんじゃねえ……」


 蹲っていた男の右腕は金の作り物で、それは剣のように変形して冒険者を貫いていた。


 崩れ落ちる冒険者をそのままに、蹲っていた男が立ち上がる。

 それを見て御者は、ぶるぶると身体を震わせた。


「さあ! 死にたくなきゃ身ぐるみ全部置いて行くんだな!

 逆らえば殺す!」


「き、き、金の手だぁぁぁっ!」


 御者が手綱を打って馬車を走らせようとした瞬間、野盗の男の金の腕が針のように変形しながら伸びて、御者の喉から脳髄を貫いた。


 後ろから馬に乗った護衛の冒険者たちが五人も出てくる。


「ちいっ! 御者が死んだ。誰か馬車を走らせろ!

 他のやつは金の手を殺すぞ!」


「金の手ね……ははっ、このブレイク様に相応しい呼び名じゃねえか!

 素直に全てを差し出せば生かしてやったんだがな!」


 その男は、元ルナリードの銀器の冒険者だった。

 だが、今は不思議な金の腕を手に入れたことで『金の手』と呼ばれるようになった。

 ルナリードでは求めても求めても手に入らなかった金の称号が、失った腕の代わりにとある場所で手に入れた『精霊の腕(スピリット・アーム)』と共に名付けられる皮肉を無邪気に喜んだ。


 そして、その喜びと共にブレイクは『精霊の腕(スピリット・アーム)』を解放した。


 『精霊の腕』、正しくは『精霊魂装(スピリット・アーム)』と呼ばれるソレは、今では失われたと思われている科学的アプローチの産物であり、それを装着することはとある組織への加入を意味するが、今はそれは重要ではない。


 重要なのは、鉄器の冒険者五人が金の手ブレイクを相手に五対一で負けたことだった。

 馬車を動かす暇もなかった。

 金の腕は、まるで水飴のように柔くなったかと思うと、自在に変形し、一瞬で硬化する。

 剣になり、槍になり、火を吹く上に、ブレイクに人を超えた膂力を与えた。


 全ての冒険者を殺してから、ブレイクは乗客だけになった乗合馬車に大音声でのたまう。


「さあ、全てを置いていけ。

 金も荷物も服も全部だ。不服なら殺してやる。

 まずは俺が十、数える間に出てこい!

 じゅう……きゅう……はち……」


 乗合馬車の扉が慌てたように開かれる。

 ブレイクは野盗らしく、下卑た笑いを浮かべるのだった。



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