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東大通り2


 ルインはいつものように街を、ふらふらと歩くが、おかしい。

 普段ならば、この東門に旅人が現れて、声を掛ける流れだが、今日に限って誰一人、旅人が掴まらない。


 もちろん、南門や北の港に行くという選択肢はあるが、つい昨日、キマイラ討伐が成功したという早馬が届いたところだ。

 こうなれば、プレイヤーがなだれ込んで来るぞ、と気合いを入れて待っているのだが、来ない。


 距離で言えば、夜通し歩けるプレイヤーならば、キマイラ討伐からそのまま向かって来れば、もう着いていてもおかしくない。

 プレイヤーは『ハジュマーリュ』から『ルナリード』へと向かうルートが正攻法だと聞いているので、来ないはずはないんだが、とルインは首を傾げる。


「居たーっ! ルインさん、大変なんです!」


 門とは反対の方向からルインは腕を掴まれ、驚いて振り向くと、そこには黒髪でプレイヤーらしからぬ風体のプレイヤー、アワツキが慌てた様子で立っていた。


「あんたは、アワツキさん?

 起きてたのか?」


 プレイヤーの睡眠、正確には睡眠ではないが、ろぐいん、ろぐあうと、という習性は不思議なものだ。

 この世の肉体から魂を入れたり出したりするすることで、プレイヤーはこちらの世界に干渉してくるのだ。

 プレイヤーが本来生きる時間の一時間が、こちらの世界の一日。

 プレイヤーはこちらの世界で三日なり十日なりを過ごして、三週間や二週間をプレイヤーの世界で過ごすといった生き方をしている。

 それを理解しているルインだが、感覚的にはプレイヤーがろぐあうとしている時は寝ているモノとしておきたいという気持ちから出た言葉だった。

 何しろ、プレイヤーはこちらの世界に居る間は寝食不要、『魔術書(グリモワール)』の呪いによって、異常な成長速度を誇り、死んでも神殿の遺体安置所で復活して、延々と動き続けるのが基本だからだ。


 ただ、アワツキは嗜好品として食事を取ることを趣味にしているし、NPCの人間性に注目するような、少し変わったプレイヤーではある。

 だから、ルインとしてもアワツキのことはより人間に近い存在として見ているというのもある。


「あ、はい、昨日ログインして、近くの魔物を倒してレベル上げをしに、外に出ていたんです」


「ああ、レベル上げか……」


「ええ。って、それどころじゃなくて大変なんです!」


「なにが大変なんだ?」


「ええっとですね……街の外に旅人狩りを名乗る一団が現れたんです!」


「野盗か……」


 ルインは大きくため息を吐いた。

 野盗の類いは少ないながらも、やはり居る。

 しかし、『ハジュマーリュ』から『ルナリード』の間の街道はかなり整備され、その間で野盗が出るのは、滅多にないことではある。

 しかし、なぜアワツキが自分にそのことを報告に来るのか、疑問が残るルインであった。


「ええと……そこの門番に言えば、ある程度の対処はしてくれるはずだ。

 個人的に、なんとかしたいならギルドで依頼を出す手もある……。

 だが、そもそもプレイヤーなら、そこらのゴロツキ風情にやられるほど弱くないだろう?」


「……いえ、そのう……門ではなく、私は今、神殿から来たんです……。

 つまり、殺されまして……」


 アワツキは恥ずかしそうに恐れ入った。


 ルインは考える。

 まさか、この時間に誰一人、東門を通らないのがその野盗のせいだとでも言うのだろうか。

 今までの経験上、この『ルナリードの街』まで来られるのは、ある程度の経験を積んだプレイヤーたちで、技の三つ、四つは持っているのが普通だ。

 普通の人でも街道沿いに出る魔物に対処できる護衛を雇うか、護衛付きの乗合馬車で旅をする。

 正直、はぐれ冒険者や食い詰め兵士が数人で野盗をしたところで、返り討ちに遭うのがオチだ。

 だから、誰一人、旅人が来ないというのは、奇異なことだと言える。


「それで、何故、それを俺に?」


「ええと、プレイヤーの間で噂になってるんです。

 ルナリードの街に武器術を教えてくれる凄腕の達人がいると……なので、その人を紹介してくれないかと思いまして……」


「達人か……何かその達人の特徴は?」


「ええと……片手剣と槍と弓術に長けていて、プレイヤー三人を片手間に倒してしまうような超人らしいです。

 それで、普段はみすぼらしい格好で街をうろついていて、どこか凄い豪邸の使用人らしいんですが……」


「……すまない。そんな達人は心当たりがない。

 これでも、この街のことは九割方、知り尽くしている自負があったんだが……普通、達人と呼ばれるような者は、ひとつの武器を極限まで極めたような者だ。

 そんな、アレコレと違う武器に手を出すような者が、達人の域にいるとは思えないな……言い方は悪いが、そういうのは悪食あくじきと呼ばれて、表に出て来ない奴だろうな……」


 悪食あくじき、他にも死神とか、闇の手など、普通は表に出ない暗殺者や暗器使いに多い。

 ルインが考えるに、貴族のお抱え暗殺者などだろうか。


「そうですか……その方なら、あの金の手も倒せるかと思ったんですが……」


 アワツキは分かりやすく肩を落とした。


「金の手?」


 ルインがその聞き慣れない言葉を聞き返す。


「案内人ー!」「師匠〜!」「先生〜!」


 バタバタと三人のプレイヤーが駆けてくる。

 それは、アワツキが来たのと同じ方向だ。


「大変なんだ!」「むちゃくちゃ強いNPCがいるんだ!」「頼む、助けてくれ!」


 それはカービン、ハイロ、ザビーの三人だ。


「あんたら……かびと灰と錆……ええと、カービン、ハイロ、ザビーだったか……」


「仕事中にすまない。でも大変なんだ!」「街道でプレイヤーを殺しまくってるNPCがいて……」「金色の義手が武器になるんだ!」


 どうやら、アワツキと同じ様に野盗に襲われて神殿でリスポーンして、ここまで走って来たようだった。


「あ、その特徴的な髪色は、もしかしてキマイラキラーズ!」


 アワツキが三人を指差して、驚きに目を丸くしていた。

 三人は慌てて姿勢を正して、格好をつけた。


「あ、ああ、まあ、そう呼ぶやつもいるな……」「うん、そんな自慢できることじゃないけど……」「たまたまだよ。運が良かったんだ……」


 ルインはアワツキと三人組を不思議なものを見るように視線を動かした。

 それから、三人組に聞く。


「キマイラを、倒したのか……?」


 三人組は強く頷いた。それから、カービンが代表して喋る。


「……青い花を植えたんだ。

 なんて言えばいいか分からないけど、夜の森の中が真っ青になった。

 周りの奴らは、すげーとか、キレイとか言ってたけど……。

 俺たちは……何をしたのか……思い知らされた気がしたよ……」


「そうか……」


 ルインは無機質に言った。

 カービンもそれに関しては、「ああ……」と答えただけで、それ以上は言わなかった。

 それは、一般的な反省とは、どうしても乖離があるのかもしれないが、この三人がもし次に禁足地に足を踏み入れたとして、そこのモンスターをイタズラに起こすことはないだろうと思わせた。

 ルインはそれだけで、納得するしかなかった。これ以上を求めるべきとも思わなかったし、それは不可能だろうとも思ったからだ。


「ええと、あの……?」


 アワツキが顔にハテナを浮かべていた。

 そして、ハイロが思い出したように言う。


「そうだ、師匠、大変なんだ!

 こことはじまりの街を繋ぐ街道に、めちゃくちゃ強いNPCが立っててさ!

 俺たちでも全然、歯が立たないんだ!」


「え? 今、最前線組のキマイラキラーズでも勝てないんですか!?」


 アワツキは大きな声を出した。

 だが、それよりもルインは気になることがある。


「師匠? いつ俺が師匠になった?」


「だって、俺らに技を教えてくれたじゃないですか!」


「は!? キマイラキラーズに技を教えたのがルインさん!?

 じゃ、じゃあ、噂の達人ってルインさん!?」


「は?」


 アワツキの言葉に、ルインは目を白黒させるのだった。





遅くなりましたm(_ _)m

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