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禁足地〈キマイラ〉2


 キマイラとの戦いは、長く続いた。

 対魔騎士と冒険者たちは、疲弊しながらも、なんとか持ちこたえていた。

 キマイラと戦うのは日の出ている時間だけだ。

 キマイラは日が落ちると同時に、自身の周りに暗褐色のシールドを張り巡らせて、眠りにつく。

 暗褐色のシールドは全てを拒絶する壁となって立ちはだかった。

 この状態になると、封印の注連縄を、本来、キマイラが封印されていた場所の巨石に巻こうとしても意味がなかった。

 最初は何とかしようとプレイヤーたちもあれこれと試していたが、それらが意味のない行為だと知ると、夜間にレベル上げに走った。

 だが、禁足地とその周囲にいる魔物は少なく、プレイヤーは思うようにレベル上げができない。

 一部では、クソコンテンツと呼ばれていたが、それには理由がある。

 魔物が湧き出す地には瘴気が立ち込めるものだが、その瘴気は全てキマイラへと集中していた。

 朝にはキマイラのHPが一定値、回復するのだ。

 それが分かった時、プレイヤーの一部はこのレイド戦は現状ではクリア不可として、離脱した。

 だが、一週間もすると新しいプレイヤーたちが、また参戦してくる。

 新規に参戦したプレイヤーは状況が分からず、全体の和を乱した。


 結果、一ヶ月だ。

 最前線に行っていたと思われるプレイヤーが、充分なレベルを持って戻って来た時、ようやく場は動き出した。


 彼らがやったことと言えば簡単だ。


「NPCの動きをちゃんと見ろ!」「俺たちも動きを併せるんだ!」「NPCの戦法を真似たらいける!」


 彼らはカービン、ザビー、ハイロの三人だった。既にレベルは二十を超えていて、他のプレイヤーより頭ふたつは抜け出ている。

 また、武器術スキルが上がっているため、少しだけ他のプレイヤーよりも動きが本格的だった。

 そのため、他のプレイヤーからは、一目置かれる存在に見えた。


 『はじまりの街 』から来たプレイヤーたちは、なんとなく耳を傾けるべきなのではないかと感じたのだ。


 ただ三人は、NPCであるルインの強さを目の当たりにしたことによって、少しだけNPCを見る目が変わっていたのと、自分たちの基礎的な動きすらやれていないという弱点を自覚したに過ぎない。

 それでも、他のプレイヤーから見れば、三人はやけに大人びて見え、このゲームの真髄に触れた者たちのように見えたのだ。


「これ、実はNPCの動きがチュートリアルになってるとか?」「ああ、今後のレイド戦で使えるパターンなのかね?」「たしかに組織的な動きしてるよな、NPCって……」


 攻撃力がある冒険者たちが、ヘイトを取って対魔騎士の後ろに隠れることで、防御力のある対魔騎士がキマイラの攻撃を防ぐ。

 注連縄を張る冒険者たちは、デバフ要員に見えなくもない。


 ここにきて、ようやくプレイヤーたちが個ではなく、集団としての動きを真似始めた。

 すると、劇的な変化が起きた。


 ヘイトを取り、下がる。

 攻撃が防御集団へと向く。

 デバフが入る。

 その隙にDPSを出せる者たちが前に出て、またヘイトを取る。

 一度、パターンを理解すれば、命知らずなプレイヤーたちは急激な成長を見せた。


「これが、神兵(しんへい)……」


 ルインからプレイヤー=神兵(しんへい)説を聞かされていたエクスは、その順応性の高さと成長率に驚嘆していた。


 キマイラはNPCの考えるスピードの数倍の早さで傷を負っていく。


「まさか、あのキマイラを倒せるのか……」


 ハジュマーリュの対魔騎士長が、夢でも見ているかのように呟いた。


 夜が迫る中、太陽の残り火で照らされた山のような巨獣キマイラは、封印が完成する前に倒れた。


「これで沈め! 【気発矢(オーラアロー)】!」


 ハイロの放った短矢(クォレル)が光の尾を引いてキマイラの山羊頭に突き立った。


「ン゛ベヘエ゛エ゛エ゛エエエェェェッ……」


 陽が落ちる直前に間に合った最後の一矢が、キマイラの最期の灯火を奪ったのだ。


「た、倒れた……」「勝った……」「終わった……のか……」


 そこにはプレイヤーも冒険者も対魔騎士もなかった。

 奇跡の光も消え、闇色に染まり、影だけになりながら、全員が雄叫びを上げていた。

 誰彼構わず、お互いに抱き合って、勝利を祝っていた。


 後から昇った月がお互いの顔を薄らと浮かび上がらせたが、その時ばかりは全員が戦友だった。


「うおっ、一気にレベルアップだ」「やべえ、めっちゃ稼げる!」「お、新しいスキル生えた!」


 プレイヤーは相変わらずな喜び方で、NPCの理解の外だったが、いち早くNPCたちは動き出して、夜営用の天幕(テント)へと戻るべく、あちらこちらで松明を灯しはじめる。

 そんな中で、対魔騎士長は大きな声で話した。


「プレイヤー諸兄! 貴公らの参戦により、望外の喜びを得ることができた。

 ハジュマーリュの者として、ぜひとも感謝の意を表すると共に、僅かなりとも贈り物を渡したい!

 ご足労だが、我らの天幕まで来ていただきたい!」


「お、金かな?」「おお、いつもの不気味なガキ共じゃないのか」「せめて赤字が埋まるくらい貰えますよーに……」


 プレイヤーたちは対魔騎士長の後をついて行く。




 対魔騎士長は軍資金と、冒険者に残った糧食などを売って確保した金をプレイヤーたちに渡していった。


 彼らプレイヤーは、『ハジュマーリュの街』にいつのまにか現れるのだ。


 彼らが下手な名誉などより、金を喜ぶことを対魔騎士長は知っていた。

 『名誉騎士』などの称号は、プレイヤーにとって価値がないものと見られていた。

 称号に何らかの効果があれば、また、『はじまりの街』でなければ、多少の価値は出たかもしれないが、プレイヤーたちはソレを嫌った。


 こうして、キマイラは封印ではなく討伐された。


 三人の立役者、カービン、ザビー、ハイロは、封印の地に青い花をそっと植えた。

 それが、ルインから課された最後のクエストだったからだ。

 植えた途端に、青い花から光の粒が、ふわふわと浮き上がった。

 地に落ちた光の粒は、新しい青い花となって、また光の粒を飛ばす。


「鎮魂花か……」


 エクスが呟き、黙祷を捧げる。

 全てのそれを見たNPCが同じ様に胸に手を置き、黙祷を捧げた。

 青い花はいつまでも増え続けた。

 辺り一面に広がった青い花は、死者の数だけ、想いの数だけ増えていく。


 プレイヤーたちは、それを美しい光景として喜んだ。

 ただ、カービン、ザビー、ハイロの三人だけは、何とも言えずにその景色を眺めていた。

 自分たちの軽率な行動が、NPCとはいえ、これだけの死者を産んだのだと思うと、素直に笑う気にはなれなかった。


 一人、また一人とプレイヤー、冒険者、対魔騎士たちが去っていく。

 

 だが、瘴気はその地に残っている。

 小さな港町が復活すれば、人の往来で少しずつ瘴気が散らされ魔物は出るが護衛がいれば何とかなるくらいの地になるかもしれない。

 しかし、瘴気が凝り固まれば、キマイラ復活も有り得る。

 それはハジュマーリュの領主の政治や、運に左右される問題で、今は皆が喜び、悲しむ時である。


 そうして、物語はふたたび『ルナリード』へと戻ることとなる。



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