再び
ボーリン城で休息。
ボーリン城。
王も把握しきれないほどの使用人。それに伴う数多くの部屋。
その一つをあてがわれた。
広すぎる城内。多くの調度品で客を楽しませる。
慣れないきらびやかな客室。落ち着かない。
食事を済ませ一人でぼっと月明りを眺める。
明日には帰れるだろうか。
希望的観測をする。
帰るにはどうしたものか。
不安がよぎる。
もうこのまま一生こちらの住人でも悪くないが目的を果たした。
目的を果たし、役目を終えた者は速やかに退場するのが礼儀だろう。
ベットに横になる。
三十分後、扉をたたく音がした。
アキトを呼ぶ声が幽かに聞こえた気もする。
寝ぼけていた為起きる事は無かったが何かあったのかもしれない。
ただの風のせいかもしれないが。
翌朝
おはようございます。勇者様。
メイドが一人慌てた様子で入ってきた。
おはよう。どうかしたの?
それがですね。急遽パレードをやると旦那様がおっしゃりまして。
急な事ですが参加していただけませんか?
構わないよ。
服装はこれでいいかな?
それはもちろん。お好きなように。
急いでパレードの準備に取り掛かる。
パレードと言ってもただ馬車から手を振るだけなのだが。
準備万端
城を出発。近くの村々を回る。
外ではものすごい聴衆が今か今かと待ちかねている。
万歳!
国王様万歳!
勇者アキト万歳!
何度も何度も繰り返す。
その迫力たるやものすごいもので何人の者が集結しているのやら。
聴衆はゆっくり進む馬車を追いかけ叫び続ける。
誰一人として素顔を隠す者はいない。
聴衆は正直である。
王が聴衆に応える。
歓声は最高潮に達す。
馬車には王と姫と共に乗り込んだ。
アキト。聞こえる?
ハイ何とか。ガーター姫。
その他人行儀な物言いはおやめになって下さらない。
しかし姫様にどう接すればよいのか。
アキト!
はっは!
もういいわ。降りて歩きません。
危険では……
何を言ってるの。彼らは一切手を触れないはずよ。
本当ですか?
もちろん。さあ行きましょう。
そう言って無理矢理馬車から降ろされる。
ゆっくりゆっくり馬車に轢かれない程度に距離を保ち歩く。
うおおおおお!
姫様!
ターキー姫!
勇者様も!
アキト!
アキト!
勇者アキト!
合唱が始まる。
それに合わせて笛を吹く者。
踊りだす者。
叫び続ける者。
お祭り騒ぎ。
領内を行進。
終いには国王も一緒に歩き出す始末。
王様じゃ!
国王万歳!
万歳!
ゴーン ゴーン。
鐘が鳴り響く。
無事にパレードを終える。
ああ楽しかった。
凄い迫力でしたね。
アキトのおかげよ。私も皆も感謝してるの。
ガーター姫!
どうしたの?
パレードを終え、優雅にティータイム。
早く帰らねばなりません。
そうだったわ。忘れていた。
ガータ姫は困った表情を浮かべる。
どうしても帰るの?
はい、役目を終えましたので。それで王様にもご挨拶をせねば……
まだ終わってない!
ですが魔王を倒し、あなた様も無事に戻ってこれました。これ以上何を……
王との約束は果たしたの?
ええ、さっきからそのように申し上げております。
まだ!
いや、ああ。そうか。姫様との婚姻。忘れてませんよ。でも姫様はそれでいいのですか?
いいはずないじゃない! でも王様の命令では仕方ありません。私を助けた者と結ばれるつもりです。
流石の姫も顔を真っ赤にしている。
ガーター姫。今一度考えさせてください。あなた様と結ばれると言う事はこの土地に残れと言っているようなもの。大変ありがたいのですが私にも帰る場所があります。
分かってる。一緒に探してやるつもりだ。それに恐れる事は無い。ここに留まるもよしあちらに戻るもよし。どうする?
ガーター姫。それでは王様が何と言うか。
王は私の見方だ。
私も探す。お前もどうするか決めるのだ! 遅くないうちに回答を聞こう。
ガーター姫……
それからターキーが回復したそうだ。見に行ってあげなさい。
ターキーが?
お前に選んでほしい。私かターキーかを。もう私にも時間が無い。
意味深な言葉を残し去っていく。
夕暮れ
元の世界に戻る手がかりを求めて闇雲に歩き回る。
まずはターキーのお見舞い。
ターキー! ターキー!
扉をたたく。
返事がない。眠っているのだろうか。
ターキー?
部屋に入る
。
もぬけの殻であった。
ターキーはどこに行ってしまったのか。
今さっきまでいたのかベットは温かい。
その頃、ガーター姫は一人お供を連れて野草を摘んでいた。
姫様! 姫様! もう暗うございます。続きは明日にでもなさって。
もうちょっと。先に行ってて。すぐに戻るから。
しかし危のうございます。
いいから行って! 敷地内なら安全でしょう。
まったく……
ガーター姫は薬草取りに夢中。
ふううう。
これくらいでいいだろう。
ガッシ ガッシ
勇者現れる。
黄昏時におかしな夢?
館に向かってくる。
念のため用心しつつも好奇心が勝る。
夜分遅くに申し訳ない。
ガーター姫が結婚なさると聞き、はせ参じた。
ピン?
門番と言い争っている。
ああ、こちらは私のお客人です。
姫!
おお! 姫とな。ガーター姫でございますか。
ピンはガーター姫と幼馴染。
小さいころからよく遊んだ。小国の未来を託された若者で手柄を立てたと噂も聞く。
昔から蹴ったりぶったり倒したりして遊んだ。
いわゆるガーター姫の玩具である。
ピン。元気だった。
おお御無事で。暴漢にさらわれたとの噂もデマであったか。
いいから中に入って。
遠慮なく蹴り飛ばす。
イタタタ。まったく手加減がないのだから。
ほら早く!
待ってください。ガーター姫。果し合いをしに来ました。
果し合い?
そうです。結婚なさるとか。その男と勝負しに参りました。
冗談なの?
隙を見て足を引っかける。
おっとと。手癖と足癖が直ってませんね。
ピン!
はい?
何でもいいけど明日にしなさい。今日はもう遅いですし。
あなたがそう命じるならば文句は言いません。
アッタク。
ガーター姫!
怒らせてしまったようだ。
出直しましょう。それではまた明日。
ガーター姫の招きに応じず来た道を戻る。
宿のあてでもあるのだろうか。
まさか野宿?
ピン!
ピン! カンバック!
行ってしまった。
幼馴染のピンの登場により物語は新たな展開へ。
新たな勇者の出現。
新たな予兆。
まったく仕方ないわね。手間ばかりかけさせて。お仕置きしなくては。
ピンを追う。
ピン! ピン!
もう暗いわ! 館に戻ってきなさい!
ピンの姿は消えてしまった。
これではこちらまで迷子になってしまう。
もう戻りましょう。
急いで館へ
あと少しのところで呼び止められる。
ガーター姫ですか?
あなたは! 私を攫ったイケメン紳士!
ご名答。要件はもう分かっていますね?
あなたなぜこんなところに? 魔王の手下のあなたがなぜ?
質問はあとです。この馬車に乗っていただけますね。
自信たっぷりのイケメン紳士。
高い声で甘く囁く。
弱いのよね…… ふふふ。
ほらおいでおいで。
幼気な姫を攫う悪い奴。それがイケメン紳士。
騙されないわよ! 誰があなたなんかについていくものですか!
ほう。やりますな。では力ずくで。
ターキーとしての経験が生かされる。構え、抵抗する。
隙が無い。しぶといお嬢さんだ。仕方ない奥の手で行きましょう。
馬車から何かを引き摺ってきた。
ターキー?
なぜあなたがここに?
意識は無いようだ。
大人しくしろ! この女の命は無いぞ!
ターキーを人質にされては心優しいガーター姫に勝ち目はない。
大人しく従う。
ははは。はっはは。これで魔王様もお喜びになる。
魔王? 消滅したはず!
驚いたか。まあ無理もない。魔王様は復活なされたのだ。
ううう。
大人しくしていれば何もしないさ。紳士だからな。
こうしてガーター姫は再び連れ去られてしまった。
闇夜に鳴り響く叫び声はあっと言う間に掻き消された。
ガーター姫の運命は如何に?
続く