表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/45

後日譚 エミリア奮闘記 前編 1/3

あらすじ

 物捨神社での一件が終わり、イギリスに帰国したエミリアとゴリアス。

 日本での暮らしは楽しいものだったが、エミリアを待っていた事件は、彼女を休ませてくれない。



**********

-12月初旬

-イギリス ウェールズ

-ヴィクトール邸


 エミリアとゴリアスの乗る車は、鉄の門をくぐり、広大な庭を進み、屋敷の前で止まった。

 運転していた、フィルが言う。

「旦那様、お嬢様、着きました」


 エミリアは周りにバレないようにこっそり、伸びをした。

(ん~っ、やっとついたのねー)


 エミリアは車のドアを開け、フィルに応えた。

「ありがとう」


 同時に、エミリアは思う。

(改めてだけど、フィルって日本で見せてもらったアニメキャラの、金持ち小学生の家の執事のヒデじいに似てるわね……)


 ゴリアスはすでに車を出て、トランクから大きな荷物を取り出していた。


「ほら、エミリア」

「ありがとう、お父様」

 エミリアは父から自分の鞄を受け取った。


 鞄を持ったまま、屋敷の扉の前まで進み、ドアノッカーで叩いた。

 叩いてすぐに扉を開けた。


「お母さま!ただいm」

「エミリアァァァァァ!元気だったぁぁぁ!?」

 エミリアの顔は飛び出してきた母親の豊満な胸に埋められた。


「さみしかったわよぉぉぉ……パパもあなたも急に日本に行くんですもの……」

 エミリアが母親の体を引き離しながら言う。

「ご、ごめんなさい、お母様」


 アンナ・ヴィクトール

 42歳。職業、モデル。


 ゴリアスがたくさんの荷物を抱えてきた。

「いやすまん、アンナ。私の勝手な思いつきというか」


「いいのよ、あなた。その行動力のおかげで、こうして今日、心置きなく18の誕生日を一緒に祝えるんですもの。日本からの報せを聞いたときは、本当に嬉しかったわ。レンとシンイチにも、いつかお礼に伺わないとね」

 それを聞いたエミリアは、ニヤついた笑顔を隠した。


 フィルが三人に声をかける。

「みなさん、立ち話はそれくらいにして」

「あら、そうね。ごめんなさい、ついうっかり。さ、まずは体を休めて」


 エントランスホールの一角。

 写真がいくつか写真立てに入って並んでいる。

 エミリアはそのうちのひとつ、今から15年前の家族4人で写る写真を見て、心でつぶやいた。

(ただいま、お兄様)




**********

-同日 18時

-ヴィクトール邸 ダイニング


 エミリア、ゴリアス、アンナは、夕食をひと通り終えた。

 フィルは三人よりも先に夕食を済ませており、エミリアのためのケーキを用意している。


 アンナが口を開いた。

「でも本当に、今日の日を心からお祝いできて、何よりも幸せよ」

 ゴリアスが応える。

「そうだな。本当に、あの神社で、彼らに出会えなければ、今頃」


 どうなっていたことか。

 エミリアは父親の言葉の先を想像した。

(そうよね、お父様が言いよどむくらい、わたしは危なかったのよね)


 ゴリアスが宙を見て、懐かしそうに言う。

「たったひと晩のことだったが、レン、シンイチ、プライド、サクラとサキ、みんないて、なんとかなったんだ」


 父親の顔を見て、エミリアも思う。

(ほんと、なんだかすごく昔のことのように思っちゃう。空港で別れたのは、ほんの20時間くらい前なのに)


 アンナが口を開いた。

「でも三人がいなくなっちゃったのは残念ね。楽しい人たちだったんでしょ?」


 エミリアは母親の最後の問いだけ無視した。

「んー、なんか、畑中のことだから、またいろいろこじらせて、出現させちゃいそうだけどね」

 エミリアのこの洞察は、後日的中することになる。


 ケーキを食べ、フィルが淹れてくれた紅茶を飲み、その日は終わった。




**********

-同日 21時

-エミリアの寝室


 エミリアはパジャマでベッドに横になっていた。

(お父様とお母様、本当に嬉しそうだった……それはそうよね、娘が18で死ぬかもしれないと思い続けていたんだから……ましてや)


 エミリアは1枚の写真を思い浮かべた。

 エントランスホールにある、家族4人で写る写真。

(ましてや、15年前に、ふたつ上の兄が死んでるんだから)


 家族旅行中のイタリアで、川に落ちた、と聞いた。

 捜索は何日にも及んだが、結局見つからずに、15年間「行方不明」とされている。


 もちろん、15年間も「行方不明」の状態で生きているとは思えない。

 ゴリアスもアンナも、エミリアも、はっきりとわかっている。

「長男、オリバー・ヴィクトールはイタリアで命を落とした」と。


(お兄様が生きていたら、どんなふうにお祝いしてくれるのかしら)

 一緒に過ごした記憶がほとんどないエミリアにとって、兄という存在は憧れではなく、幻想に近かった。


 翌日、一通の手紙が、屋敷に届けられた。




**********

-翌日 朝8時

-ヴィクトール邸 エントランスホール


 エミリアは立ったまま自分に宛てられた手紙を読み、母親の方を向いて言った。

「ごめんね、お母様。また行かなきゃ」


「出発はいつ?」

 アンナは静かな声で言った。


「今日中に……ううん、できるだけ早く行きたい」

 手紙は仕事の依頼だった。


 エクソシストとしてのエミリアへの、仕事。

(つまりそこには苦しんでいる人がいる、ということ。のんびりしていられない、でも)

 エミリアは申し訳ない気持ちでアンナを見た。

 母親と目が合って、目を伏せた。


(そうよね、やっと一緒にいられるようになったのに、そしてそれが娘の誕生日の翌日なのに)

「そう。仕方ないわね。今回はどこに行くの?」

「イタリア」

 家族にとって、とても嫌な思い出のある国だ。


「あーよかった、日本よりはだいぶ近いわね。じゃあ早く用意しなさい」

「いいの?」


「いいもなにもないわ。それがあなたの仕事であり、使命なのよ。ホテルはどこにする?ここなんかいいんじゃない?」

「あの、お母様、ホテルは、空港までの車で調べようと思ってるんだけど」


「そう?じゃあそうしましょ」

(ん?)

「今回はママが一緒にいくわ♪」




**********

-同日 15時

-イタリア クレモナ

-ホテル「ムジカ」


 エミリアとアンナのふたりはホテルに到着してすぐ、チェックインできた。

 道中、日本ほどではないが、奇異の目で見られながら、ここまで来た。


 長く、つややかなブロンド、青い瞳、金の刺繍や金具が多い、白い服。人目を引くには十分だが、エクソシストの服は、どれだけ悪目立ちしようが、しっくり来る。


 部屋に荷物を入れてすぐ、アンナは電話をかけた。

「じゃあ、しばらくこっちに滞在するので、撮りに来たければ来てちょうだい…………うるさいわね、元々昨日から2週間は休みにしていたでしょ?それまでには一度戻るわよ」


 母親の言葉に、エミリアはぼんやりと考えた。

(2週間か。終わるのかな。いつもほんとにわからないのよね。長い時は1ヶ月だけど、短い時は数時間くらいだし)


 アンナがエミリアに訊く。

「そっちはどう?当面の動きは決まった?」

「ええ、18時に向こうの工房に行くことになったわ」


「悪魔のバイオリンって、なんか面白そうよね?どんなのかな?ママも行っていいよね?」

(なんで楽しそうなのよ。何時間か前に使命だなんだと高尚なことを言ってたのよね、この人)


 エミリアは窓の外の景色を見た。

 イタリアを代表する工芸技術都市、クレモナ。

 その伝統工芸のひとつであるバイオリンづくりに、悪魔が関わっているという。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ