最終話 意地とプライド 後編 3/3
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大破に近い車に乗り、ゴリアスの運転で神社に帰った。
漣が参道で待っていた。
いても立ってもいられなかったのだろう。
車を降りた三人の顔を見て、訊く。
「三人は?」
(返事の仕方に、迷ったが、言った)
「取り返してきた」
笑ってみた。漣も笑ってくれた。
「よかったです」
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-12月4日
-物捨神社 参道
三人がいなくなった直後から、ことあるごとに、神社には寄り付くようになってしまった。
部屋には、なんとなくいづらい。
小林香織とその両親が、何かにつけて世話を焼いてくるのだ。
悟りに至る方法でも聞き出そうとしているのかもしれない。
(晩ごはんのおかずのおすそわけで魂を救済してもらおうとするのは甘いだろ)
結局、神社が一番居心地がよくなってしまった。
参道を歩きながら、改めてそんなことを思う。
人手がない間は日用品の買い出しや公式アカウントの更新などなど、色々と手伝ったが、海外から漣の両親も戻ったことで、その必要もなくなった。
それでも漣は快く、俺をここにいさせてくれる。
エミリアとゴリアスは、あの日の直後に帰国した。
たびたび日本に来るつもりらしい。
漣のことを好きだというのは奉納相撲で暴露されたようなものだが、当の本人が気づいているかはわからない。
「ほんとは、ずっといてもいいんだけどな。また来てくれよ」
言いながらエミリアの頭の上に手を置いた漣。
(あれは、あかん)
境内に出た。
誰もいない。
風が吹いて、木が揺れる。
無音のようで、音がする。
耳を澄ませることができるのは、そうしないと聞こえない音の存在に気づけるからだ。
改めて神社は神殿なのだと実感する。
もう少し、ここにいてもいいかな。
「あら、畑中くん。いらっしゃい」
声の方を見ると、野々宮咲が立っていた。
(多分、今の甘えで出たな)
「ども、お邪魔します」
「彼女できた?」
「いやぁー、難しいですねー」
ふたりで社務所の方に向かって歩く。
「なんでよー?結構バーとか行くじゃん。その辺の子をテキトーに引っ掛けたりしないの?」
「まぁ、それなりには」
「うわ!ムカつく!それで彼女できてないとかサイテーだね、あんた」
社務所の玄関から、プライドが出てきた。
「お帰りなさい、ご主人」
「俺ん家じゃねえよ」
「でも、しっくり来るでしょ?コーヒー、淹れましょうか?」
社務所のキッチンの窓から、サクラの大きな声が聞こえる。
「こらー!今日はあたしが淹れるって言ったでしょうが!」
結局、ことあるごとに、プライド、サクラ、咲の三人は出るようになった。
出たり、引っ込んだり。
捨てたい、とか、いやこれは俺にとって大事なんだ、とか、今後も、そういうことを繰り返していきそうな気がする。
みんな、そんなことをしているような気がする。
おわり