最終話 意地とプライド 後編 2/3
その場にいる全員が、驚きの表情でこちらを見た。
見えないが、背後から押さえつけている男たちも恐らく。
檻の中の三人は、意味がわかっていないでこちらを見ているのだろう。
「そうか……開祖は大河原の一族ってことね……魂の光を見たのか」
教祖らしき男と小林香織が目を見合わせている。
小林香織は首を横に振る。
恐らくこう言いたいのだろう。
「私は話したことはありません」
開祖の名前を言い当てたことが、そう重要なことのようには思えないが、彼らの反応から察するに、彼らにとっては重要なことなのだろう。
狂信者に体を押さえつけられているこの状況。
打開できるのは、これしかない。
「お前たち、調べてないのか?この三人は俺が形にした、俺の魂の光そのものなんだぞ?魂の光は、人の意識のさらにその下、魂の領域でつながっている。漂う霧のように、な。だからわかるんだよ。俺が誰も教えなかったお前たちの秘密を知っていることからも、わかるだろ?」
口先で乗り切るしかない。
ところどころは口から出まかせだ。
だが、手応えは感じる。
体を押さえる手の力が、明らかに弱まるのを感じた。
「お前たちが必死に真理に近づこうとしていることは否定しないが、その真理を得た人間、いや、真理そのものと言ってもいい存在を、こうして地面に押さえつけていて、いいものかね」
手の力は、さらに弱まる。
「魂の光か……見せてやるよ」
立ち上がろうとしたとき、男たちの手は体に触れていたが、すでに押さえつける力はなかった。
ゆっくりと立ち上がる動作の内に、すべての男が体から手を離していた。
教祖らしき男と、小林香織が、こちらをまっすぐ見ている。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
檻の中の三人を見る。
プライド、童貞くささ、甘え。
全部あって、ここまで来れた。
やはり俺には、必要なものなんだ。
神社を出る前に放った言葉。それに応えた漣の顔が浮かんだ。
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「いいんだよ!俺はこれで!」
「僕もそう思います」
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胸のつかえが取れたような気がしたときには、それは始まっていた。
檻の中の三人の体から、白い霧が立ち上がる。
それは指向性を持って、俺の方に進んできた。
三本の霧の筋が、胸の中央に集まる。
視界の端で、男と小林香織が驚いているのが見えるが、それはどうでもよかった。
プライドと、サクラ、咲の三人の体が、薄く、見えにくくなっていく。
1分も待たずに、三人は消えた。
胸の辺りを触ってみる。
別段、なんの変化もない。
(連れて帰るって決めたけど、これは、達成できたってことだよな?)
周りを見渡すと、教祖らしき男以外は、正座をしてこちらを見ている。
(連中を無害化するというか、無力化というか、それには成功したのか。とりあえず、せっかくだから大袈裟にやってみるか)
「魂の光に用があるなら、いつでも来てください。あなたたちにも、見えるときが来ます」
誰も、動かない。
少し後悔した。
(俺が教祖にまつりあげられたりしないよな?)
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用が済んだホールを出て、階段を降り、玄関を出た。
何人かが後を着いてくるが、無視する。
(絶対この団体とは関わりたくない)
玄関を出た先の広い庭。
木にぶつかってそのままの車のそばに、ゴリアスとエミリアが立っていた。
「あらー、ちょっと遅かったわね」
「おお、畑中。ちょうど今終わったところだ」
(終わった?なにが?)
ふたりの視線は俺に集まったあと、バラバラの方向に散った。
それぞれを追うと、黒服を着た大男と小男が、庭の片隅で倒れて動かなくなっていた。
何やら、幹部キャラとの激闘を終えたらしい。
「いやー見せたかったわー畑中にも」
(いや、見せろよほんと)
「エミリアよ、まさかお前があんな行動に出るとは思わなかったぞ」
「お父様のサポートがあってこそよ」
(見せろって)
結局、多彩な連携技に苦労したものの、相手の裏をかき、能力を利用して連携を崩し、怪力と超能力というそれぞれの長所に頼る相手の戦法の弱点をつき、父娘ふたりで勝利を収めたという話は、本当に話だけで終わらされた。




