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第9話 サクラとエミリア 2/3

**********


-15分後 食堂

 体が元に戻ったサクラを、2階の寝室に移した。

 サクラは見た目こそ戻ったが、意識はまだ戻らない。

 が、プライドとさきいわく「もう大丈夫」ということらしい。

(同種にはわかるんだな)


「目を覚ますまで私がついてるわ」と咲が申し出たので、任せた。

 いろいろと散らかりすぎたこの部屋を男四人で片付けた。


 ひととおり済むと、椅子に腰かけた。

 テーブルの上には、エミリアがサクラたちに見せていた荷物があらかた置かれている。


「あー……疲れた」

「お疲れ様です、ご主人。コーヒー、淹れますね」


「サンキュー」

「私も、いいかね?」

 ゴリアスがうつむいたまま、椅子に座り、言う。


 プライドは無言でうなずき、湯を沸かしはじめた。

 エミリアは、片付けが行われている間も、今も、床の隅に座り込んでいる。

 両膝を両手で抱えて。


 一瞥しただけで、言葉をかけることはしなかった。

 言葉はれんにかけた。


「漣さん、さっきはありがとう」

「あぁ、いえいえ、ほんとに、うまくいってよかったです」


「漣さんがゴリアスさんを止めてくれなかったら、今ごろ俺も意識ないよ」

 サクラも救えなかったはずだ。


 ゴリアスが言う。

「あれは……なんだったんだ?お前らは、なにをした」


 漣と目を見合わせ、ふたりで分担しながら説明した。


 サクラは俺の「捨てたくても捨てきれない童貞くささ」が実体化したものプライドはプライド、咲は甘えの実体化。

 俺の中から出てきたとは言え、プライドも童貞くささも、甘えも、まだ俺の中に残っている。


 ふとしたときに顔を出すそれを、三人は俺の体から引き抜くことができる。

 また、普段はそれを本人が食べてしまうが、別に食べる必要はなく、押し込むだけでも取り込めるのだと、さっき知った。


 プライドと咲によって俺から引き抜かれ、サクラに押し込まれた童貞くささが、くずれかけたサクラの傷を修復した。

 そして、取り込むことで修復できるというのも、さっき知った。

 エミリアが「粘土みたいにくっつける」と言ったのが、ヒントだった。

 いや、ヒントと言うより、かすかな希望だった。


 童貞くささを俺の中で大きくするために、エミリアを利用させてもらった。

(彼女に悪いことをしたとは欠片も思えない)


「ゴリアスさんにぶん殴られても、童貞くささを出し続けることはできたかもしれないと思ってたから、そこは賭けだったな」

「なぜ説明しなかったんだ?」


 ゴリアスの目からは、二人のどちらに訊いているのかわからない。

 漣が答える。


「いや、僕はあのときはわかってなかったので」

「!?そうなの?」


(咄嗟に止めてくれたから、わかってるもんかと)

「えぇ、畑中さんにしては、変なことをする。でも絶対、なにか、意図がある。そう思っていました。だから、叔父さんは止めなくちゃいけない、と思いましたね」


「きみにとって!」

 ゴリアスが語気を強めて割って入った。


「あの子はなんだ?いや、あの子に限らず、プライドも、咲も……消したいのではないのか?」

「そうっすね……」


 次の言葉が出てこなかった。

「消したいのではないか?」と訊かれて、即答できない。


**********


『ア……リア…………』

頭の中で声が響いた。


「…………?」

『リア…………エミリア……』


「はい、おばあ様」

『つらかったねぇ、悪魔を仕留めそこなって』


「いえ……おばあ様の無念に比べれば……」

『そうかい……お前はほんとに、いい孫さ……あたしの無念を晴らしてくれるんだろ?』


「…………はい」

『だったら、お姉様だかなんだか知らないけど、あんなのも特別扱いしてちゃ……だめだろ?』


「…………」

『人の心に棲む悪魔は、心の中にいようが、外に出ようが、等しく浄化すべきさ』


「…………」

『さもなきゃ、大事な人を失う悲しみを背負う人が……増えちまうよ……あたしのように』


「…………そうね」

『…………』


「……おばあ様、でも……咲お姉様は、本当に悪魔なの?……あんなに、優しくて、あたしとも遊んでくれて……」

『…………お前もういいや』

「えっ」


**********


 ただならぬ気配というのは、俺のように霊感などなくても感じ取れるらしい。

 全員が一斉に、食堂の隅に視線を送る。

 先ほどまでうずくまっていたエミリアが、立ち上がっていた。

 手には聖女のナイフを握っている。


**********


 サクラが眠る布団の横に座ったまま、野々宮咲は階下の異常に気づいた。

 何かがいる。

 いや、いたのだ。

 巧妙に隠れていたモノが、姿を現した。


 下に降りるべきか。

 迷っていたら、サクラが体を起こした。目を覚ましたのだ。


「咲ねえ。行こう」

彼女もまた、感じたのだ。


「うん」

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