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偽りの王は暗殺されかける

セレーネと妃に迎えてから、数年。

フラグニルの武・クロウの情報収集・セレーネの智を得たセレスティは徐々に勢力を増していき、近隣諸国の中でも頭1つ抜け始めていた。

戦では連戦連勝、国同士の外交では情報収集とセレーネの智を生かし有利な方に進め、王国内ではクレス扮するアベルの名声が高まるばかりである。

……だがその様子を良いと思わない人間もいるのであった。


その日クレスは城を離れ、城下町のとある建物で隣国の大使と交渉をしていた。

内容はその国との和平交渉であり、事前にもらったセレーネ達の助言もあり何とか大使との会談を有利に終えたクレスは建物の一室で休んでいた。

ベットに横たわり一息つこうとしたところ、クロウがいつものようにいきなり出てきた。



「主、無事か」


「いや無事だが……何か起きたのか?」


「建物囲まれた、どうやら何者かが主を仕留めようとしている」


「で、あろうな。全く……少しは休ませて欲しいものだ

ーークロウ、城に戻るぞ」


「御意、主の道作ろう」


クロウが勢いよく部屋の扉を開けると、その扉で扉近くにいた兵を気絶させた。


「ぐっ……!!」


「逃げたぞ!! かこーー」


そして声を出した相手に持っていたナイフを投げて黙らせ、ナイフを受けて倒れかけた兵を踏み台にし、その後ろの兵には手持ちの剣を刺した。

その手慣れた手つきをみてクレスは彼が本当に味方で良かったと思いながら開いた道を走る。


「主、道は開いた。建物の外には我が一族がいる、駆け抜けるぞ

ーー主どうした?」


「いや、本当お前の迷いの無い攻撃は何度見ても素晴らしいと思って、この状況ながら見とれていた。

ーーお前達を雇ったのは我の誇りだ」


と思わず褒めると殆ど表情を変えないクロウは少し口角を上げた。


「あぁ期待しているぞ、主」


と答えた。

そして何故かこれ以降、クロウはいつも以上に攻撃が鋭いのをクレスは見逃さなかった。


(いつも以上にキレがいいなぁ……あいつも褒められて嬉しかったのだろうか)


なんて思いながらクロウが開いた逃げ道を走るクレスであった。



クロウの予想以上の働きによって、混乱した敵兵を尻目に建物を外に出ると彼の言っていた通り、クロウの一族の者がどこからもなく現れてきた。


「頭領、陛下の馬を用意しました」


と言われ、クレスとクロウは用意された馬に乗った。


「お主達はそのまま近隣の警戒を。自分は主と一緒にこの場を離れる、適度に離れたら狼煙を上げる、狼煙が見えたらお主達も退却せよ」


「「はっ」」


馬上からクロウは一族の者に指令を出すと、一族の者は返事をするや否やその場から散らばった。




クロウ達の助けもあり城に戻ってくると、ゴルドとクリーネが駆け寄ってきた。

ゴルドは珍しく焦った顔をしており、セレーネに至っては半泣きの状態である。


「陛下、ご無事ですか!?」


「あぁ我は無事だ。クロウ達が助けてくれたのでな。心配かけて済まぬ」


「へ、陛下ぁ……ご無事で何よりですぅ……」


「な、泣くなセレーネ。我は無事だ」


と心配させたので落ち着かせようと思いセレーネの頭を撫でたのだが、その行動が彼女の緊張の糸を切らせてしまったらしく


「うえぇぇぇ……無事でよかったですぅ……!!」


更に泣かせることになってしまった。

さて、どうしようかと考えているとゴルドは神妙な表情で口を開く。


「今回の件の犯人は分かったのですか?」


「現在、クロウ達に調べさせている。明日には分かるだろう」


「確かに彼らの情報網は恐ろしいですからね。

ーー少し相手に同情します」


「確かにな。だが我を殺めようとした者達だ、容赦はせぬ」


「えぇそれは勿論、至極真っ当だと思います」


「犯人への処罰はあとで考えるとして……今は」


「今は?」


「うえぇぇぇぇぇーーん!!」


「……泣いているこいつの面倒を見なくては」


苦笑しながらゴルドに呟く。それを見てゴルドも同じように苦笑する。


「ある意味、逃げるよりも大変かもしれませんね」


「へぇいか~かまってくださぁいよぉーー!!」


「こいつ、こんな性格であったか?」


「さぁどうでしょうか? でもその性格にしたのは貴方だと思いますがね

ーーあっ、私用事思い出したので少し席を外します」


と思い出したかのように部屋から出ようとするゴルド。

だが少しニヤッとした表情をしたのを見逃さなかった。


「あっ、おい!! 用事は絶対嘘であろう!! 逃げるではない!!」


だがそんなクレスの叫びもむなしく、外に出ていくゴルド。


「うえぇぇぇぇーーん!!」


そして泣いたままのセレーネ。


「……何か逃げる時よりも疲れるぞ、これ」


思わず、素の口調になってぼやくクレスであった。




そして次の日


「主、この者達が暗殺者を雇った輩を連れてきた」


とクロウが暗殺者の雇い主を縛った状態でクレスの前に放り投げた。

縛られた状態で倒れているのはクレスを代わりの王にすると決めた高官の1人であった。


「何をするか!! 我を誰と思ってのろうぜーー」


「素早い仕事ありがたい」


「へ、陛下!? 何故ここに!!」


「ここは我の部屋だぞ、我がいて悪いのか?

ーーそしてクロウ仕事をしてもらったのだが、すまないしばらく部屋から出てくれ」


「御意、お呼びをあればいつでも」


クレスが促すとクロウはいつもの無表情のまま頭を下げ、部屋から出ていった。


「クロウ殿を下げて宜しいのですか?」


「この者達はそこまで強くない、護衛ならゴルド、お前がいる」


「ありがとうございます。

ーーで、まさかの犯人が貴方達でしたか、陛下を代わりの王とした者達が邪魔になったから暗殺しようと思い行動したのですね」


「あぁ前からそんな気がしていたが、本当だったとはな」


「何をおっしゃいますか陛下!! あの様な下賤の者の言う事を信じるのですか!!」


「あぁ我はお前よりもあの者の言う事を信じる。

ーーそれに我が配下を“下賤の者”と言った発言は到底看過できるものではない」


と冷たく睨むと大臣は顔を赤くして憤慨した。


「おのれ偽りの王の分際で……!! お前は私達が王にでも担ぎ上げなかったら表舞台に出てこれなかったのだぞ!!

今の暮らしがあるのは誰のおかげだ!!」


「俺は表舞台に出るつもりはなかったのに勝手に担ぎ上げてきたのはお前達だろ? 個人的に俺はあの生活のままで良かったさ」


大臣の身勝手な発言にクレスも素の口調に戻る。


「そうですねぇ……陛下を勝手に担ぎ上げた上で、邪魔になったら暗殺者を雇ってまで排除しようとする大臣の考えには一切の同情の余地はございません。

ーーということで陛下、この者粛清しましょう。大丈夫です、陛下の手は汚させませんので」


と腰に下げていた剣を抜こうとするゴルド。

顔こそ穏やかな笑みを浮かべているがクレスが今までどれだけ努力をしてきたか一番知っている人間だったので、大臣の発言に対してかなり頭にきている。


「ゴルド、穏やかな笑みを浮かべて言う内容ではないからな、それ。

ーーだが俺を殺そうとしたことに対して何かしら処罰を与えないといけないな、大臣の職をはく奪の上、国外追放にでもするか」


「陛下、お優しいのですね。私なら死刑もしくは首と胴体を永遠に別れを告げさせますが?」


といつの間にか抜いた剣で素振りをし始める。多分、胴体を真っ二つに切る練習なのだろうと思うクレス。


「だから何故お前はこうもまた極端なのだ……これではいつもと逆の立場ではないか」


いつもならクレスが行動しようとするのをゴルドが穏やかな笑顔で止めにかかるのだが、今回に至ってはゴルドの表情は変わらず物騒な事をやろうとしているのをクレスが止めるという奇妙な構図が出来上がっていた。


「それで陛下、この者どういたしましょうか?」


「高官の地位をはく奪の上、牢に押し込んでおけ」


「かしこまりました。罪状は“陛下に対して謀反を起こそうとした”ことにしておきます」


「それでよい」


「お、覚えておけ若造が!! 私に刃を向けたことこうかーー」


言い終わる前にゴルドの手刀が首に当たり、高官は気絶した。


「ーー手が滑りました、陛下お許しを」


「構わん、うるさいのがなくなって心地良い」


その後、部下を呼び気絶した高官を連れていかせた。

高官が部屋から連れていかれるのを見届けるとクレスはため息をもらす。


「ふぅ……そうだな、“偽りの王”だよな」


「陛下?」


「すまん、ちょっとさっき言われた発言が予想以上に堪えてな」


「あの者が言っている事など無視です。奴らは陛下の頑張りを知らないから言えるのです」


「いや俺は王ではない、ただの天涯孤独の男。たまたま王と容姿が瓜二つであっただけだ……」


「陛下……」


ここまで落ち込むのを見てゴルドはかける言葉が見当たらない。

目の前の人物は自分達からの期待や羨望を当たり前の様に応えようと頑張っていたが、本来なら彼はただの庶民だ。

孤児ではあるものも、貴族同士の足の引っ張りや暗殺の危機とは全く縁のない生活を過ごせていただろう。

そんな平穏な生活から彼を遠ざけたのは自分達なのだ。


「……すまないゴルド。弱音を吐いてしまって」


「いいえ、陛下が謝る必要はございません。本来なら貴方を勝手に担ぎ上げた私達が悪いのですから

ーー何か美味しい食べ物を用意しましょう、何がお望みですか?」


「肉を沢山頼む」


「かしこまりました」

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