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偽りの王は婚約者を得る

「ふぅ……やはり落ち着くな」


クレスがいるのは王族のみが入れる専用の書庫室。

ここで一息つくのが王になってから唯一心が休まる時だ。


(にしてもアベルは勿体ない、こんな素晴らしい書庫があるのに殆ど足を運ばなかったなんて)


アベルという人物はあまり本に興味が無かったらしく、この書庫にもあまり来なかったとゴルドから聞いた。逆にクレスは本を読むのが好きな方なのでこの書庫室は彼にとって天国そのものなのである。この書庫室に沢山所蔵されている本が醸し出す匂いがクレスを至福の時間に案内する。


「あぁ堪らないこの匂い……さて、どれを読もうか……」


カタン


「……ッ!?」


物音が聞こえ、思わず臨戦態勢を取る。

本来ならこの書庫室にクレス以外はいないはずなので物音がするのはおかしい。


「ふぅ……たまには休みを欲しいのだがなぁ……。

ーークロウ」


「こちらに」


いつものようにクロウを呼ぶと背後に現れた。

何かあればすぐにクロウを呼ぶクレスだが、毎回呼べば必ずすぐに出てくる事に今更ながら感心していた。


(本当にこいつは呼べばいつでも出てくるなぁ……こいつ俺の正体知っててもおかしくないぞ)


その正体を盾にクレスを脅せばもっといい条件で契約を更新できそうなのだが、知っていて黙っているのかもしくは本当に知らないのかその真実はクロウのみが知る。


「主?」


「我以外にこの部屋に誰かいるな

ーーそいつを捕まえろ」


「御意」



そして1分後……


「ひぃぃぃ……」


「……なんだこの女?」


クレスの目の前にいるのはとても怯えた様子の女性だった。

書庫室でこの女を捕まえたのはいいが、扱いに困ったクレスはとりあえず自室に連れてきた。


「陛下、この女性は大臣の娘です。博識で有名なのですが極度の人見知りですね」


とゴルドは隣で説明する。

自室にこの女性を連れてきた瞬間、彼は少し表情を変えたがすぐにいつもの表情に戻った。


「よく覚えているな、お前は」


「それは人の顔を覚えるのは得意ですから」


「おい、女」


「はいぃぃぃ……」


「名前は?」


「はい?」


「な・ま・えは?」


「せ、セレーネですぅ……」


どうやら目の前のとても怯えた表情をしている女性はセレーネと言うらしい。


「セレーネか……良い名前だ」


とクレスが呟くと、一瞬ポカンとした表情を浮かべてから顔を赤らめた。


「あ、ありがとうございます……」


だがその表情はこれから自分がどうなるのかを想像したのか一瞬にして青ざめる。


「わ、私はこれから……どうなるのでしょうか?」


クレスはいつものように口を開く。


「お前の罪は、王族しか入れない書庫に無断で入ったことだ。

ーーゴルド、その場合の処罰は?」


隣で立っているゴルドに振ってみる。


「はい、一番重たい罰ですと国外追放です、もしくは牢屋行きでしょうかね」


笑顔で重たい処罰を言うとセレーネが一気に顔を青ざめた。


「こ、国外追放ですか!? そ、それは困りますーー!!

私は本を読むぐらいしか楽しみないんですーー!!」


「心配するな、牢屋でも本は読める」


「えぇ可能です、持ってくる方がいたらですが」


「そんなぁ~」


「いやお前、王族しか入ってはいけない書庫室に入った自覚あるのか?」


「はぁい……でもどうしてもあそこにある本が読みたくて……誰もいないのを確認して中に入りましたぁ……」


「いや入り方は聞いておらん……まぁよい話せ」


「そこには夢のような景色が広がっていました……“本の虫”なんて陰で言われていた私ですら今まで呼んだ事が無いような本ばかりで……幸せでしたぁ」


その時の景色を思い出したのだろうセレーネはうっとりとした表情になったのだが、すぐに暗い表情になった。


「夢のような景色にうっとりしていたら扉が開く音が聞こえました。私はどうしようと思って慌てていたら近くにあった棚に足をぶつけて……早く逃げなきゃと思った矢先、王の影に捕まりましたぁ……」


「ん?」


「どうしましたか陛下?」


「いや我、この部屋で“王の影”なんて言葉言ったか? と思ってな……」


「いえ仰っておりません……そもそも陛下からそのような言葉を聞いた記憶がございませんが」


そうなのである。

クレスはクロウのことを“王の影”と呼ばない。呼ぶ際も“クロウ”と名前で呼んでいるため“王の影”という単語を使うことが殆どないため目の前の女性が何故“王の影”という言葉を知っているのか気になった。


「おい女」


「は、はい!?」


「お前は何故“王の影”を知っている? そのような事が記載されている本は無いはずだが」


「い、いえ私が捕まった際に、その方が着ていた服に“王の影”の一族の紋章が入っていたので……言葉自体は前から知っていました」


その発言に顔を見合わせるクレスとゴルド。

目の前で怯えているセレーネという女性は只者でなさそうだ。


「セレーネ様」


「は、はい!?」


「私からいくつか質問させていただいても宜しいでしょうか?」


「構いませんが……」


「ではーー」


とゴルドは政治、財政、歴史、戦術等色々な事をセレーネに尋ねてと彼女は怯えながらも全ての質問に正確に答えていた。その様子を見て、その幅広い知識には脱帽するしかないクレスとゴルド。


「ゴルド、どうやらこの女、博識なのは本当みたいだ」


「知識で負けたのは悔しいですが今回は白旗を上げるしかなさそうです」


ふとクレスの頭の中に1つの考えがよぎった。


「では女、お前の処罰を我自ら下してやろう」


「ひ、ひぃ……せ、せめて本が読める場所にーー」


「我の妃となれ」


「妃……?

ーーえぇぇぇぇーー!?」


先ほどまでの弱々しい声から一転部屋に響き渡る大声で驚くセレーネ。


「妃!? 私が陛下の妃!? ええぇぇぇーー!? ふえぇぇぇーー!!」


今までの怯えた様子から信じられないような大声を出すものだからクレスとゴルドは顔をしかめながら耳を塞ぐ。


「えぇい、叫ぶなうるさい!!」


負けないぐらいの声でクレスが叫ぶと、隣にいたゴルドは耳を塞ぎながら言う。


「陛下の声も負けずと大きいですよ?」


「そんなこと我でも分かってるわ!!

ーーそして女!!」


そしてセレーネに向かって指をさす。


「は、はい!!」


「お前に選択肢は2つある。

ーー我の妃になるか、国外に追放されるか? どちらがいい!!」


「うえぇぇぇん、どっちもどっちじゃないですかぁ……」


「お前はどうやら博識なのだろう? ゴルドがお前を“博識”だというのだから多分そうだであろう。故に我が困った際に何か助言をせよ。

それ以外の時間は好き勝手にあの書庫に入ってよい。ただ本を失くしたり汚すな」


そうクレスが言うとセレーネは目を輝かせた。


「は、はいそれは勿論!! 本を汚すなんて言語道断です」


と目をキラキラさせて強い口調で言ってきたので、少したじろぐが出来るだけ悟られないように話す。


「夜の生活も無理強いはせん、お前の寝室は書庫の隣にでも作ってやろう。

ーーただ書庫で寝るな」


「えぇぇ……だ、ダメなんですか!?」


「逆に許されると思ったのか、普通当たり前であろう……さぁどうする?」


「じゃあ……陛下の妃になりますぅ……」


「うむ」


「あ、あれ普通、妃ってこんな流れで決まるものなんですかぁ……?」


周りの人間が誰も予想が付かない展開で妃になったセレーネ。

彼女が“普通とは違う流れなのでは? ”と思ったが時すでに遅かった。


そしてそんな彼女を様子を見てゴルドは“まさかこのような流れで妃が決まるとは……”と珍しく驚いた表情を浮かべているのであった。




クレスはセレーネを妃にすると宣言した、その日のうちに大臣を呼び出し、セレーネを妃にもらうと言った途端、ゴルドと同じように驚いた顔をしていた。


「あ、あの陛下……」


申し訳なさそうに言う大臣。


「なんだ、申せ」


「我が娘のセレーネは他人と触れ合おうとせず、本としか関わりもたない娘です。それに容姿も……」


「我は容姿は気にしない」


「ですが……」


「くどい!! 我はお前の娘の幅広い知識が妃に相応しいと思ったのだ。知識は不変的なもの年を取って変わる容姿などどうでも良い!!

ーーそれともお前は王である我の判断が間違っていると申すのか?」


「い、いえ滅相もない!! アベル様は常に正しい方でおります」


クレスが少し睨んで言うと大臣は怯えた様子で答えたのであった。



そして数日後、正式にクレス扮するアベルとセレーネの婚約が発表された。


「あ、あのぉ……陛下……」


「その気の弱そうな喋り方を止めろ」


「は、はいぃぃぃ……」


「その喋り方をやめろと……はぁ……でなんだ?」


「今からでも妹や姉の方に……」


セレーネからすると自分よりも王の妃に相応しいのは姉や妹だとずっと思っていたのだが、その発言はクレスの琴線に触れてしまったらしい。


「ほぅ、我の決定に反対とはどうやらお前は余程国外追放されたいようだ。どこがいい極寒か灼熱か」


「ひぃぃ……」


「それに我は言ったがお前の知識は妃に相応しいと思ったから言ったのだ。我は頭が良くない、故に誰かの知恵がないと困ってしまう。お前と話していて気弱だが知識は本物だと直感で思った、それだけだ」


「ち、直感ですかぁ?」


まさか自分が選ばれたのはこの王の直感だったのか驚くセレーネを尻目にクレスは自慢げに言う。


「あぁ我は直感で動く、そうであろうゴルド」


「えぇ、陛下は直感でよく動かれます。ただその直感は大体良い方に流れるので不思議ですが」


「ふぇぇぇぇ……陛下は凄いですぅぅ……」


「それにお前は言うほど見た目悪くないだろうが」


「へっ?」


「失敬」


とクレスがセレーネの眼鏡を取った。


「あっ、ちょっと!?」


「おぉ……今回も陛下の直感は正しいようですね」


そこにはメガネと前髪で隠れていた彼女の意外と整った顔がそこにはあった。


「やっぱり我の直感は当たっていたか。お前美人ではないか、姉妹には負けないぐらいの」


先ほどの大臣との会話で“姉や妹の方が~”と言っていたがセレーネ自身も負けないぐらいの美貌があったんだとクレスが感心していると、セレーネは手をこっちに向かって出してきた。


「はわぁぁぁぁ~!! め、眼鏡を返してくださ~い!! それが無いと不安なんですよぉ~!!」


ただ眼鏡が無いと見えないのか、出した手は空を掴むばかりであるが。


「ほい、返す」


と返すと目にも止まらいスピードで眼鏡を付け、前髪を戻していつものセレーネに戻った。


「はぁぁぁ~落ち着きますぅぅ……やっぱりこの状態が落ち着きます。

ーー私は前から人と目を合わせて話せなくて……眼鏡と前髪で隠しているんです」


「やはり我の予想通りだったか。セレーネよ」


「は、はい!? 前髪と眼鏡を外すのは無理ーー」


「それはお前に任せる。無理強いはしない」


王から返ってきた言葉はまさかの言葉だった。


「へっ?」


「さっきも言ったが、我はお前に強要はしない。お前がその状態がいいなら我は文句は言わぬ」


「セレーネ様、大丈夫ですよ」


「は、はい?」


「この御方、口調ではとても分かりにくいと思いますが他の方に強制はしない方なのですよ」


「“とても”は余計だゴルド。まずはお前から国外追放にされたいか?」


「ハッハッ……それはやめていただきたいですね。これ以上陛下の機嫌を損ねる訳にはいきませんね」


と笑顔で返すゴルド。


「お前は本当に我の配下なのかたまに分からん時がある……」


「陛下の忠実な部下ですよ、私は」


出会った当初、冗談をあまり言わなかったゴルドも今ではクレスに対してはしょっちゅう言っている。

クレスはそんなゴルドに少しだけ不満に思いながらも、冗談が言える相手がいるのは嬉しいと思っているのだがそれを言ったら更に調子に乗るのは言わずもがななので黙っておくことにした。

そんな2人を見ながらセレーネはボソッと呟く。


「お、お2人は不思議な関係ですね……友達がいない私には羨ましいです」


「ほぅ、お前の目にはそのように見えているのか?

ーーおいゴルド、この女を流すいい場所を教えろ」


「そうですね……陛下の隣とか如何でしょうか? 毎日何かしら事件発生しますから刺激たっぷりです」


「事件ですか!? ひぃぃぃ……私暴力苦手ですぅ……」


「よし、やはり貴様から国外追放してやろうかゴルドよ」


「ハハハ、ご勘弁を」



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