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偽りの王は敵将を助ける

クレスが王の代わりとしてなって1年。

戦いがいくつか発生したが、大きな負け戦は無く、国力を徐々に取り戻していった。

それらの戦いにクレスは全て前線で指揮を取っているのであるが、何故王であるクレスが戦場に赴いているのかと言うと幼かった王の跡取りが成長したので替えの王であるクレスが邪魔になった。だがいきなり王を廃嫡するのは印象が悪く、戦場で自然と戦死させた方が良いと考えた上層部の思惑なのである。戦場に行かせ続ければいつかは死ぬだろうと思っていた上層部の思惑はクレスの予想以上の戦の才があったこと、極秘だがクロウ達一族の功もあり予想通りにいかなかったのだが。




そして今日はクレス自身が戦いの際に捕らえた相手国の将相手に尋問を始めようとしていた。


「私をどうするつもりだ」


目の前で縛られている男はフラグニル。

隣国クリストの猛将として有名な人物であり、何度もセレスティアに攻め込もうとして、何度かクレスと直接対決をしたことがある。


「そうだな、お前の命は既に我が手中にある。ここで我が死刑と命じればお前の首を跳ね飛ばす」


「じゃあ死刑と命じるがよい、敵の情けなどいらぬ」


「我ーーいや俺はお前と話し合いがしたい」


と言うとクレスは椅子を背もたれを前にするように向きを変え、自分は背もたれの上に頭を載せ、そして口調もいつもの“アベル”としてではなく“クレス”としての口調に戻した。


「陛下、それはーー」


“不味いのでは?”と言いかけたのをクレスは手を出して遮った。


「いい、こっちの方が話はしやすい。じゃあ話そうかフラグニル」


「何だと?」


先ほどまでは明らかに様子が違うことにフラグニルは驚いた表情を浮かべた。

そんな様子を無視してクレスは続ける。


「ふぅ……確かお前の母君は人質なんだってな?

お前が国を裏切らないための」


「!?」


「ほう、その反応を見ると、図星ってことか」


(前にクロウから聞いていたので助かった……本当にあいつが味方で良かった……)


「それがどうした!!」


「確かお前の父親が数年前に国に反乱を起こそうとしたとかでお前の家は廃絶。でも実はあれってお前の家を潰すために現在の王が仕組んだことらしいな」


クロウから聞いた話だと、この男の家は国でもかなりの力を誇っていた一族だった。それを疎ましく思った現在の王は男の父親を冤罪で処刑し、その上で男の母親を盾にして服従を誓わせている。


「……」


「それであっちの国はお前の母君を人質としてお前に服従を求めた。それにお前は応じ、武勲を上げた。

大方セレスティを滅ぼせば、母を解放してもらえると聞いたんだろ?」


「な、何故それを……」


フラグニルは何故この男がここまで知っているのかと驚きを隠せなかった。そんな様子のフラグニルを見て、悪だくみを思いついた子供の様に笑うクレス。


「一応この国の王なんでね、気になる事は調べるさ。

ーーだがお前尾含めてサピオスの連中の予想を超えて俺達が耐え、それどころか逆に攻め込まれるようになった」


「……」


「で、しびれを切らしたあっちの王様はお前にこう命じたのだろうか“次失敗したら母の命はない”とかな。でなければお前があんな無茶の突進はしないだろう。

いやぁ……あの時は本当に死ぬかと思った」


今回の戦いでセレスティの優勢が決まると、なんとこの男がクレス向かって単騎で突っ込んできた。フラグニルの槍での一撃はクレス自身で耐え、二撃目が来る前にクロウが男が乗っている馬にナイフを刺して、バランスを崩したところにクレス、ゴルドと部下数人で捕らえたのである。


「そうだ……今回の戦いでお前の首を取らないと母上の命がないと言われた。だが今回もお前達は私達の予想を超えた強さを見せたのを見て、せめてお前の首だけでもと思ったのだが……このざま、笑えぬ」


「で、そんな敗将のお前に知らせだ

ーーお前の母君はもう国にはいないぞ」


とクレスが告げるとフラグニルは一気に青ざめた。


「な、何だと……」


「そりゃ、お前負けたんだからあっちの王が許すはずないだろ。

ーー残念だね、あの時素直に撤退していれば助かったかもしれないのにな」


「は、母上……わ、私は……私は……!!」


フラグニルは頭を抱えながらぽろぽろと涙をこぼした。



「……陛下、隠していることございますよね?」


「あっ、分かったか?」


「陛下は隠し事をするとき、少し口角が上がる癖があります」


「……本当か」


自分の表情は自分で見れないのでまさかそんな癖があったとは知らず、少し衝撃だった。


「えぇ、本当です。そしてそろそろ話されては?

このままだと彼自責の念で自ら命を絶ちそうです」


「それは駄目だ。

ーークロウ、入ってこい」


とクレスが呼ぶと部屋の外からクロウと妙齢の女性が入ってきたのだが、その女性を見るや否やフラグニルが驚き、声を上げた。


「は、母上!?」


何故なら目の前にいるのは彼が死んだと思っていた自分の母親だったのだから。さっき死んだと思っていた母親が目の前で生きていることにフラグニルは驚きを隠せなかった。


「主、依頼があった女性を連れて参りました」


「すまん、助かる」


(えっ、一児の……俺と同い年の子供いる割に見た目若くない?)


クレスがそう思うのは仕方ない。

見た目だけならフラグニルより少し年上の女性に見えるからだ。

本当に彼と年がふた回り違うとは到底思えない。

なんて驚いているといつの間にか隣に立っていたクロウが肩を叩いた。


「自分はこれにて」


「あ、あぁ下がってよい」


「御意」


少し困惑しながら答えるとクロウは部屋から出て行った。


「ど、どうしてここに母上が……」


とフラグニルが尋ねると彼の母親が口を開く前に、クレスが答えた。


「俺一言も“母君が死んだ”とは言ってない。さっきお前に言ったのは“お前の母君はもう国にはいないぞ”だ

ーーそりゃそうだ、だってお前の母君はセレスティアにいるんだからクリストにいるはずがない」


今回の戦いが始まる前にクロウの一族数人をクリスト内に侵入させて、フラグニルの母親がいる屋敷を見張っていた。そして監視の目が緩むと母親を屋敷から救出して、ここまで連れ出してきたのである。


「母上……本当に母上なのですか?」


「えぇ貴方の母ですよ、さっき私を連れてきた方々が私を軟禁場所から連れ出してくれて

ごめんなさいフラグニル。私のせいで貴方を苦しませてしまって……」


「いいのです、母上の身がご無事であれば私の苦労など取るに足らないことです……母上……!!」


「どうやら作戦は成功したみたいだな」


「親子の感動の再会ですね、目にこみあげてくるものがあります」


「あぁ」


(と言っても俺には親との記憶がない。だからゴルドみたいな感情を抱けない、そういう感情を抱けるのが羨ましいものだ)


とクレスは物心を付いたころから親との記憶はない。それゆえ“親子”は概念としてしか知らない。

心の中で思っていたことが表情に出ていたのだろうか、ゴルドははっとした表情を浮かべた。


「失礼しました、私としたことが」


「別にいい、この光景は素晴らしいものなのだろう?

ならば俺に気を遣う必要はない」



フラグニルが母と再会をしばらく喜んだ後、彼の母親は城の一室に用意した。仮の住まいが見つかるまではとりあえずその部屋をあてがうことに決めた。

そうして部屋にはクレス、ゴルド、フラグニルが残った。


「アベル様、この度は我が母を助けていただたき大変感謝致します。

この恩は貴方様の手となり足となることで返させていただきます」


と頭を深々と下げて感謝の意を示すフラグニル。


「いいのか、お前の生まれた国を攻めることになるぞ」


これから彼の生まれ故郷を攻めることになるので一応確認をする。


「構いません。元々あの国に忠義はございませぬ故に」


先ほどまでの鬼気迫る顔から一転、憑き物が落ちたかのような清々しい笑顔で返事をする。


「そうか。ならこれからは宜しく頼むぞ、フラグニル」


「はっ、恩に報いるため粉骨砕身の精神で取り組ませていただきます」


(よし、強力な味方を引き抜いた。これでどこまであっちの戦力が落ちるか……)


「アベル様、1つお聞きしたいのですが」


「構わない続けろ」


「何故敵である私の母を助けていただいたのですか……?」


「あぁそれか……そうだな……お前と勝手に好敵手だと思っていたから、好敵手が祖国で酷い扱いをされているのは気に食わなかった、からだな」


クレスはフラグニルと戦いをしている中で彼はあの国には勿体ないと思っており、その戦う理由もクレスにとっては憤慨ものだった。そのため母親を救出したらこちらの方に来てくれるかと思っていたら思い通りになった感じである。


「……」


「どうした?」


「陛下にもう一つお聞きしても宜しいでしょうか?」


「質問ばかりだな、構わん」


「貴方様は王として何がしたいのかをお尋ねしたい」


「俺の行動理由か……」


クレスはフラグニルにそう聞かれ、考えてみる。


(俺が王としてしたい事か……)


「なぁフラグニル、あそこの窓から何が見える?」


とクレスは窓の方を指さした。

指をさした方をフラグニルが見て、答える。


「城下町が見えますが……」


「そうだ、ここからは城下町が見える。無辜の民が生活している城下町がな」


「……」


「俺はこの国を守りたい、民を守りたい、俺に付いてきてくれる仲間を守りたい。

それが俺の行動原理だな……まぁ行動原理と言っていいか分からないが」


と自分でも恥ずかしい事を言っているなと思っているとフラグニルは顔を今日一番輝かせるとクレスの手を握った。


「アベル様。

貴方様の崇高な志、私は感服致しました!!

このフラグニル、なおの事、貴方様の力になりましょう!!」


「あ、あぁ……頼むぞ」


「はい!! お任せあれ!!」


(あっ、戦力は増えたのはいいが扱い、大変そうだなぁ、こいつ)


なんて思いながら隣のゴルドを見るとくつくつと口を隠しながら笑っているのであった。


「それにしても事前に聞いていた噂とは大違いでした」


「噂だと? 一体どのような噂だ?」


「確か“血も涙も無い冷血男”と元の国では言われておりました」


「ふ、ふむ……であるか」


(いや間違ってないぞ、その噂。本来そっちが正しいからな……)


「ですが本日、陛下をお会いしてやはり人の噂はあてにならない事を実感しました」


「そ、そうか。これからも宜しく頼む」


「御意!!」


こうして猛将フラグニルという心強い戦力を得たクレスはその勢いのままクリストに攻め込み、クリストをそのまま領地に併合したのであった。

攻め込むと言ってもフラグニルがクリスト兵に降伏を呼びかけると、殆ど戦らしい戦は起きず併合は平穏に済んだのである。

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