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偽りの王は入れ替わる

いつも恋愛系ばっかり書いていましたが、たまには違うもの書こうと思い書きました。

その知らせは突如本陣に入った。


“王、アベル死す”


それを聞いた上級武官達は驚きのあまり声が出なかった。

今回の戦いのきっかけはアベル王率いるセレスティ王国に強国サピオス王国が攻めてきたことに始まる。


その戦いでアベル王自ら先陣に立ち、敵兵を迎え撃っていたのだが敵陣に深く踏み込み過ぎたのか、敵の流れ弾によって負傷し、そのまま帰らない人となった。

不幸中の幸いなのかサピオス兵と本陣にいる一部の武官以外はアベル王が死んだ事は知らない。


セレスティ王国はアベル以外にも跡取りがいることにはいるがまだ幼く、加えて先代の王もこの前亡くなった。アベルが死んだことが敵国にバレようものなら兵に混乱が生じ、確実に王国は滅ぼされるのは明白だった。王国存続のため、本陣の者達が考えた苦肉の策は王の代役を本当の王として使うことだった。


「分かりました、その命令受け入れましょう」


と返事をしたのはアベル王の代役、クレス。

顔、背格好、声等々、アベルにそっくりの人物はまさに“王の代役”にうってつけだった。

そして幸いなことに彼は天涯孤独な人間であり、素性を知る人間はおらず王の代役となってから人前に立たないようにしていたため、王に代役がいるとは一部の人間以外知らない。


「クレス、頼んだぞ」


「分かった」


(“分かった”以外言えないだろうが!!

でも決まったのだから仕方ないか……)


そうと決まるとクレスの行動は早かった。

すぐさまアベルが来ていた服に着替え馬に乗り、味方の兵の前に出て声高らかに宣言する。


「兵よ、聞くがよい!! 先ほどから我が戦死したと偽の情報が流れている。

だが我アベルはこの様に無事である!! 我らがセレスティ王国に戦いを挑んだことを後悔させてやろうぞ!!」


クレスは表舞台に立たずとも常に王の側にて、王の仕草や話し方などを自分の物にしていた。

そのためこの状況ならアベルがどの様に話すか、動くかは身に染みているのである。


(はぁ……まさか本当に王の代わりを務める事になるとは。出来れば代役のまま人生終えたかった)


なんてクレスが心の中で愚痴るのだが誰も彼の気持ちを知る由はない。

アベルは戦いを好む性格だが、逆にクレスはあまり争いごとが好きではなく寧ろ苦手な方である。

顔、背格好や仕草は同じでもアベルとクレスは性格が真逆だ。

アベルは常に堂々としているが、クレスはどっちかと言うと軽い性格なのである。


(とりあえずこの戦はもう少しで勝てる、あと一押しは俺がやるか)


「皆の者、もう少しで我らの勝ちだ!! 最後まで気を抜くではないぞ!!」


クレス扮したアベルが声高らかに宣言すると一気に活力を取り戻した兵達は敵に対して血気盛んに攻め込むと。元々アベルが戦死したと思って油断していたサピオス王国の兵はその本人が出てきたことが相まって驚き、散々になり撤退していった。敵が去っていくのを確認したクレスは剣を上に掲げ、勝利宣言をした。


「皆の者、見るがいい敵が撤退していくぞ!!

この戦我らの勝利だ!!」


(ふぅ……今回は相手が油断していたから勝てたもの、次回以降はどう対処すればいい?

それにこれから国に戻ったら本物の王が死んだことを悟られないようにしなくては)


元々セレスティ王国とサピオス王国の戦力の差はサピオス王国の方が上であり、次に戦となれば今回の様に勝てるとは思えない。それに国に戻っても今度は王が変わったことを悟られない様に日々を気を付けないといけないのである。もしそのことが露見しようものならクレスは死に、セレスティ王国は混乱に陥り今度こそサピオス王国に攻め落とされる。

兵達が勝利の余韻に浸る中、クレスは1人これからの事に関して不安を抱くのであった。




戦いから数日後、国に戻ったクレスは国に残った者達に今回の戦いは勝利だとの旨を伝える。

勝利と聞いた途端城内は一気に歓声にあふれ、その声は城外まで広がり、その日は国中はお祭り騒ぎだった。


「ふぅ……これからどうすっすかなぁ……」


報告を終えたクレスは自室に戻ると椅子の背もたれに頭を置いて、気だるそうに呟く。

なんせ今まで王の側にいると言っても比較的自由に動けていたのが一転、王として政務や会議に出ないといけなくなり、場によっては発言や決断をしないといけない立場になったのもありクレスは精神的に結構疲れていた。


「陛下、他の物がいないからといって気を抜いてはいけません」


「あぁ、すまないゴルド」


と注意を受けて少し体勢を整えるクレス。

クレスに注意をしたのはゴルドという王の世話をする人物だだ。

勿論この人物は今の目の前にいるのがアベルではない事を知っている数少ない人物である。


「これから貴方はアベル王として生きていくのです。少しの油断も見せてはいけません。

幸いにもこの部屋は私だけですがこれからはお気を付けを」


「分かってる、こっちは命かかっているから気をつけるさ

ーーでも、これから本当にどうするか。相手はサピオス王国……戦力はあっちが上なのは明白だ」


「そうですね……今回はたまたま勝てたからいいですが……次回以降は分かりませんね。

この差をどうするかは貴方の王として腕の見せ所です。助言ぐらいなら行わせていただきます」


と穏やかに微笑むゴルド。

クレスがいきなり王の代わりとして生きていかなくなってしまったことに対して結構同情的だ。

本来なら王になる前に前の王から移行期間があるが、今回のクレスに至ってはその移行期間が全くない状況で突如王になってしまったのだから仕方ない。


「そうは言われてもなぁ……まずは今回の戦いで傷を負った場所の回復だな。それと同時進行で相手の国の情報収集、及び戦力の差をどう埋めるか考えないと……」


(夢じゃないよなぁ、これ。俺の平穏無事な人生はどこにいったのやら……)


とぼやきながらこれからの事を考えるクレスだった。





そうして始まったクレスの代役の王としての生活。

本物の王が死んだことがバレないようにしながら、日々を過ごすのは毎日疲労困憊の状態。

ただ普通に話すや歩くでもアベルならどうするのかと神経を使い行動するので、日々を過ごすのだから今までとは比べ物にないぐらい疲れる。


だがここで幸いだったのがサピオス王国を含めた近隣諸国との目立った戦いが発生しなかったことである。

それにはサピオス王国は前回の戦いで予想以上の損害を受けたのもあるが、クレスが他の国々が攻めてくるとの嘘の情報をサピオス王国内に間者を使って広めた事が良い方向に響いた。


「ふぅ……これでしばらく攻めてこないだろう……」


「王になられてからの数か月でここまでの外交能力を見せるとは合格点どころか満点に近いですよ、陛下」


ゴルドは王の代役であるクレスに同情こそするがあまり期待はしていなかった。だが彼はゴルドの予想を超えた能力で前回の戦いの後処理を済ませた。

このことに対してゴルドは本心で褒めたのだがクレスは自嘲気味に笑いながら口を開く。


「ゴルドはそう言ってくれるかもしれないが、他の皆は俺が陛下だと思っているだろ?

アベルならこれぐらい当たり前だ、所詮俺はこうすることしか出来ない」


「陛下は……いやこの場合は“元”陛下と言った方が宜しいのか。アベル様なら嘘の情報を広めるなんて事はせず、武力で潰そうしますでしょう。

あの戦い以降、殆ど血が流れずに済んでいるのは貴方様の実力と思います」


「だといいが……まだまだ俺は努力し続けないといけない。それが王の代わりとなった者の定めだ」


「その心がけは素晴らしいです。私も精一杯の手助けをさせていただきます」


「あぁ助かる」


とクレスの努力の日々は続くのであった。

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