2.思い出す
視線が痛い。
こんなに至近距離で凝視されるとさすがに恥ずかしくなってくる。
王子様の方をちらりと見ると目が合いにこりと微笑む。
「グレイセド・クリフォードで第一王子だよ。リーゼ嬢、リィと呼んでもいいかな?」
こくりと頷くと、グレイセドが満面の笑みでリーゼを見つめた。
「僕のことはグレイって呼んでね」
くっ…。破壊力すさまじい!まだ同じ5才だと言うのに。
弱いから、、その顔やめてほしい。
顔が熱くなっていくのがわかる。言葉が出ずにこくこくと頷いた。慣れてないからね。前世も彼氏いなかったし、免疫ありません。
ん?……第一王子のグレイセド・クリフォード?
なんか聞いたことある名前だなぁ。
「…………………うわぁぁぁ!素敵なバラが沢山です~!すごーいすごいですね~」
はっ、しまった。
目の前に広がる光景が多種多様のバラたちに埋め尽くされあまりにも素敵で、目を奪われて公爵令嬢らしからぬ声を出してしまった。
あははっとグレイ様の方を見るとくすくすと笑ってる。
「リィは可愛いね」
そう言うと握ってる私の手の甲にキスをした。
えぇぇぇぇ!手…手にキ……キスをされた。
しかも王子様に可愛いなんて言われて顔に熱を帯びていくのがわかる。
顔をみられるのが恥ずかしくて俯いてしまう。
こんな素敵なシチュエーション、小説の中の話みたいだ。
ん?小説?
なにか引っ掛かる。
…………………………あっ!
前世で人気だったゲームの小説にもあったあった!
美形の王子様にイケメン側近達に可愛いヒロインに性格の悪い悪役令嬢と言った王道の物語。
性格は悪いけど悪役令嬢っていつも綺麗で令嬢の鏡みたいな人だよね。
うんうん、婚約破棄されて浮気したのは王子様の方なのに可愛そうと思ってた。
そーいえば、グレイセドって王子様いたなぁ。。
確か悪役令嬢はリー……………………
プルプルと震えてきた。
同じだ!
私の名前が悪役令嬢と…そして手を握っている王子様の名前も。
えっ!えっ。
てことはここはあの小説の物語??
最後には断罪されるのは悪役令嬢…………。
怖い。怖いよ。自分の身に振りかけるなんて……国外追放もお父様やお母様、お兄様たちに会えなくなるのも嫌だ。
ぎゅっと握られてる手に力を込めて瞳からポロポロと涙が溢れだした。
「えっ!どうしたのリィ?」
「……………悪役令嬢」
人前で声を出して泣くなんてダメだとわかってるのに大声を出して泣いてしまった。。
――――――――――――――――――
「落ち着いた?」
こくりと頷いて冷静になって、えーと。。
今の状況に今度はパニックです。
いつの間にかバラに囲まれた長椅子に座って、グレイ様の肩にこてんと頭を寄りかかり、肩を抱かれてる状況って。
いくらパニックになってたとはいえ、何故こうなった。
さっきまでの涙とは別に落ち着きません。
「グッ…グレイ様。も、申し訳ありません。取り乱してしまいました。」
不敬だと思いつつもグイッとグレイ様の胸を押し離れる。
王子様って誰にでもこんな感じなのかな~。
スキンシップ激しいよね。私が慣れてないだけなのかしら。
「何があったか教えてくれる?悪役令嬢?って何?」
どうしよう。。
私まだグレイ様の婚約者じゃない。それにいずれヒロインが現れてグレイ様や側近候補の方達は恋に落ち私は断罪されるんです。なんて不敬罪に当たらないかな。
思い出してしまった以上、断罪は回避したいし誰も陥れたくもない。
なるようにしかならない!女は度胸だ!
拳を膝の上で握りしめ、意を決してグレイ様を見る。
「実は断片的ですが、私には前世の記憶があるんです」
高校までの記憶や恋愛ゲームの物語…詳しくは覚えてないが攻略対象のグレイ様に側近候補の方達。ヒロインと恋に落ちるということ。恐れながら私が婚約者になり先では婚約破棄に断罪をされること。
包み隠さずすべてを話した。
グレイ様は真剣に聞いてくれた。
「悪役令嬢ね…。それが本当なら僕は最低なやつだね。婚約者がいながら他の人となんて。」
それはそうだと思う。
前世でも王子様なのに浮気者ー!!と怒ってたことは覚えてる。
「…なので、回避したいです。これから先婚約候補として私の名前が上がると思います。グレイ様の決断のときに婚約候補者から外してください。私もこれから婚約者にならないようにお父様に言ってみますので……」
ん?
真剣に話してるんだけど…私の手にそっとグレイ様は手を添えてきた。
「なるほど。僕もそんな最低なことしたくないな。リィが悪役令嬢にならないように二人で回避しようね」
「えっ。いやグレイ様にご迷惑をかけないよう一人で奮闘を……」
「僕の側近候補達が誰か思い出せない時点でどうやって回避していくの?出会いのイベント?も思い出せないんだよね?僕が側にいてリィを守ってあげるよ。最低なやつじゃないことを証明して見せるよ」
そうなんだよねー。小説読んでたけど側近候補の名前を思い出せない。
イベントもあるだろうけど、1つも思い出せない。
どう回避していいのかわからないのが現状だ。
「それに、お母様はリィを僕の婚約者にするはずだよ」
「どうして…」
いつ?そんなことに?
唖然としていた私にはグレイ様の『逃がさないからね』の一言は聞こえてなかった。