100.末路
皇太子の執務室で書類に目を通してると突然前触れもなくヴィゴが現れた。
ようやく報告があがったか。
「ヴィゴ報告を頼む。」
俺に一礼をしてヴィゴが報告書を俺に手渡してくる。
読み進めていくと面白いことが記載されている。
「これは本当か?」
「はい。残念ながら本当のことです。」
呆れた顔をして答えたヴィゴを見て、自分もきっと同じ顔をしているだろう。
あの女には確かに修道院よりも恋人だったヴィングと会わせてやるとは言ったが勘違い甚だしいな。
罪が消えたとでも思ったのか……消えるどころか生き地獄だというのに。
「はぁ……報告書よりもヴィゴが見たままを全て話せ。」
「はい。裁判の部屋を出るといきなりニヤニヤと笑いだし罪人の警護に当たっていた騎士達が不気味がっていました。また、綺麗な洋服に着替えたい。身体を洗いたい。などとても罪人の自覚がないような言葉を口にしておりました。誰にも取り繕ってもらえず途中から切り替えたのか、警護に当たっていた騎士を誘惑し始めました。」
落ちるところまで落ちたな。
「騎士に誘惑が通じないとわかると『こんなに可愛い私が言っているのにふざけるな!』と叫びだし相手を罵りだしたので煩く、口を覆う拘束具をつけた後もなお言葉にならない言葉を叫んでいました。あれは全然反省はしておりませんね。裁判での態度は逃れたい、早く終わりたい、の気持ちからおとなしかっただけでしょう。」
反省などしないだろうなと思っていたが酷いな。
「修道院へ連行するときも騒いでいたので拘束具はそのままにしました。計画通り途中で馬車から連れ出し、馬車は隙を見て人がのっていないことを確認後、崖に落とし事故に見せかけ処分済みです。予定通り谷底が見えない深いところだったので捜索も無理でしょう。あの女は煩かったので手足を拘束して担いで連れていきました。」
ヴィゴは女性に対しては普通はどんな残忍な相手だろうと手荒なことはしない。
………相当イラついてたんだな。俺も聞いていて不快でしかない。
前に『リィを断罪してヒロインを俺が選ぶ未来がある』と言っていたがリィ以外を選ぶ人生なんて考えただけで恐ろしい。
俺がこんな女に落ちるとは思えないが………。
「そうか。今頃ヴィングも喜んでいるだろう。」
「はぁ……あの女の何がいいのかわかりかねますが。」
今回のことで会って話したときを思い出してもヴィングは異常ではあったな………。
『シーファをくれるんですか?それは願ってもないですね。はははっ。シーファには珍しく硬派な俺で付き合ってたんですよね~。他の子達はあまりに使いすぎて駄目にしてたので………シーファはそうならないように大事にしていたんですがあのクソ男爵が邪魔しやがって………。あの薬のお陰で俺の悪い部分が出てきたので~大変でしたね。保護ありがとうございます。無差別は良くないですからね~ははは。』
軽い口調だが表情は終始ニタニタと笑って目だけが笑っていない………あれは今まで何度も人を殺めてきた奴の目だ。
もうこいつはここの保護観察からは逃れられないから今の話は半分は聞いてなかったことにするか。
「カヴァル・シーファ嬢は裁判では罪人として刑を言い渡されるだろう。その時にここに連れてくるから後は好きにするがいい。」
「あぁぁぁぁぁ~その日が楽しみだな~。ここでは隠せないからシーファはこんな俺を知ったときどんな表情するか楽しみだな~はははっ。」
「あんな女のどこがいいのか………。」
「あいつ自分のことが大好きで一番可愛いと思ってるんですよね~。外見は可愛い方だとは思うけど決して一番ではないのにプライドが高くて自分を下げれないんだ。そんなあいつを俺の虜にした後に本当は俺から支配されてると気づいたときどんな苦痛の表情をするか考えただけでゾクゾクですよ~。ああいう性格の悪い女をひれ伏せることができる瞬間って堪らないんですよね~はははっ。」
ニタニタしていたヴィングは俺を見てニタァァと笑い今までにないくらい楽しそうに言った。
「お前が生きてることを話したら泣いて喜んでたから可愛がってやるといい。」
「そっか~。あんな下らない付き合いだった俺との思い出を大事にしてたんだね。シーファとこれから一緒に過ごすのが楽しみだな。うんと可愛がってあげないとな~はははっ。」
ヴィングは最後までニタニタ顔を絶やさなかった………あの顔は薬のせいじゃなく元々の性格が薬をきっかけで元に戻らなくなってしまったんだろう。
さて、あの女はヴィング相手にいつまで持つかな。
これから先存分に楽しむといいよヴィング。
あの女には生き地獄だろうがな。