表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火薬のリズムで踊り狂う旋律  作者: 昨壁朋人
2/2

米租界独鶴園

そそのかされた十七を助ける青年と董じぃ。

米租界を堂々と突っ込むが厄介者に目を付けられる?

 黄埔江に沿う狭い道に黒の外車が四台並んで走っている。道には舗装がなく泥道でありながら、人の往来でできたものだ。高貴の身分の者であれば埃や泥で汚れるのが嫌で遠回りするだろう。ただ、この道は人が多く通っていたからこそ、道は平らであり、他のいい加減な舗装をしてある路より断然に良い乗り心地が体験できる。黒の外車の中にいる人達はさぞ楽しいドライブをしているであろうと思うのは川に飛び込んで遊んでいる小童達ですら考えないだろう。

 なぜなのか。

 それは黒の外車に乗っている作業服の大男たちの内に白のジャケットを着た坊主頭の十代の男がいるからだ。上海で奇天烈なジャケットを羽織るのは決まってこの一帯のマフィアである。十年ぐらい前だとジャケットはそれぞれの派閥の縄張りを意識させたり、闘争中で敵味方はっきりさせるためであった。しかし、今は仲間意識や地位の誇示の為のものと化した。そして白のジャケットは米租界を縄張りとする白家に仕える者の証である。その白ジャケットを羽織っている者の目線は約十メートル先に見知らぬ白の外車に向けている。現在の米租界はまだ区域拡大したばかりであり、銀行や商会の建設工事でお偉いさんが来ることはほとんどない時期である。その中で独鶴園の裏口に通ずるこの道で外車を持っている中国人が来るのは怪しいと新参者の坊主頭が尾行すべきだと判断した訳だ。

とは言え灰色ジャケットの青年はこの道を目つぶっても運手出来るほど通っている。もちろん後を付いてきているチンピラどもの事も気づいている。 

 「祥ちゃんよ、後ろの奴らに牌を見せたらどうだい?今は見回りも大事な時期だろ」

 「大丈夫だ董じぃ。お調子者が見回って何も気づきやしないし邪魔なだけだろう。それに奴らはまだ俺らがどこぞの商会や銀行の者である可能性があるから何もしてこないだろう。夕陽坂を通るまではな!」

 そう青年が言うと同時に白の外車が一気に【夕陽坂】と記した短いトンネルを駆け抜けた。それからすぐに黒い四台の車が二手に分かれて加速した。

 「マズイ!【裏】に回り込まれたら俺たちの命がねぇぞ!一条イーティアォ二瓶アービンは正門から裏庭に入って待機しろ!」

坊主頭が指示を出すと同時に作業服の大男達はメリケンサックや金槌を手にした。急カーブの坂に上ると坊主頭の手には女性用の小さいリボルバーをフロントガラスに向けた。

 「もっとスピードを上げろ!車止められなかったらテメ!」

 何か言いかけた坊主頭が後部座席からフロントガラスをブチ破ってに飛んで行った。

 

 独鶴園はかつて本草園と呼ばれていた歴史のある漢方薬の老舗であった。その昔代々帝に仕える薬師を多く排出し、数多の功績を積み重ね、「黄浦江口に本草園あり、これ得て(たみ)太平なり」と権力者の間で言われてきた。しかし、幾度も乱世の中で生き残り、82代に渡り受け継がれてきた老舗は西洋医学と外灘にて集いし梟雄共の圧力によりかつて無い程の危機の中に瀕した。その上先代当主の急死により、成人すらしていない若君が千余りの部下の頭領という重荷を背負わせざるを得ない窮地にあった。

 しかし、僅か15の華奢な若頭が度重なる交渉術により


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ